ドラフト目前の153キロ右腕・長谷川凌汰(BC・新潟)が“あの場所“で1年間の成長の跡を見せた
■自己最速153キロを出した球場で
同じ場所に立っているのに、1年前とはまるで違う景色に見えた。
「やっぱ落ち着いていた。1年間やってきたっていう自信も、どこかにあったからかな」。
昨年の自分とは違う。その手には、この1年で培ってきた“たしかなもの”が握られている。
新潟アルビレックスBCの長谷川凌汰投手はオセアンバファローズスタジアム舞洲で、昨年より一段と飛躍した姿を披露した。
ここは特別な球場だ。昨年ここで、自己最速の153キロを計測した。今回と同じBCリーグ選抜試合だった。
周囲はどよめき、「ドラフト指名確実だ」と騒いだ。自身もこれでNPB入りを手中に収めたかと思った。
ところがドラフト会議当日、長谷川投手の名前が呼ばれることはなかった―。
今ならわかる。
「去年は速い球を投げさえすればNPBに行けるんじゃないかと思っていた。“対バッター”っていうよりは“対自分”、自分が気持ちいい投げ方で、自分の納得いくボールを投げることに執着していた。去年の153キロは正直、自分の実力以上のものが出たと思っている」。
そう、冷静に振り返ることができる。
だが、今年は違う。しっかり「打者と」対戦してきた。
相手を観察し、感じ、配球や間合いなど工夫し、フィジカルや技術面もより進化させるべく取り組んできた。山も谷も経験し、その都度、課題を見つけて克服してきた。
ときに打者との勝負を楽しめることすらあった。その集大成が今年のBCリーグ選抜試合だった。
■読売ジャイアンツ3軍戦
1戦目と2戦目は読売ジャイアンツ3軍との対戦で、いずれも九回にリリーフとして連投した。
このあと、オリックス・バファローズのファームとの一戦では先発することになっている。スカウトが見る前で、3試合それぞれ違うものを披露しようと考えた。
まず9月19日の1戦目では、13球すべてストレートだった。内野ゴロ2つと見逃し三振で簡単に3つのアウトを取った。
「坂本(竜三郎捕手=福井ミラクルエレファンツ)から『どうしますか?』と訊かれて、今日全部見せちゃったら明日ちょっとしんどくなると思ったから、できるだけまっすぐで押せるところまで押してって話をしていたら…」。
配球は坂本捕手に任せることにした。すると、ストレートに手応えを感じたようで、出されたサインは最後までストレートだった。
この日の最速は150キロだったが、数字よりも球質やコントロールをもっと上げていけると感じた。やや抜ける球が気になったので、目いっぱい腕が振れなかったのだ。
「ちょっとシュートしながら右上に抜ける球、あれ狙って投げてないんで。あれ狙って投げられたらいいんだけど(笑)」。
だが、すぐに修正することは可能だった。
翌2戦目、試合前に「違ったところを見せられたら。決め球でインパクトを与えたい」と、今日こそは変化球も交えると宣言していた。
「決してまっすぐだけでどんどんいくピッチャーではないので、総合力で評価してもらえるようなピッチングをしないといけない」。
前日をさらに上回る投球を誓った。
前日は久々のリリーフにやや慌てたことも明かす。
「去年もやってたんで懐かしいなと思いながら、でもバタバタした。八回の松岡(洸希投手=埼玉武蔵ヒートベアーズ)が3人で終わって、すごい早かったんで、あーっと思って(笑)。もうちょっと早めに準備しないと」。
万全な準備で臨み、結果も上々だった。
1人目は、ストレートを2球続けてファウルと見逃しで追い込むと、スライダーで空振り三振を奪った。
2人目は、初球の「もう少し落としたかったけど」というフォークを打ち上げさせて、三飛に抑えた。
3人目は、ストレート2球が外れ2ボールとなったが、3球目の結果球も147キロのストレートで、詰まらせて左飛に打ち取った。
「ベースはまっすぐでしっかり投げきること。相手はまっすぐタイミングで絶対入ってくるので、その中で昨日は使ってない変化球を使う。そこをしっかり頭の中でイメージしながらマウンドに立てたかなと思う。まっすぐもしっかり低めに投げられた」。
ただ、簡単に抑えてしまったため球数がわずかに7球と、もう少し色々試したかったという贅沢な悩みが生じた。
ストレートで空振りやファウルが取れたりと強さは見せられた。カウントを有利にして勝負するなど、やりたいこともできた。
しかし「インパクトという部分ではもう少し…」と、スピードや三者連続三振など、鮮烈なものも見せたかったと唇を噛んだ。
「まだ改善の余地はある。そこはもっともっと詰めてできたら」と、次週のバファローズ戦に目を向けた。
