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「鉄道150年」その先の50年へ 人口減少進む未来は高規格化・高速化で切り開くしかない

小林拓矢フリーライター
新幹線は、高規格化・高速化の最たるものである(写真:イメージマート)

 日本で鉄道が開業してから10月14日で150年。この国の近現代は鉄道の発展とともに歩みを進めてきたと言っても過言ではないだろう。

 鉄道網自体を広げてようとした明治・大正時代。優等列車の繁栄とそれが消えていった昭和の戦前戦中。そして、戦後の復興とローカル路線網の拡大、日本列島改造論の中での新幹線網の充実――。高度経済成長の過程で、地方から都市への人口集中が進み、都市部の通勤輸送は増強に増強を重ねた。

 だが昭和の終わりころから、鉄道網の衰退はすでに始まっていた。赤字ローカル線が次々に廃線となり、バス転換した路線の中には、そのバスすらなくなってしまった場所もある。

 コロナ禍前の時点で、JRのローカル線は輸送密度が低くなっていた。いっぽうで幹線鉄道でも輸送密度が低く、JRは都市部の路線の利益で地方路線を維持することが難しくなっていった。

 社会インフラを担う鉄道業界だが、開業から150年を迎えた今、その先の展望が見えなくなっている。次の「鉄道200年」に向けて、どんな将来像を描いていくべきなのか?

「災害に強い鉄道」をめざそう

 2000年代に入り、鉄道は大きな災害に見舞われ続けた。各地で大雨に見舞われ、その影響により数年単位で鉄道が運休することも今や珍しくない。2011年3月11日の東日本大震災では、東北地方の鉄道に甚大な影響が出た。とくに、福島県の海側を縦断する常磐線は、福島第一原発事故の影響で一部区間が長らく不通となった。

 福島第一原発事故と常磐線のようなケースは特殊ではあるものの、その他は鉄道設備が自然災害の負荷に耐えられず、大きな被害となったものがほとんどである。

 戦前に設置された多くの鉄道は、その時代の構造物から大きく改修されることはなく、少しずつ維持しながら使用しているものが多い。明治・大正期の技術でつくられた路線は、現代の災害多発時代には対応できない実状が浮かび上がってきた。もちろん、これまでにも豪雨・豪雪や大地震はあったものの、地域の人たちが総出でなんとか復旧させてしまっていた。その時代には鉄道で働く職員も多く、いっぽうで土建業などの従事者も多かった。ただ、マンパワーで対応できた時代はもはや過ぎ去った。

「かわせみ やませみ」は2020年7月の豪雨以降肥薩線を走らなくなった。
「かわせみ やませみ」は2020年7月の豪雨以降肥薩線を走らなくなった。写真:イメージマート

 既存の路線、とくに災害の被害を受けやすいところは事前に把握しておき、その場所は抜本的に改良、鉄道全体としても高規格化していくことが必要である。

 豪雨のたびに、鉄道はどうなるのか、運休になったまま廃線になってしまうのではないか、ということを心配しなくてはいけない状況では、鉄道の未来を安心して考えることはできない。

 それゆえに、多くの路線で公金を投じてでも高規格化を進めるべきだろう。それを実行した上で、鉄道は災害に強くなるしかない。

高速化でこそ鉄道は生き残る

 高規格化により、鉄道はいままでよりも速い制限速度で走ることが可能になる。

 現在、日本各地で高速道路などのような高規格の自動車道が整備されつつあり、地域によっては無料で走れるところもある。しかし鉄道は、大昔の規格のままである。

 それゆえに、鉄道は高速化が難しい。自動車よりも時間がかかるとなれば、利用する人も少なくなるだろう。

 整備新幹線網は、全国で徐々にできつつある。しかし、そのいっぽうで既存の在来線網が軽視されるようになっている。

 並行在来線が第三セクター化するのはかまわないものの、その鉄道は地域の実情に見合った運行をすべきであり、地域の利便性を損なってはならない。

 既存の鉄道は線路の強靭化、車両の高性能化で、多くの人をより速く目的地に届けられるようにならないと、利用者はどんどん減っていってしまう。

 かつては単線区間でも「急行」が多く走っていた。路線内での追い抜きこそ少なかったものの、停車駅を少なくして速達性を高めていた。

閑散線区にも急行列車が走行していた。写真はいすみ鉄道の「急行」
閑散線区にも急行列車が走行していた。写真はいすみ鉄道の「急行」写真:イメージマート

 現在ではそのような列車は見られなくなってしまった。

 普通列車でも、現在よりも高速で運行できるように改良し、加減速性能を向上させて所要時間を短くすることが必要だ。とくに気動車列車だけが走るような区間は、時間短縮で多くの人に利用してもらうことが大切だ。

「鉄道200年」をめざすにあたって

 現在、鉄道業界は大きな困難を抱えている。コロナ禍で利用者数は減り、いっぽうで地方では依然としてクルマ依存が高い状況だ。とりわけ東日本大震災以降、日本経済の成長は停滞している状況で、内需産業である鉄道はその影響を強く受けている。しかも日本の経済政策は円安でもかまわないという方針で、ある意味で国力の低下を是認している状態だ。

 これ以上、鉄道の衰退を招かないために、安定して鉄道の利用者を確保することが重要だ。そうでなければ、新幹線と都市部の鉄道だけが繁栄し、地方はより一層クルマ社会が続くのが目に見えている。

 こうした状況の解決策を考えるには、日本の未来をどう考えるかという視点が必要になる。地方では人口減少が進み、都市部への人口集中は進むものの、都市部は少子化が進んでいる。今後の人口増は期待できない。経済もかつてのような高成長は期待できない。

 持続可能な社会システムをどう作っていくかを考える中で、鉄道もその中にうまく組み込まれるようにしなくてはならない。そのために、災害に強くなるように高規格化し、速達性を高めて、利便性を向上させなくてはならない。リニア中央新幹線をどうするか、整備新幹線をどう充実させるかは、その枠組みの中で議論できることである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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