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大津の園児死傷事故 ガードレールがあれば命は守れたのでは

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
衝突の衝撃を受けた車が歩道に突っ込み、歩行者が被害に遭う事故が絶えない(写真:アフロ)

 5月8日の昼前、痛ましいニュースが飛び込んできました。

 滋賀県大津市で、散歩中に信号待ちをしていた保育園児13名と保育士3名に、事故を起こした車が突っ込み、2歳の園児2人が死亡、1人が重体、そのほかにも複数のけが人が出ているというのです(被害の状況は、5月9日午前5時現在)。

 事故の発生時刻を知って、私は驚きました。

 午前10時15分……。

 実は、この日、私はFM(J-WAVE)のラジオ番組に10時10分から生出演し、「5月に小学1年生の死亡事故が多発する」というテーマで話をしていました。

 そして、番組の中では奇しくも、

「交通事故の多くは交差点で起こっています。歩行者が信号待ちをしているときでも、事故を起こした車が衝突のはずみで歩道に飛び込んでくることがあるので大変危険です」

 という問題も取り上げていたからです。

 もちろん、突然、歩道に突っ込んでくる車は避けられません。しかし、実際にそうした事故が多発していることは事実です。

 心構えだけはしておかなければならないと思った私は、生放送の中で、リスナーの方々にこう呼びかけていたのです。

「私自身、最悪の事態に備えて、子どもには『交差点で信号待ちをするときは、できる限り頑丈なガードレールや電柱の後ろに立つようにしようね』と教えてきました」

 しかし、まさかその話をしている瞬間に、琵琶湖沿いの道で、実際にあのような惨事が発生していたとは……。

 あまりの偶然に驚きながらも、なぜこれほどまでに被害が拡大したのか? 次々と入ってくる現場の映像を見ながら、私はある事実にショックを受けました。

 それは、私が「後ろに立つように」と言い続けてきた「頑丈なガードレール」が、この交差点には見当たらなかったことです。歩道と車道を分けるものは、「縁石」しかなかったのです。

 今回の事故の原因が、交差点内で起こった2台の車の衝突にあることは言うまでもありません。現在捜査中ですので、どちらに過失があったのかはまだわかりませんが、テレビのニュースを見ている限り、複数の近隣住民が、「この交差点はスピードが出やすく危険で、事故がよく起こっていた」とコメントをしているのが、大変気になりました。

ガードレールではなくても、こうしたガードパイプが埋め込まれていることで、万一のとき、車が歩道に突っ込むという被害を最小限に食い止めることができる(筆者撮影)
ガードレールではなくても、こうしたガードパイプが埋め込まれていることで、万一のとき、車が歩道に突っ込むという被害を最小限に食い止めることができる(筆者撮影)

■人身事故の半数以上が「交差点とその周辺」で発生

 警察庁の調べによると、交通人身事故の54%は交差点内、もしくは交差点の周辺で発生しています。

 信号機のある場所も、ない場所も、とにかく「交差点」は、危険なエリアだということは間違いありません。

「歩道」や「横断歩道」は、歩行者を守ってくれるセーフティーゾーンのはずです。ところが、実際にはそうであるべきはずの場所で、過去にはたくさんの人の命が奪われてきたのです。

 これは、歩行者側がきちんとルールを守っていても、絶対に避けられない被害です。

 私が今回の大津の事故現場の映像を見てまず感じたのは、

『ガードレールさえ設置されていたら、事故の被害はこれほど拡大しなかったのではないか?』

 ということです。

 なぜあの交差点には、ガードレールが設置されていなかったのか……、その理由についてはまだ取材ができていません。

 しかし、交差点とその周辺で発生する事故率が極めて高いことがすでに統計ではっきりしているのです。それがわかっているのであれば、歩行者への安全対策として、交差点の車道と歩道の間には、ガードレール等の設置を検討すべきではないでしょうか。

■交通事故、歩行者への被害を最小限にするために

 交通事故は、以下の3つの要素が複雑に絡み合って起こります。

1) 人(ハンドルを握るドライバーのミス)

2) 車(車の欠陥など)

3) 環境(道路や標識の不備やガードレール未設置など)

 人は完ぺきではなく、ときとしてミスを犯します。

 車に不具合があっては正常な運転ができません。

 道路環境によっても事故は引き起こされますし、環境を整備することで最悪のことが起こったとき、被害を最小限に食い止めることができます。

 これからたくさんの未来があったはずのわずか2歳のお子さん2人が、突然命を奪われ、また他の園児たちも身体に大けがを負った今回の事故。

 ドライバーの過失のみを追求し、刑事罰に問うて終わりではなく、

『なぜこうした事故が繰り返されるのか?』

『危険な交差点の環境をどのように整えれば被害を最小限に食い止められたのか?』

 ということを、社会で考えていく必要があると思います。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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