「幼児が電車を最大加速」はそれほど危険だったのか
先日、気になるニュースが飛び込んできた。JR東日本が主催する運転士体験イベントで、幼児が運転機器を操作したところ電車が動き出した、というものである。
これについては、産経新聞が次の通り報道している。
この記事だけではよく分からない点があり、JR東日本に詳細を聞いてみた。そして、いくつか明らかになったことがある。
(1)今回は、モーターに電気が流れないような措置を講じていたが、何らかの理由によってマスコン(自動車のアクセルに相当)の近くにある「解除ボタン」が動作し、送電停止が解除された。
(2)これにより列車が動く状態となってしまったため、幼児が運転体験として逆転レバー(自動車のシフトレバーに相当)やマスコンを操作した際、列車が動き出した。
(3)運転士は、列車が動き出したため直ちに停止措置を行い、30センチほど動いたところで停車した。
(4)この時、当該車両の周囲はトラロープなどで人が立ち入りできないようになっており、他の人たちが車両に接触する危険はなかった。
つまり、今回は「列車が動かないような措置」つまり(1)が破られた一方、「動いてしまった場合の措置」つまり(3)や(4)は正常に機能し、結果として列車を安全に停止でき、周囲への被害もなかったということだ。
(ちなみに、記事中にある「手歯止め」というのは、車両が坂道などで自然に動き出すのを防ぐものであり、モーターで加速した車両を止める力はない。今回も、そのような事態を想定して設置していたのではないと思われる)
これが、どれほど問題なことなのか。私はそれほど大騒ぎするようなことではないような気がしてならない。もちろん「動かないはずの列車が動いてしまった」という点で、JRに落ち度があった部分は否めない。今後このようなことがないよう、更なる対策も必要だろう。しかし、今回は安全対策のうちの1つ(=運転士が瞬時に気づき、ブレーキを操作した)が働き、列車はわずか30センチ動いただけで停車したのだ。
私が危惧するのは、今回の事故を契機として「今後はこのようなイベントを中止する」という風潮が起こることだ。実は、この事故を受けて同種のイベントを取りやめた鉄道会社もあると聞いている。
そもそも今回のイベントは、子供たちが「運転士さん」になれる、夢のあるものだ。近年、「キッザニア」のように子供たちがいろんな仕事を疑似体験できる施設ができたり、工場見学イベントなども増えたりと、子供の好奇心を呼び、視野を広げる取り組みがあちこちで見られる。毎年このようなイベントを楽しみにしている子供は多いだろうし、鉄道ファンの一人としても、そういった場をなくしてほしくない。
幸いなことに、JRの広報担当者は「お客さまにご心配をおかけしまして申し訳ございません。今回の事故を踏まえ、より安全対策を強化徹底したうえで、今後もイベントを続けていきたいと考えています」と話してくれた。今回怖い思いをしたであろう子供たちのためにも、きちんとした対策をして、今年以降もぜひ続けてほしい。