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「ちょっと咳を抑えたいとき」 効果的な方法は?

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

コロナ禍では咳が出ると感染症ではないかということでヤキモキする人が多かったと思います。長引く咳の場合、呼吸器内科を受診していただきたいところですが、「受診するほどでもないが咳を抑えたい」ときに何かよい対処法はないのか、私見を踏まえて書きたいと思います。

咳が出やすい体質がある

まず、3週間を超えて咳が続く場合、病的な原因がある可能性が高いので、病院を受診するようにしてください。これは重要なことなので、最初に書いておきます。

さて、世の中には咳が出やすい体質の人が一定数います。喘息や咳喘息などの病気と診断されたわけではなく、温度や湿度の変化、会話、運動時などに、少し咳が出やすいというレベルの人が存在します。

これは、人によって咳の神経の反応に差があるためで、耳かきをするときに咳が出てしまう「アーノルド神経反射」を起こしやすい人がいるのと同じです(1)。

こういう咳体質は、女性に多いとされています(図1)(2)。性ホルモンが影響するという説もありますが、理由はよく分かっていません。

図1. 「長引く咳」の性差(参考資料2より引用)
図1. 「長引く咳」の性差(参考資料2より引用)

さて、呼吸器外来には、「咳が連続して出ることがあるんですが、止める方法はないでしょうか?」という人が受診してくることがあります。

何かよい対処法はあるでしょうか?

咳払いの回数と強さを抑える

対策の1つ目です。あまり強く・連続して咳払いしないようにしてください。大きな咳をするほど、気管支に負担がかかり、「次の咳が出やすくなる」という悪循環に陥ります。

これは皮膚がかゆくなったときにボリボリと掻き続けていると、さらなるかゆみを招きやすくなるのと似た原理です。

「咳を強めにすることで、エヘン虫を追い出す」というイメージがあるかもしれませんが、出さなくてもよい咳を無理に出したり、連続して咳を続けると、気管支がむくんだり炎症を起こしやすくなったりします。

加湿する

対策の2つ目は加湿です。外出時は咳込んでいたのに、お風呂に入るとピタリと止まった経験はないでしょうか。

即効性があるかどうかは病態によりますが、咳に対して、基本的に加湿は有効です。

湿度が低い外出時でも、咳が気になるならマスクを着用しているほうが咽頭~肺の湿度は保ちやすいと思います。咳が出やすい人は、マスクの効果を自己検証してみてください。

部屋の中では40~60%程度の湿度を保つようにしてください(3)。

甘いものをなめる

対策の3つ目は甘味です。味覚のうち、甘味は咳や痛みを抑えるはたらきがあるとされています(4)。

内因性オピオイドといって、あたかもモルヒネのような物質が分泌されることで、咳や痛みが抑えられるのではないかと考えられています。

実は、咳と痛みの神経はかなり似通っています。そのため、神経障害性疼痛に対する鎮痛薬が鎮咳効果を発揮することもあります。

さて、風邪のときにハチミツをスプーン一杯なめることで咳が抑えられるという研究結果があります。これについては過去に記事にしていますのでそちらを参照してください(5)。

最近、子どもの咳に対するハチミツとハチミツ風シロップを比較した日本の研究結果が発表されています(6)。咳がある1~5歳に子どもに、どちらかを2日連続でなめてもらったところ、両者の鎮咳効果に差がなかったのです(図2)。

図2. ハチミツとハチミツ風シロップによる鎮咳効果(文献6より引用)
図2. ハチミツとハチミツ風シロップによる鎮咳効果(文献6より引用)

プラセボ効果(実際には効果がないのに効果ありと判断されること)を見ている可能性は残りますが、シロップのような甘いものであれば、鎮咳効果があるのかもしれません(7)。

ハチミツにこだわらず、キャンディなどの甘いものをなめることは、理にかなっている可能性があります。

咳止めを飲む

そして、民間療法ではなく薬に使用することも検討してください。一般的によく用いられているのが、デキストロメトルファン(商品名メジコン)です。

ただ、眠気を催すことがあるので運転には注意です。また、飲み合わせによって副作用が出やすくなることがあるため、常用薬がある人は薬剤師や医師に相談してから購入するようにしましょう。

その他、コデインという咳中枢を抑える薬剤もありますが、子どもに使えないことと、大人であってもそれなりに副作用(便秘、吐き気、眠気など)があることから、国際的には推奨されていません。

まとめ

「病院を受診するほどでもないがちょっと咳を止めたい」とき、咳払いを強くしないように心がけつつ、ハチミツやキャンディなど甘いものを口に入れて、マスクを着用したり加湿器をつけたりして湿度を上げるというのが、現時点で可能な最大限の対処かもしれません。

咳に対してこれらがどのくらい有効なのかは、何とも言えないところです。

理由は、人によって咳の強さや衝動性に差があるからです。特に中高年の女性は、咳が出やすいため、なかなかこのような対策が著効するわけではありません。

風邪などの一時的な要因であれば、上記の対策で乗り切ってもらってよいでしょうが、3週間以上続く咳で悩んでいる場合は、呼吸器内科を受診するようにしましょう。

(参考資料)

(1) 『耳かきをすると咳がでる』のは、なぜですか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/horimukaikenta/20210815-00253348

(2) Morice AH, et al. Eur Respir J. 2014 Nov;44(5):1149-55.

(3) 新型コロナが感染しにくい最適な湿度は何%ですか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221227-00328216

(4) T Sallam YT, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2012 Jun; 25(3): 236–241.

(5) ハチミツは、咳に対して効果があるのか? 科学的根拠は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20211110-00266887

(6) Nishimura T, et al. Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164.

(7) Nishimura T, et al. Acta Paediatr. 2023 Feb;112(2):323.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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