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「井上尚弥vs.中谷潤人」は実現するのか? 今世紀2度目の東京ドーム決戦も!その可能性を考察─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
「9・3有明アリーナ」でドヘニーの挑戦を受ける井上尚弥(写真:ヤノモリ/アフロ)

井上尚弥が強過ぎる故に

先日、井上尚弥の次戦が発表された。

9月3日、東京・有明アリーナ。対戦相手は元IBF世界スーパーバンタム級王者のテレンス・ジョン・ドヘニー(アイルランド)。

この発表直後、ネガティブな声が多く聞かれた。

「ドヘニーでは役不足だ」と。

つまり、ドヘニーが相手では勝負論がない。井上にとってイージーな相手というわけだ。

まぁ、そう言われてしまえばそうだろう。

この試合で「ドヘニーが勝つ」と予想する者はほとんどいない。私もそうだ、ドヘニーが井上に勝つシーンがイメージできない。海外のスポーツブックのオッズでも「10-1」「12-1」で井上優位の数字が並ぶことだろう。

ではドヘニーではなく、誰が相手ならよかったのか?

当初、対戦相手の最有力と目されていたサム・グッドマン(IBF、WBO世界スーパーバンタム級1位/オーストラリア)か、WBAのトップランカー、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)か、それともジョンルリ・カシメロ(WBO世界同級4位/フィリピン)、ラモン・カルデナス(WBA世界同級2位/米国)、イライジャ・ピアス(WBA世界同級3位/米国)、それとも無敗のリアム・デービス(WBC&IBF同級5位/英国)、アラン・ピカソ(WBC同級1位/メキシコ)なのか。

いや、いずれが挑戦してもフェイバリットは井上だ。

つまりは4団体上位ランカーの誰もが、井上を脅かすに至る実力を備えていない。これは、井上尚弥が強過ぎる"モンスター”であるが故に生じた現象である。

「ネクスト・モンスター」

もはや、スーパーバンタム級に井上の敵はいない。

ならば早々にフェザー級に階級アップし「5階級制覇」を目指すべきだ、との声が海外メディアから噴出している。

だが、井上にそのつもりはない。現在の適正体重がスーパーバンタム級だからだ。

「あと2年はスーパーバンタム級で闘う」と井上は話している。競技者として当然の判断だろう。

では、井上の今後の闘いは「圧倒的優位」な試合続きで盛り上がりを欠くのか?

実は、そうではない。

まだ具体的な言及は控えているものの、井上の首を虎視眈々と狙っている実力派日本人ファイターがいる。

現WBC世界バンタム級チャンピオン、中谷潤人(M.T.)だ。

彼は7月20日、東京・両国国技館のリングでトップランカーのビンセント・アストロラビオ(フィリピン)と対戦し、強烈なボディブローで1ラウンドKO勝利。

堂々の王座初防衛を飾った。

7月20日、東京・両国国技館『PRIME BOXING PRESENTS LIVE BOXING 9』のメインエベント、ボディブロー一撃でKO勝利を収めた中谷潤人(写真:日刊スポーツ/アフロ)
7月20日、東京・両国国技館『PRIME BOXING PRESENTS LIVE BOXING 9』のメインエベント、ボディブロー一撃でKO勝利を収めた中谷潤人(写真:日刊スポーツ/アフロ)

戦績28戦全勝(21KO)。元WBO世界フライ&スーパーフライ級王者で「3階級制覇」を果たしている。KO率の高いサウスポーは世界的に評価が高く『RING』が制定するPFP(パウンド・フォー・パウンド)でトップ10に名を連ねたこともある。そして彼は、こう呼ばれている。

「ネクスト・モンスター」。

時期は2025年下半期か

現在、世界バンタム級の4本のベルトはすべて日本人選手の腰に巻かれている。

〈WBA王者〉井上拓真(大橋)

〈WBC王者〉中谷潤人(M.T.)

〈IBF王者〉西田凌佑(六島)

〈WBO王者〉武居由樹(大橋)

この状況下で中谷が目指すのは「4団体世界王座統一」。

アストロラビオ戦の前から「王座を防衛したら、次は井上拓真選手と王座統一戦を闘いたい」と口にしていた。

これは興味深いカードだが、年内には実現しそうにない。というのも井上は12月に次期防衛戦を予定しており、対戦相手を堤聖也(WBA世界バンタム級2位/角海老宝石)に設定し話が進められているからだ。中谷陣営は、西田、武居との統一戦実現にも動くだろうが話がまとまるかは微妙だ。いずれかの選手との統一戦が行えるとしても、おそらくは来年になるのではないか。

4人の世界バンタム級王者の中では、実力的に中谷が頭一つ抜けている。そのため、ほかの3人から対戦を避けられている節もある。

7月21日、帝拳ジムでの一夜明け会見の後に笑顔を見せる中谷潤人。中央はトレーナーのルディ・エルナンデス氏、右はWBO世界フライ級王座を奪取したアンソニー・オラスクアガ(写真:藤村ノゾミ)
7月21日、帝拳ジムでの一夜明け会見の後に笑顔を見せる中谷潤人。中央はトレーナーのルディ・エルナンデス氏、右はWBO世界フライ級王座を奪取したアンソニー・オラスクアガ(写真:藤村ノゾミ)

中谷は、王座統一戦がなかなか決まらない場合には来年中の階級アップも視野に入れている。スーパーバンタム級に転向し「4階級制覇」を目指すのだ。

そうなれば、ターゲットは井上尚弥になる。

井上は、7月16日の記者会見でこう口にしていた。

「あと2年は、スーパーバンタム級で闘う」

ならば、中谷の階級アップと時期は重なる。来年後半にスーパーファイト実現の可能性は十分にあろう。

今後、井上、中谷は互いに自らの階級で王座防衛戦を重ねていくことになる。「来たるべき刻」を意識しながら。周囲も注視する。これから1年の間に「井上尚弥vs.中谷潤人」へのファンの期待は、さらに熟成されていく。

この流れから生じる「金のなる木」をプロモーター、配信サイトが放っておくはずもなかろう。世界のベルトをかけての「日本人頂上対決」実現濃厚。時期は2025年下半期、舞台は今世紀2度目の東京ドームか─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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