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賃上げ10%を求める「非正規春闘」が本格化 どうやって参加したらいい?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
非正規春闘実行委員会の記者会見の様子(2024年2月8日)

 2月8日、今年の非正規春闘の開始を宣言する記者会見が開かれた。主催は非正規春闘実行委員会。非正規春闘は、個人加盟ユニオンなどが非正規雇用労働者の賃上げを使用者に対して要求・交渉する運動だ。一般的な春闘とは異なり、職場に労働組合がなくても、一人や数人がユニオン(個人加盟できる労組)に相談・加入すれば、春闘の賃上げ交渉に参加できる「開かれた春闘」でもある。

非正規春闘実行委員会の記者会見の様子(2024年2月8日)
非正規春闘実行委員会の記者会見の様子(2024年2月8日)

 インフレのなか初めての試みとして実施された昨年の非正規春闘では、靴小売大手のABCマートで約5千名のパート・アルバイトの6%賃上げや、総合スーパーのベイシアで約9千名のアルバイトの5.44%賃上げを実現するなど、期待以上の成果を上げた。いずれもたった一人から始めた春闘であり、少人数でも会社全体での賃上げを実現できることが示された。

 今年の非正規春闘では、現時点で38社に対し10%以上の賃上げ要求を提出する見込みだという。春闘の要求提出はこれから本格化する段階であり、今からでも非正規春闘実行委員会へ相談すれば、勤務先企業への要求提出から団体交渉までサポートする体制を組めるそうだ。

 本記事では、今年の非正規春闘の特徴と参加方法について解説していきたい。

参考:「過去最高益」なら還元せよ! 非正規が「賃上げ10%」を要求して春闘を開始

地方へと広がる非正規春闘

 今年の非正規春闘の特筆すべき点は、昨年と比べて地方からの参加が増えていることだ。北海道、東北、甲信越、東海、関西、九州の労働組合が非正規春闘実行委員会に参加しており、全国各地の非正規雇用労働者の相談や春闘交渉を担う体制を組んでいる。

 たとえば、宮城県では、今年から県内の二つのユニオンが合同で宮城非正規春闘を始めており、県内にある3職場ですでに10%以上の賃上げを求める春闘要求を提出しているという。先月末には、宮城県内の経済団体である仙台商工会議所や東北経済連合会に春闘の要請を行うとともに、仙台の繁華街で非正規雇用労働者に向けて非正規春闘への参加を呼びかける宣伝活動も行っている。

仙台市内での街頭宣伝の様子。非正規春闘実行委員会提供。
仙台市内での街頭宣伝の様子。非正規春闘実行委員会提供。

 宮城非正規春闘は、地元紙やローカルテレビでも取り上げられており、地域での一定の注目も集めているようだ。

参考:10%以上の賃上げ求める 宮城で「非正規春闘」開始 "賃金低いのに物価高騰”(TBC東北放送・TBS系列)

 また、関西でも今年から非正規春闘を始める動きがある。関西の複数のユニオン・労組が集まって関西非正規春闘実行委員会という形でスタートしようとしている。2月23日(金)14時~PLP会館(大阪市北区天神橋3丁目9-27)にて、講演会『1人からでも春闘に取り組もう』(講師:総合サポートユニオン共同代表・青木耕太郎)が開かれるという。

 企業内で広がる例もある。去年から非正規春闘に参加しているスシローのパート・アルバイト労働者たちは、ネット上で全国各地の店舗の従業員に向けて非正規春闘への参加を呼びかけたところ、東北や四国のパート・アルバイトがユニオンへ加入して非正規春闘に合流してきたという。

