Yahoo!ニュース

エンジェルスGMが大谷翔平の今オフトレードを完全否定したことで更に深まった感がある不確定要素

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷選手の今オフトレードを完全否定したエンジェルスのミナシアンGM(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ミナシアンGMが大谷選手の今オフトレードを完全否定】

 ワールドシリーズが終了し、11月6日から本格的なオフシーズンに突入したMLB。その最初の大きなイベントとしてGMミーティングが、現地時間の11月8日から3日間ラスベガスで開催される予定だ。

 そのGMミーティングのため開催前日に現地入りしたエンジェルスのペリー・ミナシアンGMが報道陣に対応し、今オフでの大谷翔平選手のトレードを完全否定したことで米メディアが一斉に報じ、今もSNS上を賑わせている。

 長年エンジェルスを担当するオレンジカウンティ・レジスター紙のジェフ・フレッチャー記者が配信した速報記事によれば、ミナシアンGMは以下のように発言しているようだ。

 「オオタニは動かない。彼はここに残り、我々と一緒にシーズンを開幕する。彼に関して様々な噂やそうした類のものが広まっているのを承知している。だが彼はここに残り、チームの一員でいるだろう。

 すでに公言しているし、もう一度繰り返す。我々は彼を気に入っており、彼がチームに長期間在籍することが我々の目標だ」

【エンジェルスを取り巻く不安材料の数々】

 GMミーティングを控えてのミナシアンGMの発言は、ある意味他チームのGMやメディアに対する先制攻撃ともいえるものだ。これで同GMはオフの間、大谷選手関連の話題に振り回されることがなくなり、肝心のチーム補強に集中できる体制を整えられたからだ。

 だがこれで大谷選手の移籍問題が決着したわけではないし、むしろ今回のミナシアンGMの発言で、周辺はさらに騒がしくなったと考えるべきだ。

 ここ最近大谷選手が「勝ちたい」とか「ポストシーズン進出争いをしたい」、「ヒリヒリするようなシーズン終盤を過ごしたい」という趣旨の発言を繰り返す中、現在7年連続とタイガースとともに最も長くポストシーズンから遠ざかっているエンジェルスと、大谷選手が長期の契約延長もしくは大型契約に同意するのか、まったく予測不可能な状況にあるからだ。

 すべてはエンジェルス、つまりはミナシアンGMが進めていく今オフの補強策にかかっているのだろうが、現在のチーム状況は楽観視できるようなものではなく、むしろ多くの不安材料が揃っている。

 今年もシーズン開幕当初は地区首位争いを演じながら、シーズン後半戦が始まったばかりのトレード期限日前にはポストシーズン争いから脱落し、次々に主力選手を放出している事態に陥っており、現時点でエンジェルスが来シーズン途中に大谷選手を放出する可能性を否定できる人物は誰もいないはずだ。

【強豪チームに対抗できない選手層の薄さ】

 フレッチャー記者の記事によれば、ミナシアンGMは今オフ大谷選手をトレードしないことをオーナー陣に進言し、それを彼らが了承したために今回の発言に至ったようだ。

 さらに同GMは、来年ポストシーズン進出を狙えるようなチームに強化していくために、大谷選手を残すことが「(オフにトレードしない)最大の理由」だとも説明している。

 もちろんミナシアンGMが指摘するように、今年は投打ともにチームの大黒柱だった大谷選手を失うのは大幅な戦力ダウンになってしまい、彼をトレードすることは一からチームづくりをしていくことを意味している。

 だが今年も大谷選手がシーズンを通して二刀流でフル回転する一方で、トラウト選手やレンドン選手ら主力選手が負傷離脱するとチームは明らかに失速しており、ヤンキースやドジャースのような強豪チームと比較すると、選手層の薄さは明らかだ。

 つまり主力選手が十分に揃っていないだけでなく、彼らの穴を埋めるような若手選手も台頭していないのだ。

【ビッグ3の年俸だけで1億ドル超え】

 実はエンジェルスは、選手層が薄いという問題を長年にわたり解消できないままでいる。それこそがエンジェルス最大の難題といっていい。

 MLB史上最高額の大型契約を結んでいるトラウト選手など一部主力選手の年俸額がチーム全体の年俸総額を圧迫し、チームが必要とする実績あるFA選手を獲得しにくい状況が続くという負のスパイラルから脱却できないためだ。

 この2年間でプホルス選手、アップトン選手らの大型契約選手が整理できたものの、大谷選手が年俸調整権下の選手として最高額の3000万ドルで合意したことで、現在もトラウト選手(来季年俸は約3720万ドル)、レンドン選手(同約3860万ドル)と合わせると、ビッグ3だけで1億ドルを超えている。

 ちなみに今シーズン開幕時のエンジェルスの年俸総額は1億8189ドルだった。一方でチームの売却問題は進展しておらず、今オフもモレノ・オーナーが経営を担っていくことを考えると、大幅な予算増はあまり期待できない。そうなると来年も3選手だけで年俸総額のほぼ6割近くを使ってしまう計算になる。

 もちろん3選手の他に、複数年契約を結んでいる選手(3人)、年俸調停権を得ている選手(6人)を抱えており、さらにFA選手の獲得に回せる予算は削られてしまうわけで、結局今オフも変わらず最大の課題を抱えたままなのだ。

【チーム補強に自信を覗かせるミナシアンGM】

 さらに予算を増やすことを目指し主力選手をトレードに出したくても、他チームが欲しがるような選手がほとんど揃っていない。また仮にトラウト選手かレンドン選手のトレードを画策したとしても、両選手ともに全チーム対象のトレード拒否条項を有しており、簡単に手放すこともできない。

 そんな状況であるにもかかわらず、ミナシアンGMは今オフの補強で、即座に大谷選手が望むようなポストシーズン進出が狙えるチームに作り替えなければならないのだ。

 「我々は(ポストシーズン争いができるチームになるまで)それほどかけ離れているとは思わない。そう感じている」

 同じくフレッチャー記者の記事によれば、ミナシアンGMはチーム補強に自信とも受け取れる発言をしている。果たしてエンジェルスは同GMの希望通り、大谷選手と長期契約を結ぶことができるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事