GW明けに増える離婚相談!離婚ではなく「卒婚」という選択肢も【弁護士が解説】
1 はじめに
私は兵庫県西宮市で家事事件を中心に扱う法律事務所を経営している弁護士ですが、GWが明けた後は、離婚相談が一気に増えます。
帰省や旅行など、夫と一緒に過ごす時間が増えることで妻の不満が爆発しがちなGW明けのこの時期は、夫が妻から離婚を切り出されやすい時期の一つでもあります。
そんな急な離婚相談で、最近、私が提案することがあるのが「卒婚」です。
「卒婚」とは、2004年に出版された『卒婚のススメ』(杉山由美子著)で使用された言葉であり、杉山さんの造語です。
「卒婚」とは離婚はせずに婚姻関係を維持しつつ、夫婦がお互い自由に生活していくことを指しており、ハルメクWebが実施したアンケートによると「卒婚」肯定派が66.7%で「卒婚」否定派を上回るという調査結果が出ています。
https://halmek.co.jp/culture/c/love/4819
実のところ、「卒婚」には、急に切り出された望まない離婚を回避できる等のメリットもある反面、意外な落とし穴もあります。
実際に「卒婚」をする人はまだまだ少ないと思われますので、今回は、「卒婚」について解説したいと思います。
2 「卒婚」が離婚危機の応急措置に?
まず、法律相談に来られたA夫さん(59歳会社員)のケースをご紹介しましょう(※弁護士の守秘義務の関係上、相談内容を一部変更しています)。
A夫さんは、定年退職を目前にして、妻から突然、離婚を切り出されました。
退職金が出たら夫婦2人でゆっくり旅行でもしようかと考えていたA夫さんにとって、妻からの離婚の申し出は青天の霹靂でした。
何が理由かと尋ねるA夫さんに、妻は「簡単に言うと性格の不一致です。40年間ずっと我慢していたけど、もう我慢の限界なんです」と言うだけで、具体的な理由を説明しないまま、さっさと家を出てしまいました。
途方にくれたA夫さんは、離婚を覚悟して、当事務所に法律相談に来られました。
A夫さんは意気消沈した様子で、現在、妻からは離婚届にサインを迫られており、サインしなければ弁護士を雇って離婚裁判を起こすと言われているとのことでした。
そもそも離婚裁判は、離婚調停を経ないと提起できません(「調停前置主義」と言います)。
また、民法に規定されている離婚原因がない場合は、別居してすぐに離婚が認められることはなく、一定の年数の別居期間が必要です(平均して3年程度の別居期間が必要とされています)。
そのことを説明するとA夫さんは少しホッとした様子でしたが、一定期間の猶予はあるものの、やはり離婚は避けられないものでしょうかと悲しそうに尋ねられました。
そこで、奥さまのお気持ちが固い場合には難しいかもしれませんが、一度「卒婚」を提案してみてはいかがでしょうか?とアドバイスしました。
「卒婚」のメリットは次のようなものがあります。
3 「卒婚」のメリットとは?
① 面倒な手続が不要
離婚をすると、姓を変えたり、名義を変えたりする手続きが必要ですが、「卒婚」は婚姻関係が継続したままなので、面倒な手続は一切不要です。
相続関係もそのまま維持されるので、相続人からも外れませんし、財産分与などの損得勘定に頭を悩ます必要もありません。
② 家族関係は維持したまま
「卒婚」しても家族であることには変わりはありません。子供や孫とのイベントがあれば、一緒に楽しむこともできます。
③ 世間体を保てるし、子供も傷つけない
離婚をすると親族や友人に説明が必要ですが、「卒婚」ではアナウンスは不要。冠婚葬祭にも同行することができます。
また離婚よりも、比較的子供の理解が得られやすいと言えます。
④ 一度「卒婚」を試してみて、嫌なら離婚すればいいし、気が向けば元に戻ることもできる
つまり、「お試し」で数年間だけ「卒婚」をしてみることも可能なのです。
A夫さんは、これらの「卒婚のメリット」を具体的に奥さまに説明したところ、奥さまも3年間という限定つきで「卒婚」に同意をしてくれたそうです。
3年後にどうなるかわかりませんが、A夫さんは「3年間を有意義に過ごし、仮に離婚になっても悔いが残らないようにします」とのことでした。
4 「卒婚」のデメリットとは?
とは言え、「卒婚」はメリットだけではありません。
「卒婚」のデメリットは以下のようなものがあります。
① 新しいパートナーが作りにくい
婚姻関係を継続している間に新しいパートナーを作った場合には、不貞行為になる可能性があります。その点、離婚とは違い、完全な自由とは言えません。
② 十分な生活費がないと生活が難しい
「卒婚」には、同居したまま不干渉とする『家庭内卒婚』と、別居してそれぞれが生活する『別居卒婚』があります。
『別居卒婚』では、家賃や光熱費、通信費などの生活費がかかってきますので、同居していた時よりも負担は大きくなります。
③「卒婚」の落とし穴!完全な離婚につながることも多い
もともとうまくいっていた夫婦の一方が「卒婚」をしたいと言って別居した場合は、相手の理解が得られず、結果的に離婚になってしまう危険性があります。これが「卒婚の落とし穴」です。
例えば、妻側が離婚の意図は全くないまま、自由な生活を希望して「卒婚」をした場合、時間が経過すればするほど夫の不満は蓄積して行きます。
そもそもこのようなケースの「卒婚」は妻が自由になる反面、夫は家事などで生活が不自由になるため、新たなパートナーを探したり、浮気に走ったりしがちなのです。
意図していなかった離婚争議に発展した結果、特に金銭的な問題で様々な苦労を強いられるケースも存在しています。
ですから、「卒婚」を選択する場合は、この「離婚に発展するリスク」を頭に入れた上で、慎重に行動する必要があります。
④子供に迷惑をかけてしまう
親が『別居卒婚』を望んだ場合、子供にデメリットがあることは意外と知られていません。
たとえば、介護費用がダブルになったり、もしものときに発見が遅れたり…。
親の「卒婚」は、子供にも大いに影響がある問題なのです。
対策としては、「卒婚」をした後で子供に経済的に頼ったりしないように、親同士で経済面について十分に話し合い、準備をしておくこと。
また、当人同士の話し合いでは見通しが甘くなることもあるため、子供側にも話し合いに参加してもらいながら経済面での計画書を作成するといいかもしれません。
安全面での対策としては、子どもが両親に定期的に連絡することを取り決めたり、見守りサービス等を利用したりすることが挙げられます。
子供からすると「卒婚なんて面倒なことを言わなきゃいいのに…」と言った不満も出てくると思いますが、「卒婚」によって得られるメリットもありますし、ご両親が最後まで豊かな人生を送れるようにできるだけ協力していただきたいものです。
5 おわりに
夫婦関係が上手くいかなくなった時、我慢するか離婚するかの二択で考えるのではなく「卒婚」という新しい選択肢を検討してみることで結果的に離婚が回避でき、豊かな人生に繋がる場合があります。
夫婦の形も時代が変わるにつれ多様になって来ており、従来の形にとらわれる必要はないのです。
とは言え、「卒婚」にはデメリットもあることは事実。
「離婚」するか、それとも「卒婚」するか―迷ったときは早めに専門家に相談することをお勧めします。