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決まらない南米王者

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
11月11日の第1戦は2-2のドローに終わった(写真:ロイター/アフロ)

 リベルタドーレス杯決勝、ボカ・ジュニアーズvs.リバー・プレート第2戦は11月24日(現地時間)に行われる筈であった。両チームの第1戦は、ボカのホームであるラ・ボンボネーラで催され2-2のドロー。本来ならリーベルのホームで第2戦が開催され、南米チャンピオンが決まっているのだが…。

 24日、リーベルのサポーターがボカの選手バスを襲撃。木材や石を投げてバスのガラスを割り、ボカのキャプテン、パブロ・ペレスが目と腕を負傷。ボカの顔とも呼べるカルロス・テベスも催涙ガスを浴び「試合ができる状態じゃない」と怒りを込めて語った。

 果たして、今年のリベルタドーレス杯は、どんな形でフィナーレを迎えるのか?

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 本コーナーでお馴染みセルヒオ・エスクデロに、本件について質した。元アルゼンチンユース代表、ビーチサッカーアルゼンチン代表で、現役時代は祖国アルゼンチンやスペインでプロとして活躍。現在は埼玉県に発足したクラブチームFC Futureで指揮を執っている。因みに息子であるエスクデロ競飛王は京都サンガから韓国・Kリーグの蔚山現代に期限付き移籍し、背番号9を付けてプレー中だ。

写真:本人提供
写真:本人提供

 リーベルもボカもブエノスアイレスを本拠地とする人気チームです。アルゼンチンでは伝統も実力もある2大クラブですね。

 かつて、リーベルは中流以上の階層に愛され、ボカは貧しい人に支えられていましたが、今はそうでもありません。両チーム共に名門なのでクラブとして潤っています。リーベルのファンにも貧しい人が沢山いますし、ボカのサポーターに裕福な人も大勢いますよ。

 アルゼンチンで行われるプロの公式戦は、10年ほど前からファンがAWAYのスタジアムに入れなくなりました。それは死人が出ないようにする為です。HOMEのファンしか応援に行けないんですよ。

 今年のリベルタドーレス杯の第1戦は、ボカのファンしかいないスタジアムでリーベルが引き分けた訳ですから、Vに王手をかけたと言っていい。実力的にも、ちょっとリーベルが上ですね。

 リーベルのサポーターのボスは、第2戦の偽造チケット300枚を持っていたことから警察にマークされていました。ボドイという名の男で、紛れもなくマフィアです。ボドイの刑事裁判は既に始まっていて、要注意人物だからスタジアムには入れないんです。それに腹を立てたボドイが、ボカのバスを攻撃することにしたというのが真相だと聞いています。

 アルゼンチンには、どのチームにもサポーターのボスがいて、マフィアであるケースが多い。そのボスは観戦に訪れたファンの車を預かって、駐車料金をもらって収益にしているんですよ。

 

 ボドイという男はサッカーを愛している人間ではなく、生粋の犯罪者です。だから、南米一を決める試合に胸を躍らせていたファンにとっては、迷惑以外の何物でもない人間です。純粋なサッカーファンが可哀相ですよ。

 それに加えて、リーベル側の警備があまり厳重ではなかったらしいです。スペシャリストを配置せずに、初心者が担当してしまった。つまり、警備も甘かったんですね。

 今、第2戦を12月4日か9日にパラグアイで開催するとか、リーベルにペナルティを課すべく、このままボカを優勝させればいいとか、インディペンディエンテ等、他のアルゼンチンのプロチームのスタジアムでやるとか、リーベルファンが購入した約7万人分のチケットはどうするんだとか色んな意見が乱れ飛んで、グチャグチャになっています。現時点では、リーベルのスタジアムで第2戦が開催されることはなさそうですが…。

 ボカが勝てば、7回目の南米チャンピオンとなります。リーベルが勝てば4回目です。

 僕自身、チャカリタの選手としてアルゼンチンの2部から1部リーグへの昇格が掛かったゲームでは、相手チームだったティギレのサポーターに襲われ、バスのガラス全てを割られた経験があります。右サイドバックの選手は負傷し、それでもピッチで闘いました。

 選手は試合に出れば闘志を見せてプレーしますよ。それがアルゼンチンのプロ選手です。でも、リーベルのスタジアムで試合が行われないのであれば、ボカが有利じゃないかな。

 第1戦が素晴らしい内容でしたから、僕自身とても楽しみにしているファイナルです。試合はどこかで行われるでしょうが、どうなるか、まだ分かりませんね。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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