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デュピルマブからJAK阻害剤への切り替え - アトピー性皮膚炎患者の治療成績

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢 - JAK阻害剤の登場】

近年、アトピー性皮膚炎の治療選択肢が大きく広がっています。その中でも注目されているのが、JAK阻害剤です。JAK阻害剤は、免疫反応に関わるJAKというタンパク質の働きを抑えることで、炎症を鎮める効果があります。

従来のアトピー性皮膚炎治療では、ステロイド外用薬や保湿剤、免疫抑制剤などが使われてきました。しかし、中等症から重症の患者さんの中には、これらの治療で十分な効果が得られない場合があります。そこで登場したのが、生物学的製剤のデュピルマブとJAK阻害剤なのです。

【デュピルマブからJAK阻害剤への切り替えの有効性】

デュピルマブは、IL-4とIL-13という炎症を引き起こすタンパク質の働きを抑える生物学的製剤です。多くの患者さんで高い効果が認められていますが、中にはデュピルマブでも十分な改善が得られない場合があります。

そんな時、JAK阻害剤への切り替えが有効である可能性が示されています。今回の研究では、デュピルマブを使用した後にJAK阻害剤に切り替えた518人の患者さんを対象に、治療成績を調査しました。

その結果、ウパダシチニブでは301人中228人(75.7%)、アブロシチニブでは212人中123人(58%)、バリシチニブでは5人中4人(80%)の患者さんで症状の改善が見られました。特に、デュピルマブではEASI75(皮疹の程度を示すスコアが75%以上改善)を達成できなかった151人の患者さんのうち、105人(69.5%)がJAK阻害剤でEASI75を達成しています。この結果から、デュピルマブで効果不十分な場合、JAK阻害剤への切り替えが有効な選択肢の一つと考えられます。

【JAK阻害剤の安全性と注意点】

JAK阻害剤の治療効果が期待される一方で、安全性への配慮も欠かせません。この研究では、JAK阻害剤使用に伴う副作用も報告されています。最も多かったのはニキビ(84人中19人、22.6%)と鼻咽頭炎(84人中17人、20.2%)でした。

ただし、重大な副作用の報告はなく、全体的に安全性は高いと考えられます。とはいえ、JAK阻害剤は免疫機能に影響を与える薬剤です。感染症のリスクがあるため、使用にあたっては医師との相談が不可欠です。

【まとめ】

アトピー性皮膚炎治療において、JAK阻害剤はデュピルマブとともに重要な選択肢となりつつあります。特にデュピルマブで効果不十分な場合、JAK阻害剤への切り替えが有効である可能性が示されました。一方で、JAK阻害剤の安全性と副作用にも注意が必要です。

アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う慢性の炎症性皮膚疾患です。患者さんの生活の質を大きく損ねる可能性があるため、適切な治療が不可欠です。JAK阻害剤の登場により、より多くの選択肢が広がったことは喜ばしいことです。症状や生活への影響、副作用のリスクなどを総合的に考慮し、医師と相談しながら最適な治療法を選択していくことが大切です。

参考文献:

Sood S, Bagit A, Heung M, et al. Outcomes of systemic Janus kinase inhibitors following prior dupilumab use for atopic dermatitis: An evidence-based review. JAAD Int. 2024;16:31-33. https://doi.org/10.1016/j.jdin.2024.03.023

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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