■オリックス・バファローズのファーム
そして9月25日、1年ぶりにやってきた舞洲で先発マウンドに上がった。3イニングスとショートということもあり、全力で飛ばした。
初回、先頭は2球で追い込みながらも9球粘られた末に四球で歩かせてしまった。ランナーを背負いながらも2番を空振り三振、3番を中飛、4番のところで喜多亮太捕手がランナーを刺してくれた。
二回、三回は最速149キロのストレートを軸に変化球も織り交ぜ、3人ずつで終えた。
ジャイアンツ3軍とは明らかに相手のレベルが違った。
「(名前を)知ってるバッターがたくさんいた。野球が好きなんで(笑)、いろいろ調べていく中で名前が出てくる選手たちがズラッと並んでいるのを見て、嫌でも意識した」。
相手打線を見ると、若手選手に混じって松井佑介、杉本裕太郎、T―岡田、白崎浩之、頓宮裕真ら、そうそうたるメンツが顔を揃えていた。
「一発がある、こういう選手を抑えていかないと、僕の評価は上がらない。いかにして抑えるか、そこだけに集中して、“対バッター”っていうのを考えながら投げた。コースや高さを間違えないようにって」。
対戦結果は松井選手が右飛、杉本選手が捕邪飛、T―岡田選手が遊飛、白崎選手は二ゴロ。そして頓宮選手は148キロで空振り三振に仕留めた。
強打者たちに臆せず向かっていき、しっかり勝負できたことに充足感が広がった。
改めて振り返った。
「自分が持ってる実力以上のものは出ないと思ったんで、そこは背伸びせずというか、自分ができることを精一杯やろう思った。低めを意識して投げたので、大きなコントロールミスもなく抑えられた。凡打で終われたので、そこは自分としては手応えがあった」。
ファームとはいえ、1軍クラスの選手も並ぶ打線を相手に3回を無安打、無失点は申し分ないデキだ。
それでも反省の弁を口にする。
「ずっと課題って言ってきた変化球の強さだったり曲がりだったりっていうのは、やっぱりまだ足りない。BCのシーズン中も上のレベルを想定してやってきたつもりだったけど、NPB相手では見極められた球も多々あった。向こうも初見だし、これがシーズンってなってくると今の実力じゃどうなのかっていうのはすごく感じた」。
常に自己分析は冷静である。
たとえば決め球だ。2ストライクまでは簡単にいっても、空振り三振を狙ってタイミングを崩そうと投げたボールが見切られる。BCのシーズン中なら振ってくれたボールが、だ。
「見極められ方も、全然振りにこないノーチャンスな見極められ方で、マウンド上で僕、『あぁ、しんどいな』って何回かつぶやいちゃった(笑)」。
■まだまだ伸びしろがある自分に期待
変化球のさらなる精度アップは必須だと痛感した。
「まっすぐと同じ軌道で、同じライン上に変化球が入ってこないと。やっぱりまっすぐと間違えるから振るわけだから。あと、腕の振りも」。
しかし逆に、そこが自身の伸びしろでもあるととらえている。まだまだレベルアップできると、自らに期待がもてる。
「やっぱ想定ができないところだから、自分より上のレベルって」。
BCリーグの中だけではわからなかったNPBの1軍クラスのレベルも、対戦して初めて知ることができた。
大きな収穫が得られたことがよほど嬉しかったのか、ニコッと“チャームポイント”であるエクボを見せた。
「振り返りと反省とをしっかりして問題を潰していけば、また来年、レベルアップできると思っている。来シーズンに向けて、もう始めないといけない」。
運命の日を前に、自身の中ではすでに“長谷川凌汰レベルアップ大作戦”が進行中だ。
「もうちょっとベースを上げれば、もっともっとうまくなると思う」。
来季、レベルアップした長谷川投手の姿が見られるのは、NPBの舞台であることを願ってやまない。
【長谷川 凌汰(はせがわ りょうた)*プロフィール】
1995年11月8日生(23歳)/福井県出身
188cm・97kg/右投左打/A型
福井商業高校→龍谷大学→新潟アルビレックスBC(2018~)
《球種》ストレート、フォーク、スライダー、カットボール
《最速》153キロ
【長谷川 凌汰*今季成績】
22試合 11勝1敗 完投4 完封2 118・2/3回 被安打99 被本塁打3 奪三振105 与四球28 与死球4 失点37 自責27 暴投3 ボーク1 失策2 防御率2.05
*防御率 リーグ4位、勝利数 同4位タイ、奪三振数 同4位
(撮影はすべて筆者)
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