Yahoo!ニュース

ラスベガスに誕生した初めてのメジャープロスポーツチームは、北米スポーツ界の未来を左右するかもしれない

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
世界屈指のギャンブルシティは来季からNHLの舞台に(写真:アフロ)

世界屈指のギャンブルシティとして知られるラスベガス。なかでも、カラフルな噴水のショーでお馴染みのベラージオや、シーザーズパレスなどのホテルが立ち並ぶメインストリートのストリップは、各国からやって来る観光客で賑わっています。

そのストリップの南側から少し西へ入ったエリアに、T-モバイルアリーナが誕生しました。

今年の春にオープンして以来、ボクシングのタイトルマッチをはじめ、既に多くのイベントが開催されていますが、T-モバイルアリーナの最も大きな役割は、「NHLチームのホームアリーナ」です。

▼NHLが30チームからのエクスパンションへ

はじめに、これまでの経緯を紹介しましょう。

NHLは、コロンバス ブルージャケッツと、ミネソタ ワイルドが加盟して以来、2000年から(移転はあっても)30チーム体制が続いていました。

ところが、2009年に運営会社(当時)が破産したフェニックス(現アリゾナ)コヨーテスの受け入れ先が、現地のメディアで論じられるようになったのを発端に、NHLチームのホームタウンに関するニュースが、多く報じられるようになりました。

まず、NBAのチームがオクラホマシティに移転してしまったアメリカ・ワシントン州のシアトルが、「ぜひNHLのチームを!」とラブコール。

さらには、1995年にコロラド州のデンバーへチームが移転して以来、「もう一度NHLのチームを!」と熱望する声が止まなかったカナダ・ケベック州の州都ケベックシティも、新たなホームタウンに名乗りを上げました。

このような状況を追い風と見たNHLのゲーリー・ベットマン コミッショナーは、アメリカ経済が活況に転じてきたことも手伝って、昨夏に新規参入を希望するエクスパンションチームの受付を実施

しかし、市長が自らニューヨークのNHL本部まで赴きアピールするなどして、“筆頭候補”と目されていたシアトルは、ダウンタウンエリアにチームを招きたいプランや、郊外に新たなアリーナを設けて開発につなげるプランなど、複数のオーナー候補の意見が平行線のまま、一本化できず断念・・・。

また、18000人収容の新アリーナを建設し、NHLのプレシーズンゲームや、ジュニアリーグのホームゲームを開催していたケベックシティは、近年のアメリカドルに対するカナダドルの下落が逆風に

というのも、「収入はカナダドル」で得るのに対し、NHLでは「選手たちへのサラリーはアメリカドル」で(ほとんどの場合)支払うため、収益性を再検証する必要に迫られ、新規参入は先送りにされました。

▼積極的に準備を進めていったラスベガス

それに対して、積極的に準備を進めていったのは、ラスベガス

「大のホッケーファン」だと公言するビル(ウィリアム)・フォリー氏をオーナーとするグループは、新チーム設立を掲げ始動。NHLへの新規加盟申請の3ヶ月前には、シーズンシートの半数以上の予約を受け付けるなど、積極的に準備を進め、6月22日(現地時間)に開催されたNHL理事会で、来季(2016-17シーズン)からの参入を認められました

その後、ラスベガスはチームを司るGM(ゼネラルマネージャー)を任命。ヘッドコーチをはじめとする指導者や、来季終了後に行われる「エクスパンションドラフト」(既存の各チームがプロテクトした選手以外から指名)、ドラフトやFA権を持つ選手との契約によって、チームを作り上げていくことになります。

▼初めてのメジャースポーツチームが誕生

ところで、これまでもラスベガスをホームタウンとしたホッケーチームはありました。しかし、NHLの二つ下のリーグに所属するチームや独立リーグのチーム。さらにはローラーホッケーのチームなど、マイナーリーグばかり。

そのため、、、

ラスベガスをホームとするトップレベルのプロホッケーチームは初めて

となるのに加え、NHLにとっても、、、

新規加盟によるエクスパンションは、2000年以来

であるだけでなく、、、

31チーム体制になるのは、1917年の創設以来最多

となります。

さらに、北米の4大メジャースポーツに視線を転じても、、、

2002年のNFLとNBA以来、15季ぶりの新チーム加盟

そして何よりも、世界各国から観光客が訪れるラスベガスに、、、

初めてのメジャープロスポーツチームが誕生

することになったのです。

このように話題が尽きない中、昨日からT-モバイルアリーナには氷が張られ、初めてNHL仕様のリンクが披露されました。

明日と明後日には、シーズンチケットの申し込み者を招待して、アリーナ観覧ツアーが行われる予定ですが、新規加盟申請前に「半数以上」の席に名乗りがあったシーズンシートの申し込みは、その後も順調に推移。最も高価な1階席のセンターブロックをはじめ、既に受付を終了したブロックもあり、新チームへの期待の高さがうかがえます。

10月になると、ロサンゼルス キングスがホストチームとなり、NHLのプレシーズンゲームが2試合開催されますが、地元のファンにしてみれば、「ラスベガスに誕生した初めてのメジャープロスポーツチームの試合を早く観たい」という気持ちが、本音かもしれません。

▼北米スポーツ界の未来を左右するかもしれない

アメリカの新聞や、カナダのテレビ局が論じたところでは、これまでメジャースポーツのチームが、ラスベガスをホームタウンに選ばなかったのは、ギャンブルシティが故に、不正や八百長行為が行われるのを懸念したことが、少なからず影響していたとの見方も。

しかし、NHLの新チームが、その懸念を払拭すれば、同じアリーナで試合を行えるNBAをはじめ、近隣エリアにスタジアム用地もあるだけに、いずれMLBやNFLのホームタウンになる可能性も。

新たなホッケータウンに限らず、新たなスポーツタウンの誕生へ。

ラスベガスに誕生したNHLチームは、もしかしたら、北米のスポーツ界の未来を左右するかもしれません。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

加藤じろうの最近の記事