トヨタの残業代保証制度が要注目な理由
先日、トヨタの「残業代17万円保証制度」なるものが話題になりました。とりあえず残業してもしなくても17万円程度(約45時間分)を支給するというもので、繁忙期にそれ以上残業してもその分はちゃんと支給しますよという制度です。いわゆる見なし残業代と呼ばれるもので、裁量労働制と違って超過分をきちんと時間管理、残業代支給するため、幅広い職種に適用できます。
【参考リンク】トヨタ 残業代保証新制度 45時間超は追加支給
同社の狙いは無駄な残業時間の削減です。たとえば、同社のバリバリの中堅社員はだいたい毎月60時間くらい残業しているとします。今までと同じように残業しても構いませんが、こういう考えもできるわけです。
「効率的に働いて18時には退社して遊びに行こう」
「早く帰って空いた時間で資格や語学の勉強をしよう」
もちろん、今まで通り60時間残業してその分の残業代を受け取る人もいるでしょう。でも筆者の感覚だと7割くらいの人間は早く帰って浮いた時間を自分の好きなことに投資するはず。会社としては無駄に残業されるくらいなら、オフを楽しむか勉強してスキルアップでもしてくれたほうがよっぽど嬉しいということです。
以上をふまえれば、ホワイトカラーと残業に関して以下のことが言えるでしょう。
・会社はホワイトカラーに残業なんて要求してはいない
よく「ホワイトカラーエグゼンプションや高度プロフェッショナル制度は会社が従業員を無制限に残業させるための制度だ」と言う人がいますが、少なくともホワイトカラーに関する限りそんなこと考えている会社を筆者は一社も知りません。むしろ「いったいどうやったら残業時間を削減できるか」というのが、人事部で今一番ホットなテーマだったりします。会社が求めているのはあくまでも高い付加価値と効率的な働き方ですね。
・どういったペースでどれだけの仕事をするのかを決めるのはホワイトカラー自身
たとえばアパレルの販売員なら売り場に立っている時間に応じて成果も上がるし、工場のラインも立っている時間に応じて製品が出来ます。でもホワイトカラーはそうではありません。どれくらいの時間でどれだけの成果を上げるのかは本人次第であり、会社に出来ることはその生産性に応じた人件費を用意することだけです。
とりあえす17万一括支給するから、どう働くかは自身で決めなさいというトヨタの判断からは、そうしたメッセージがひしひしと伝わってきます。
多くの企業において、裁量労働制やみなし残業は、職種や対象者を限定しているため、必ずしも思うような成果を上げていないケースが目立ちます。業務範囲が曖昧な日本企業の場合、一人だけ効率的に働いても、チーム全体のペースに合わせざるを得ないためです。職種を限定せず7800人という規模でみなし残業を実施するトヨタは、企業サイドからの働き方改革としては注目すべきケースと言えるでしょう。