 このように、今年の非正規春闘は、実質的にも全国的な取り組みとなってきている。

非正規春闘への参加方法や春闘交渉の流れ

 次に、非正規春闘を始める方法や春闘交渉の流れについて簡単に説明しておこう。

 まず前提として、非正規春闘には、全ての非正規雇用労働者に参加の間口が開かれている。職場に労働組合がない場合でも、職場に労働組合があるが機能していない場合でも、非正規春闘実行委員会へ問い合わせをすれば、相談に乗ってもらえる。大企業でも中小企業でも、パート・アルバイト(学生バイトを含む)・契約社員はもちろん、派遣や嘱託(定年後再雇用を含む)でも、非正規春闘を始められる。

 公務非正規(会計年度任用職員など)については、賃金決定のシステムが異なるため、交渉の方法・戦術などは異なってくるものの、相談は受けつけているそうだ。

 流れとしては、同実行委員会のホームページ上などで、非正規雇用で働く労働者から、労働相談や賃上げの要望を受け付け、何度かミーティングを設けて企業への要求書を一緒につくっていくことになる。要求書ができたら、勤務先企業へ要求書を提出し、団体交渉の場を設ける。この団体交渉というのは、憲法と労働組合法で保障された権利(団体交渉権)であり、企業側は交渉を拒否することはできない。

 勤務先企業が賃上げ要求に応じた場合には、労働協約と呼ばれる「契約書」を締結し、賃上げが実現することになる。他方で、交渉を行うだけでは、賃上げに応じない企業も多い。その場合には、労働組合として団体行動権を行使することになる。

 この団体行動権というのも、やはり憲法と労働組合法で保障された権利であり、労働組合や加入する労働者にとって強力な「武器」となる。具体的には、ストライキやネット上での情報発信、チラシ配布などの宣伝活動が認められており、こうしたプレッシャーを背景に企業側との交渉を行うことができる。

街頭宣伝の様子
街頭宣伝の様子

 たとえば、昨年6%の賃上げを実現した靴小売大手・ABCマートとの賃上げ交渉では、初回の団体交渉では、会社側は一切賃上げをしないという回答であった。そこで、労働組合員の女性(ABCマートで働くパート労働者)が15分間のストライキを行うとともに、そのこことをSNSやマスコミを通じて広く情報発信をした。

 すると、会社側は二度目の団体交渉では当初の姿勢を変え、賃上げを行うと回答した。ただ、賃上げ率については労使で隔たりがあったため、労組側は再度ストライキを行うことを予告して三回目の団体交渉に臨んだ。三回目での交渉の席では、労組側が賃上げ率を増やすよう要求したところ、会社側は6%まで賃上げ率を引き上げる旨を回答した。そこで、労使は合意に至って労働協約書も締結し、結果的に約5千人のパート・アルバイトの時給6%増を実現した。

参考:ABCマートでパート5千人の時給を6%「賃上げ」 「たった一人」のストライキから

非正規春闘への「参加」の仕方のまとめ

 以上をまとめると、非正規春闘は全ての非正規雇用労働者に開かれており、いまの賃金水準に不満のある(いまの賃金水準では生活できないとか、仕事内容や責任に見合っていないとか)方は、誰でも非正規春闘実行委員会のホームページから相談をすることができる。

 相談後の流れとしては、各地の個人加盟ユニオン(個人加盟できる労働組合)の担当者のサポートをうけて、要求書の作成・提出、団体交渉、ときには情報発信やストライキなども行って、賃上げ要求の実現を目指すこととなる。

 2月11日(日)には、非正規春闘・賃上げ相談ホットラインも開催される予定だ。電話で相談したい場合には、こちらのホットラインを利用するとよいだろう。

名称:非正規春闘・賃上げ相談ホットライン

日時:2月11日(日)13時~17時

番号:0120-333-774 <相談無料・秘密厳守>

主催:非正規春闘実行委員会

無料労働相談窓口

非正規春闘実行委員会相談フォーム

NPO法人POSSE 

03-6699-9359(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

メール:soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。労働問題を専門とする研究者、弁護士、行政関係者等が運営しています。訓練を受けたスタッフが労働法・労働契約法など各種の法律や、労働組合・行政等の専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

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*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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