今晩に迫ったキングジョージの見解を現地からリポート。シュヴァルグランが乗り越えなければいけない壁とは
シュヴァルグラン(牡7歳、栗東・友道康夫厩舎)の出走するキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1、英国アスコット競馬場、芝約2400メートル、以下、キングジョージ)が迫ってきた。発走は現地時間27日、午後3時40分、日本時間同日午後11時40分だ。
私は約1週間、英国のニューマーケットに滞在。シュヴァルグランだけでなく、現地に構えるいくつかの厩舎を訪ね、同レースに出走する有力馬の話を伺った。今回はそんな現地の情報をお伝えしよう。
大崩れのない、打倒女王の筆頭格
まずは打倒女王の筆頭に挙げられるクリスタルオーシャン(牡5歳、J・ゴスデン厩舎)。
19日の金曜日に調教で跨ったというJ・ドイル騎手に話を伺った。
「追い切りではなく軽いキャンターだけでしたけど、ウォーレンヒルの坂を上りました。さすがG1戦線で常に勝ち負けを繰り返している馬だけあって、とても楽に駆け上がってくれました。能力の高さと同時に状態の良さも感じる事が出来ました」
首肯するのはM・スタウト調教師だ。過去にキングジョージを6勝もしている伯楽は語る。
「エネイブルにはセプテンバーSで負けているけど、斤量差がかなりあった(エネイブルより約3・6キロ重かった)し、そもそもポリトラックなので参考外でしょう。完全な決着がついたとは考えていませんよ。プリンスオブウェールズSを勝った後も更に状態は上向いている感じさえあるからね。期待していますよ」
過去14戦で8勝、2着4回、3着2回。今年に入ってからは現在3連勝中。昨年のキングジョージでも2着に好走しており、大崩れはないだけにここも当然、期待出来る。
去勢して充実した芦毛馬
同じく連勝中なのがデフォー(せん5歳、R・ヴェリアン厩舎)だ。
前々走でコロネーションCを勝って自身初のG1制覇を飾ると、前走では今回のキングジョージと同じ舞台のハードウィックS(G2)を優勝。昨年の凱旋門賞(15着)で見た当時はひ弱い印象を受けたが、その後の去勢が成功したようで、馬体はひと回り大きくなった感じ。ここに来ての充実ぶりと無関係ではないだろう。
「メンバーが揃ってタフなレースになる事は分かっていますが、体質の強化された今なら面白そうです」
管理するヴェリアン調教師はそう語る。
ダービーで破った相手が続々好走
一発の魅力を秘めるのはアイルランドからの刺客アンソニーヴァンダイク(牡3歳、A・オブライエン厩舎)だろう。
前走の愛ダービーでは同厩のソヴリンによもやの逃げ切りを許したが、前2頭が後続を離して逃げる展開に翻弄されただけ。唯一勝ち馬に迫って伸びた内容は決して力負けとは言えず、事実、ソヴリンには前々走の本場英国のダービーで完勝している。
そのダービーで負かしたジャパンやサーカスマキシマスが後にG1を優勝、前出のソヴリンを含む他の馬も愛ダービーで上位を独占。12着に大敗したバンコクでさえ、キングエドワード7世S(G2)でジャパンとワンツーフィニッシュを決めている。
思えばそのダービーはとても届かないと思える位置から差し切って抜け出した。エネイブルが絶対的な先行力をほこるだけに同じ脚質の馬は掃除される傾向にある。一発があるとすればこの馬のような差し脚があるタイプではないだろうか。3歳馬という事で55・5キロで出走出来るのも好材料。昨年の凱旋門賞で3歳の追い込み馬シーオブクラスが迫った点からも軽視は禁物だ。
厩舎でトラベリングラッド(遠征厩務員)を務めるT・J・コムフォード氏は「前走は展開のアヤでうちの厩舎の馬を差し切れなかったけど、ここに来て成長著しい。普段はとてもリラックスしているし、今回も力を出せる状態にありますよ」と語る。自身も2001年に優勝し、アスコットでの産駒の活躍も目立つガリレオの仔というのも好材料だ。
迎え撃つ絶対女王エネイブル
彼等を迎え撃つのが女王エネイブル(牝5歳、J・ゴスデン厩舎)。
「日本のアーモンドアイもそうだけど、現在は世界中で牝馬が強いからね。エネイブルもどんな相手でも負けてはいけない存在だと思っているよ」
そう語るのがゴスデン調教師。中間はF・デットーリ騎手を乗せての追い切りも敢行。「フランキーも『良い状態だ』と言っていました。一度、使われて間違いなく上向いていますよ」
この馬について今更細かい説明は不要だろうが、凱旋門賞連覇だけでなく、ブリーダーズCターフと一昨年にはこのキングジョージも優勝している。17年に勝った時と比べ、現在の状態は果たしてどうなのか?
「2年前は3歳牝馬という事で斤量差ももらっていましたからね。当然、現在の方が更に成長しているので、昔より力強いと言えますよ」
シュヴァルグランが乗り越えなければいけない壁とは……
これら欧州の強豪に挑戦する日本のシュヴァルグラン(牡7歳、栗東・友道康夫厩舎)。一昨年といえジャパンC(G1)を優勝し、その後も日本のG1戦線でほとんど大崩れのない成績を残しているように実力的には通じておかしくないだろう。日本馬が軒並み苦戦を強いられているアスコットの重い芝だが、父のハーツクライは06年のキングジョージでハリケーンランとエレクトロキューショニストといった名馬を相手に一瞬「勝つのでは?!」という見せ場を作ってみせた。
馬場が重い分、同じ2400メートルでも要されるスタミナは日本の競馬より必要になる。そういう意味で、日本では3000メートル級のレースでも好走できるシュヴァルグランには決して不向きではないだろう。
ただ、データ的に厳しい材料があるとすれば3月のドバイシーマクラシック以来となる点。3カ月以上の休み明けでこのレースを制したのは02年のゴーランまで遡らなければいけないし、更にゴーラン以前をみてもほぼ皆無。ヨーロッパ勢の強豪と休み明けという壁を跳ね除けて日の丸が上がる事を期待したいが、果たしてどうなるか。現地27日の午後3時40分、日本時間同日午後11時40分の発走時刻は間もなくに迫っている。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)