EUの技術革新戦略 米中依存脱却へ、ノルウェーのユニークな道筋
欧州連合(EU)は最近、欧州の競争力に関する報告書を発表した。この報告書では、特に「米国や中国との技術革新の格差を縮める」ことが重要な課題として挙げられている。
ノルウェー政府が運営する機関「イノベーション・ノルウェー」のハウグリCEOは、EU非加盟国であるノルウェーもイノベーションの面で米国や中国に遅れを取っているという事実があり、「欧州他国と同じ船に乗っている」と述べた。
石油・ガス産業国の焦り
「北欧諸国の中で、ユニコーン企業数で2位にランクインしているのはノルウェーですが、ノルウェーの課題は、近隣諸国よりもはるかに大きい。なぜなら、今後20~50年の間に、最も収益性の高い産業である石油・ガス産業を他の産業に置き換える必要があるからです」
この大きな転換期において、ノルウェーの立場はまたも特異であり、いくつかの強みを持っている。
「欧州は鉱物資源やセンサー、バッテリー技術に関して、アジア、特に中国への依存が深いという課題がある中で、ノルウェーは豊富な天然資だけではなく、イノベーションの原動力を多角的に持っています」
「ノルウェーは海洋関連のイノベーション、つまりグリーン技術に関しては、世界をリードしています。またエネルギーに関してはスーパーパワーを持っています。水力発電に関しては120年、石油や天然ガスに関しては70~80年の経験があります。 太陽光、風力、波力というこれらのエネルギー源を結びつけるあらゆる分野において、トップクラスの企業があります」
「ですから、欧州がエネルギー解決策を模索している際、ノルウェーの立場は欧州の近隣諸国とは若干異なります。ノルウェーは供給する側にあるのです」
欧州や北欧のイノベーションを知ろうとするとき、「ノルウェーという国は若干異なる課題を抱え、異なる場所にある」という理解はとても大切だとハウグリさんは繰り返した。
ノルウェーは政権交代が頻繁に起きる国だが、それでも国主導でエコシステムを育てていこうという方針は変わらない。その中心地のひとつとなっているのが、首都オスロだ。
イノベーションを生む首都オスロ
現在、首都ではオスロ・イノベーション・ウィークが開催されており、世界中から記者が集まっている。
オスロ市の魅力について、アニータ・ライルヴィーク・ノースさん(保守党)、市の文化・産業の責任者は、「EVだけではない」と述べた。
- 主要大学や研究機関と連携するオスロ・サイエンスシティは、知識主導型成長の拠点となっている
- 循環型ビジネスと廃棄物削減やグリーンモビリティのビジネスモデルの実験場としての役割を担っている
- 2009年水準と比較して、2030年までに気候ガス排出量を95%削減する目標を掲げる
- 市の気候ガスを排出する活動が、自治体予算内で「気候予算」として数値測定されている
- 公共部門、民間企業、学術機関、そして市民が協力して成り立つ「官民連携」や「協働の文化」が、スタートアップ企業や成長企業に資金援助する国や自治体とともに、オスロの革新的なエコシステムを育てている
AIを搭載した農業用ロボット
オスロ・イノベーション・ウィークでは、最も先駆的なスケールアップ企業を表彰している。
今年は、イチゴやブドウの生産におけるうどんこ病防除のためのUV-C処理、収量予測のための花と果実のカウント、捕食性ダニの分配、ランナーカット作業をする自律型マシン「Saga Robotics」が選ばれた。このイノベーションは、農業技術の進歩に大きく寄与している。
執筆後記
オスロ市というとEV普及の実験地として世界的には知られているが、北欧他国と同じように、今急いで自国の自立力を育てようと必死だ。石油を掘る国という責任を背負いながら、技術革新と環境保全を両立させる先進的な取り組みに挑んでいる。