Yahoo!ニュース

11月15日は「いい遺言の日」~不倫が目的の遺言は有効・無効?中学生でも遺言を残せる?

竹内豊行政書士
11月15日は「いい遺言の日」。遺言について考えてみてはいかがでしょうか。(写真:アフロ)

 11月15日は「いい遺言の日」です。「11・15」、「いい・いごん」。語呂合わせですね。一般的に遺言は「ゆいごん」と言われていますが、法律用語では、もっぱら「いごん」と呼びます。私が思うに、言いやすいからだと思います。

ちなみに、この記念日は、2006年(平成18年)に、りそな銀行が、家族・親戚が顔を合わす機会の多い年末年始を前に、夫婦で相続や遺言について考える機会を持ってもらう目的で定められたものです。

 そこで今回、遺言について読者の皆様が疑問に思っていること、私が依頼者からよく聞かれることを、一問一答形式でまとめてみました。お読み下さい。

Q1.何歳になれば法律的に有効な遺言を残すことができますか

A1.15歳以上で作成できます。

民法961条は「15歳に達した者は、遺言をすることができる。」と定めています。つまり、中学生でも法的に有効な遺言が作成できるということです。

 合わせて、民法963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」と定めています。このことを遺言能力といいます。遺言能力とは、遺言の内容を理解できるレベルの能力のことをいいます。ですから、15歳以上でも、遺言能力が欠如しているときに残した遺言は無効になります。

 遺言を巡る争いのほとんどは、認知症の方が残した遺言など、遺言能力を争点とするものです。遺言は心身共に元気な時に残すのがベストです。

Q2.自筆証書遺言(自分で書く遺言)は、全文・日付・署名を自書すれば有効ですか

A2.押印も必要です。

 民法968条1項は、「自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定めています。

 自筆証書遺言は自分一人で残すことができます(一方、公証役場で作成する公正証書遺言に、公証人、証人2名以上の面前で作成する)。したがって、「本当に本人が書いたのかわからない」のが現実です。そこで、法律は本人が残したことをできるだけ明らかにするために、全文・日付・氏名の自書に加えて押印を自筆証書遺言の成立要件にしました。

 印には決まりがありません。したがって、認印で押印しても結構です。しかし、遺言の信ぴょう性を高めるために実印で押印することをお勧めします。

 なお、自筆証書遺言には訂正方法が厳格に定められています(民法968条2項)。書き損じた箇所に二重線を引いて訂正印を押印するとった通常の方式とは異なります。法律の通りに訂正することは実際困難です。訂正する場合は、破棄した上で新たに作り直すようにしましょう。

Q3.夫婦で遺言を残そうと思います。同じ用紙に書いてもいいですか

A3.同一用紙に書くと無効になります。

 民法975条は「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定めています(これを、「共同遺言の禁止」と言います)。共同で遺言を残すと、他の者に遠慮するなどの気持ちが働いて自分の思うとおりの内容を残せないおそれがあるからです。

 最近、ご夫婦で遺言を残す方が増えています。この場合、くれぐれも同じ用紙に書かないようにしてください。仲が良いのは結構ですが、遺言に限ってはほどほどにしておきましょう。

Q4.遺言の内容を変更する場合、家庭裁判所から許可を得なければなりませんか

A4.その必要はありません。

 民法1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と定めています。つまり、遺言を残すのも、撤回するのも、新たに作成し直すのも自分の好きなようにできます。

 なお、遺言者の死後、複数の遺言が出てくると、遺言の真贋を巡る争いの原因になりかねません。新たに遺言を残したら、古い遺言をシュレッダー等で破棄しましょう。

Q5.実は、不倫をしています。不倫関係を継続するために、「愛人に全財産を残す」という内容の遺言を残そうと思います。問題ありますか

A5.問題あり過ぎです。

 民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」と定めています。公の秩序とは国家・社会の一般的利益、善良なる風俗とは社会の一般的倫理を意味します。つまり、公序良俗違反は法的に無効になります。

 不倫はどう考えても公序良俗に反する行為です。当然、不倫関係を維持する目的で残された遺言は無効となります。

 法律は、死後も自分の意思を実現できる唯一の手段として私たちに遺言を用意しました。「死後も自分の意思を実現したい!」とお考えの方は、遺言を検討してみてはいかがでしょうか。なお、その際はルール(法律)を守ることをくれぐれもお忘れなく!

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事