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バウアーとの大型契約に隠されたドジャースにも利があるように仕組まれたアンドリュー・フリードマンの計略

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ドジャースは年俸総額の負担を減らしながらトレバー・バウアー投手の獲得に成功(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【バウアー投手の大型契約の詳細が明らかに】

 すでに米主要メディアが報じていたように、ドジャースは現地時間の2月11日に、今オフ最大のFA選手だったトレバー・バウアー投手の獲得を正式発表している。

 契約内容についても正式発表前からメディアが掴んでおり、3年契約で年俸総額は1億200万ドル。その内訳は1年目が4000万ドル、2年目が4500万ドルとなり、さらにバウアー投手は、各シーンズン終了後にオプトアウト(契約解除)できる権利を有しているというものだ。

 またこの金額を元に、バウアー投手は今シーズンと来シーズンに、MLB最高年俸を得られると報じられもした。

 だがドジャースの編成部門の責任者は、MLB屈指の敏腕で知られるアンドリュー・フリードマン社長だ。4000万ドル、4500万ドルという年俸は明らかに年俸総額を圧迫する額であり、やはり彼がそんなミスを犯すはずはなかった。

 改めて複数の米メディアが報じたところによれば、契約金と契約解除料を巧みに利用した、実に工夫された契約内容であることが判明した。

【基本年俸は最高で3200万ドル】

 まず年俸総額の正確な内訳は、契約金として1000万ドルが支払われ、各シーズンの基本年俸は、今シーズンが2800万ドル、来シーズンと2023年シーズンがそれぞれ3200万ドルというもので、報道にあるように4000万ドルを超えるシーズンはまったく存在していなかった。

 ただこれは基本的な契約部分であり、実質的な内容を見てみると、やはりバウアー投手が4000万ドル以上の金額を受け取れるようになっているのだ。

 まずバウアー投手がシーズン1年目でオプトアウトした場合を考えてみよう。現時点で支払いが保証されているのは契約金と基本年俸であり、その総額は3800万ドルになる。さらにオプトアウトすると、チームから契約解除料として200万ドル支払われることになり、結果として4000万ドルを受け取ることになる。

 次に来シーズン終了後に、オプトアウトした場合だ。基本年俸は3200万ドルでしかないが、2年目の契約解除料は1500万ドルに設定されている。ということでバウアー投手は、計4700万ドルを受け取れることになる。

 これでは報道されていた額とは違ってきてしまうと思われるかもしれない。そこでシーズン1年目と2年目の総額で考えてほしい。

 来シーズン終了後にオプトアウトした場合で、バウアー投手が2年間で受け取る総額は、シーズン1年目の3800万ドルと、シーズン2年目の基本給3200万ドルに契約解除料の1500万ドルなので、その総額は8500万ドルになる。まさに報じられていた額とピッタリ同額なのだ。

【年俸総額を圧迫せずにバウアー投手の希望に添う】

 如何だろう。今回の契約内容は報道にあったように、バウアー投手に1年目、2年目ともに高額年俸が保証されている一方で、ドジャース側もしっかり各シーズンの年俸総額を圧迫しないように、最高で3200万ドルに抑えることに成功しているのだ。

 これこそがフリードマン社長が敏腕と言われる所以なのだ。

 実際バウアー投手の今シーズンの年俸を2800万ドルに抑えたことで、ドジャースはジャスティン・ターナー選手との再契約にも成功している。またこの契約に関しても契約金が含まれており、同じく年俸総額を抑える工夫がなされているのだ。

【過去2シーズンはぜいたく税の対象外】

 ドジャースといえば、ヤンキースのように潤沢な資金を使い、大物選手を集め黄金期を築き上げ、地区優勝8連覇、さらには昨シーズン32年ぶりのワールドシリーズ制覇を達成したと考えられているような気がする。

 ところがフリードマン社長が2014年12月にドジャースのフロント陣に加わってからは、大胆な選手入れ替えと年俸総額の削減に着手し、チームが勝てる戦力を維持しながらも、3年で年俸総額を約2700万ドルの縮小に成功し、2018年以降はぜいたく税の対象外になっているのだ(2020年は短縮シーズンだったため全チームがぜいたく税を免除)。

 今シーズンに関しては、すでにぜいたく税枠の2億1000万ドルを上回っているようだが、クレイトン・カーショー投手(3100万ドル)、ケンリー・ジャンセン投手(2000万ドル)が契約最終年を迎えており、来オフは改めてフレキシブルに対応できる状態にある。

 余談ではあるがついでに追記しておくと、レッドソックスからトレードで獲得したデビッド・プライス投手の年俸に関しても、残り契約の総額9300万ドルのうち、ドジャースが負担するのは約半額の4800万ドルでしかないのだ。

 まさに今回の契約は、ドジャース、バウアー投手双方に利がある、敏腕フリードマン社長ならではの妙だったようだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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