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MLBのシンデレラストーリー! アスレチックスがゲームで球速154キロを叩き出した青年と正式契約

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
パターソン氏のアスレチックス入りを報じるMLB公式サイト

【SNSに投稿された動画をアスレチックスが注目】

 MLB公式サイトが1日に報じたところによると、アスレチックスがつい最近、1人の青年と契約を結んだという。

 すでに6月に行われたドラフト指名選手の交渉期間は終了しているので、この選手がドラフト外の獲得であるのは理解できる。

 だが記事を読む限り、今回契約した選手の名前が「ネーサン・パターソン」だということと、年齢が23歳だということが記されているだけで、これまでの経歴を含め選手としての詳細が一切紹介されていない、まさに謎だらけの選手なのだ。

 だが1つだけはっきりしていることは、アスレチックスがパターソン氏と契約するに至ったのがSNSに投稿された動画がきっかけだったということだ。

【ロッキーズ戦でスピードガン・チャレンジに挑戦】

 パターソン氏はアスレチックスと契約するまで、いわゆる普通の“一般人”だった。そして単なる野球ファンとして、7月19日に兄弟と連れ立ってロッキーズ戦を観戦するためクアーズ・フィールドを訪れていた。

 MLBの球場では珍しくないのだが、クアーズ・フィールドにもファンが参加できる様々な体感ゲームが設置されている。その中の1つに、米では人気が高い自分の球速を計測できるスピードガン・チャレンジというゲームがあるのだが、パターソン氏が挑戦してみたところ、何と最速で96マイル(約154キロ)を計測したのだ。

 この場面を撮影していた兄弟のクリスチャン・パターソン氏が早速「MLBさん、彼と契約しよう」というメッセージを添えて、動画をツイッターに投稿。この動画は再生回数が現時点で20万回を超えるほどの話題になり、ネット上に拡散されていった。

【MLB界のシンデレラストーリー】

 動画を確認してもらうと理解できるように、パターソン氏は全部で6球を投げ、最初の1球だけ90マイル(約145キロ)だったが、残りの5球はすべて94~96マイル(約151~154キロ)を計測。彼の球威が本物だということを示している。

 そしてこの動画に注目したアスレチックスが、動画が投稿されたわずか2週間後にパターソン氏とスピード契約を結んだというわけだ。まさか動画を投稿した時点で、兄弟も本気で「MLBさん、彼と契約しよう」と書き込んだとは思えないが、まさかの急展開で現実のものとなってしまったのだ。

 MLB各チームはこれまでも、ドラフトの他に各地でトライアウトを実施し、若手選手の発掘に積極的に取り組んできた。だがSNSに投稿された動画に着目し、獲得に動いたというのはほとんど聞いたことがない。

 もちろん当の本人も、こんなかたちでMLB球団と契約できるとは思っていなかったはずだ。彼自身もインスタグラムに、アスレチックスの球団施設で契約書にサインする姿や自分に与えられたロッカーの写真を投稿し、感激ぶりを表している。

 あくまでゲームで150キロ以上の球速を計測しただけだ。果たして実際にマウンドから投げて同じ球速を出せるのかも分からないし、どこまで制球力があるのかも未知数だ。果たしてパターソン氏はどこまで活躍することができるのか、実に興味深いところだ。

 いずれせよ今回の一件は、MLB界の“シンデレラストーリー”と呼ぶに相応しいエピソードではないだろか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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