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マシュー・ペリーに致死量のドラッグを投与したパーソナルアシスタントは日系人か

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 突然の悲劇が起きたのは、昨年10月28日。10ヶ月近くが経つ今、米俳優マシュー・ペリーの死亡事件が、大きな展開を見せた。ペリーを死に至らせたケタミンを供給した容疑で、5人が起訴されたのだ。

 西海岸時間15日午前10時に行われた記者会見で検察が発表したところによると、その5人は、サルバドール・プラセンシア(42)とマーク・シャーヴェス(54)という名の医師ふたり、“ケタミンの女王”として知られるドラッグディーラー、ジャスヴィーン・サンガ(41)、ペリーの住み込みのパーソナルアシスタント、ケネス・イワマサ(59)、ペリーの知人エリック・フレミング(54)。イワマサは、医療関係者でもなく、正式なトレーニングも受けていないにもかかわらず、フレミングを通じてサンガから入手したケタミンをペリーに注射した疑い。ラストネームと写真、また家族がロサンゼルスにいるとの情報もあり、彼は日系人と思われる。

(ケネス・イワマサのLinkedInより)
(ケネス・イワマサのLinkedInより)

 イワマサのLinkedInページによれば、コロラドの大学を卒業後、コロンビア・カレッジ・ハリウッドで映画作りを学び、俳優でプロデューサーのダグ・チャプリンのアシスタントになり、チャプリンが創設したマネジメント会社に30年間勤務してきたという経歴となっている。チャプリンはペリーのマネージャーで、イワマサは25年以上、ペリーのパーソナルアシスタントを任されてきたようだ。生前、ペリーがイワマサを同伴し、ロサンゼルスのアウトドア型ショッピングセンター「ザ・グローヴ」で買い物をする様子がパパラッチされたりしていた。

原価12ドルのケタミンを2,000ドルでペリーに売りつける

 回顧録やインタビューで自ら話しているとおり、ペリーは長年、アルコール、違法ドラッグ、オピオイドに依存し、死の恐怖を目の前にしたこともあった。更生施設に入ってもまた使用してしまうということを繰り返してきたが、急死する前は、完全に断っているとのことだった。実際、自宅からも、解剖結果でも、違法ドラッグは見つかっていない。見つかったのは、血液の中にあった大量のケタミンだ。

 ケタミンは麻酔薬だが、抗うつ剤として使用されることもある。メンタルヘルスの問題を抱えていたペリーは、治療を求めて近所のクリニックを訪れ、ケタミンに依存してしまったらしい。量を増やして欲しいとお願いしても、そのクリニックの医師は聞き入れなかったため、ペリーはほかの入手方法を探した。

 救急治療の医師であるプラセンシアは、大物セレブであるペリーがケタミンを欲しがっていると知ると、長年の知り合いでケタミン専門クリニックを経営していたことがあるシャーヴェスに連絡。シャーヴェスへのテキストメッセージで、プラセンシアは、「あのバカ、いくら払うだろうね」、「さあ見てみよう」と書いている。シャーヴェスが払うケタミンの原価は1瓶12ドルだったが、ペリーには2,000ドル要求した。シャーヴェスは、過去の患者の名前を使った嘘の処方箋で業者にケタミンを注文していた。

西海岸時間15日午前10時に行われた記者会見の様子
西海岸時間15日午前10時に行われた記者会見の様子写真:ロイター/アフロ

 昨年10月半ばには、イワマサも、ペリーのために別ルートでケタミンの調達を始める。提供者は“ケタミンの女王”サンガで、それを手配するのがフレミングだ。フレミングは、「お手頃価格で手に入れてあげる」のだから、「それなりのチップ」をくれとペリーに要求。フレミングはまずペリーの自宅にサンプルを届け、ペリーが気に入るとイワマサから注文を受け、“手数料”として500ドルを受け取った。この件についてやりとりをする時、彼らはケタミンを“ドクター・ペッパー”などと呼んでいたという。

 ケタミンの注射は、当然のことながら、きちんとトレーニングを受けた人しか行うことができない。しかし、イワマサは、プラセンシアから簡単な指導を受けただけで、5日間の間に27回もペリーにケタミンを投与した。そのうち最低3回はペリーが死亡した日に行っている。投与後、イワマサは、ペリーからiPhoneと眼鏡を取りに行くように言われて外出。用事を済ませて戻ってくると、ペリーは、プールの横にあるジャグジーで溺れていた。

ボスの命令なら逆らえないのか

 有罪になった場合、イワマサが受ける刑期は最長15年、フレミングは最長25年。シャーヴェスは最長10年、プラセンシアは最長120年。サンガは最低10年、最高で無期懲役。サンガは2019年にも当時33歳だったコディ・マクローリーという男性にケタミンを売り、死に追いやっている。この薬の危険も、ペリーの依存症の歴史も知りながら、私腹を肥やすためにケタミンを売ったこれらの容疑者には、世間から強い非難の声が上がっている。

 そんな中、イワマサについては、ボスであるペリーから命令されたのだから逆らえないのではないか、15年は長すぎではないかというコメントも見られる。それに対して、「ドラッグを手配するだけならまだしも、彼は1日に何度もそれをペリーに注射したんだよ。それはあまりに冷酷。刑務所に入れるべきだ」、「ボスがこの人を殺せと命令してきたらアシスタントはその通りにするのか」、「違法なこと、有害なことを命令されたら辞めるべきだ」という反対意見も聞かれる。

「フレンズ」の共演者たちと。この人気シットコム番組は10年続いた
「フレンズ」の共演者たちと。この人気シットコム番組は10年続いた写真:ロイター/アフロ

 ペリーは1969年、マサチューセッツ州生まれ。母はカナダ人で、両親の離婚後は母とカナダに住んだ。カナダの首相ジャスティン・トルドーとはその頃からの知り合い。15歳で父の住むロサンゼルスに引っ越し、演技を勉強。1994年に放映開始したシットコム番組「フレンズ」の6人の主役に抜擢され、25歳にしてたちまち大スターになった。出演した映画に、「愛さずにはいられない」、「隣のヒットマン」、「エリザベス・ハーレーの明るい離婚計画」、「セブンティーン・アゲイン」などがある。

 最後の仕事は、2021年5月にHBO Max(当時の名称。現在はMax)が配信したスペシャル番組「フレンズ:ザ・リユニオン」。2022年10月に出版した回顧録「Friends, Lovers and the Big Terrible Thing」はベストセラーとなった。

 結婚歴はなく、子供もいない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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