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マシュー・ペリーのドラッグ密売人、彼の死の直後に優雅な日本旅行をしていた

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
密売人はペリーの死の直後に日本へ旅行(jasveen_s/Instagram)

 マシュー・ペリーを死に追いやったとして起訴された5人の人物についての事実が、少しずつ明らかになってきた。

 ペリーは、西海岸時間昨年10月28日、麻酔薬ケタミンを過剰摂取して死亡。住み込みのパーソナルアシスタント、ケネス・イワマサが外出先から帰宅したところ、ジャクジーで溺れているのを発見した。その日、イワマサは、ペリーに頼まれ、3度ケタミンの注射をしたと供述している。

 ケタミンは鬱の治療にも使われる。西海岸時間15日に行われた記者会見での検察の発表によれば、メンタルヘルスの問題を抱えていたペリーは、最初、クリニックで合法にケタミンセラピーを受けていた。しかしそのうち依存するようになり、増量を頼むもクリニックの医師は拒否。別の手段を探した結果、今回起訴されたふたりの医師サルバドール・プラセンシアとマーク・シャーヴェスと出会った。それでも足りなくなると、知り合いのエリック・フレミングを通じ、密売人ジャスヴィーン・サンガとも取引するように。注射は、医療関係者でもなく、特訓も受けていないイワマサが、プラセンシアからやり方を教えてもらって行った。

 会見で、検察は、私腹を肥やすために(イワマサの場合は職を守るために?)法を破り、ひとりの人間の命を奪った彼らを強く批判。有罪になった場合、サンガは、最長で無期懲役を言い渡される可能性もあると述べている。

原宿でのショッピングを楽しんだ様子(jasveen_s/Instagram)
原宿でのショッピングを楽しんだ様子(jasveen_s/Instagram)

 インスタグラムのプロフィールに「キュレーター/アート/イベント/音楽」と職業を記載している41歳のサンガは、闇の世界で“ケタミンの女王”と呼ばれる存在。ロサンゼルス近郊ノース・ハリウッドにある彼女の自宅からは、ケタミン、メタンフェタミンを含む大量のドラッグが見つかっている。検察の発表によると、2019年に亡くなった33歳の男性にもケタミンを供給していたのも、彼女だった。自分が売りつけた相手がそのせいで命を失ったと知った後も、彼女は変わらず商売を続けてきたということである。

マンダリンオリエンタルのアフタヌーンティやバーの写真も(jasveen_s/Instagram)
マンダリンオリエンタルのアフタヌーンティやバーの写真も(jasveen_s/Instagram)

 大人気俳優であるペリーが亡くなって大ニュースになった時も、心を痛めることはなかったらしい。サンガは、ペリーの死から2週間も経たない昨年11月8日から15日にかけて、日本を訪れた写真をインスタグラムのストーリーズに上げているのだ。

 東京のマンダリンオリエンタルでのアフタヌーンティやバーで飲んだマティーニ、ゲストルームを撮影しているということは、この高級ホテルに泊まったのだろう。東京のほかに、京都にも行っている。そのお金には、依存症の顧客に薬を売りつけることで得たものも混じっているのではないか。検察によれば、サンガは、ペリーが死ぬ直前の2週間に、合計50瓶のケタミンと引き換えに1万1,000ドル(今日の換算レートでおよそ162万円)を受け取っているのである。

東京のほか京都も訪問(jasveen_s/Instagram)
東京のほか京都も訪問(jasveen_s/Instagram)

 ふたりの医師たちも同様に冷酷な欲の塊だ。

 イワマサの供述によると、ある日、ペリーが合法なクリニックでケタミンセラピーを受けた後、プラセンシアはペリーの自宅を訪れ、ペリーに大量のケタミンを注射した。するとペリーの体は硬直し、血圧が一気に上がって、しゃべることも動くこともできなくなった。それを見てプラセンシアもさすがに怖くなったのか、イワマサに「もうこれはやめよう」と言ったという。にもかかわらず、彼はその後にもペリーにケタミンを売り続けたのだ。ペリーが死ぬまでの1ヶ月ほどの間に、プラセンシアは少なくとも5万5,000ドル(今日の換算レートで812万円)を稼いでいる。

 ところで、ペリー、サンガ、仲介人フレミングのつながりも、興味深い。そこにはチャーリー・シーンの元妻ブルック・ミュラーもかかわっている。

 依存症を抱えたシーンが警察沙汰も含めたトラブルを何度も起こしてきたのは、有名な話。だが、3度目の妻であるミュラーも、長いこと依存症に悩まされてきた。シーンと結婚する前にもコカイン所持で逮捕され、離婚後は、ドラッグ使用を理由にシーンとの間に授かった双子の息子たちを一時的に取り上げられている。親権は更生施設を出所後に取り戻したが、5年前にも治療に向き合うため、双子を両親に預けることに。今年前半もまた、更生施設で時間を過ごした。

チャーリー・シーンとブルック・ミュラー
チャーリー・シーンとブルック・ミュラー写真:Shutterstock/アフロ

TMZが報じるところによると、そんなミュラーがロサンゼルスの更生施設に入っていたある時、ペリーとサンガもそこにいたのだという。重なっていたのがどれだけの期間かはわからないものの、彼らは同じところである程度の時間を一緒に過ごしたのだ。ミュラーは、サンガから調達したケタミンをイワマサに届ける役目を果たしたフレミングとも非常に親しく、警察は捜査目的でミュラーのコンピュータや携帯を押収している。

 とは言え、ミュラー自身は、ペリーの死に直接の関わりはないようだ。しかし、“ケタミンの女王”とつながりのあるセレブは、この後まだ出てくるかもしれない。彼女の自宅からは、詳しい取引記録が書かれたグリーンのメモ帳が押収されているのである。サンガについて、フレミングは、「セレブなど上客を相手に、優れた品を売っている」密売人だとイワマサに語っている。そのセレブや上客とは誰なのか。今回の起訴は、ハリウッドの暗い部分を暴いていくことになるのかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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