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感染が急拡大した場合の新型コロナ診断が簡略化 検査なしで大丈夫か

倉原優呼吸器内科医
オンライン診療(提供:イメージマート)

未曽有のオミクロン株感染拡大により、新型コロナの検査と診断が目詰まりを起こしています。全国的に抗原検査キットも品薄になりつつあり、保健所や検査機関の業務だけでなく、医療機関の発熱外来が逼迫する事態に陥っています。実際、毎朝行列ができているクリニックもあります。

感染拡大時における新型コロナの診断に関して、2つの緩和策が発出されました(1)。あくまで、今後感染がさらに継続して急拡大した場合の運用であることに注意が必要です。

重症化リスクが低い人はPCR検査等の確認が省略可能

緩和策の1つ目は、新型コロナの症状がある場合に、重症化リスクが低いと考えられる人、たとえば40歳未満で基礎疾患や肥満がない人・ワクチン2回接種済みの人などでは、抗原検査キットで自己診断した結果をもって、新型コロナの確定診断としても問題ないというものです。

つまり、PCR検査等のために改めて医療機関を受診することが省略でき、自宅療養を続けることができます。

診療・検査医療機関への受診に一定の時間を要する場合に、行政運用の「健康フォローアップセンター」を組み入れる想定です()。医師が常駐しており、遠隔で診断が可能になります。現在、複数の自治体で準備中です。

図. 感染が急拡大した場合の新型コロナ診断緩和案(筆者作成)
図. 感染が急拡大した場合の新型コロナ診断緩和案(筆者作成)

とはいえ、この実現にはハードルがいくつかあります。

まず、すでに抗原検査キットが品薄になりつつあることです。現在増産がかけられていますが、しばらく入手困難になる可能性があります。

また、抗原定性検査が1回陰性だからといって感染が否定されるわけではありません。これはウイルス量が少ない場合、感度が低くなる特性によるもので、春風亭昇太さんのように、抗原定性検査キットが陰性だったのにその後PCR検査が陽性になる事例もあります。

抗原検査キットが陰性の場合、医学的には陽性者と接触してから5~7日目に再検査することが望ましいですが(2)、日本ではこれを徹底する施策は正直難しいです。

発症した濃厚接触者も検査せずに診断

濃厚接触者に発熱などの症状が出現した場合、おおむね新型コロナの発症と考えてよいでしょう。

緩和策の2つ目は、外来医療の逼迫が想定される場合、新型コロナの検査を受けなくても、症状だけで医師が診断できるということです(図;上掲)。まったく濃厚接触者でない人が発熱した場合は、当然適用されません。

新型コロナに限らず、検査を実施しなくても医師が可能性が高いと判断すれば臨床診断が可能な病気はたくさんあります。

たとえば、インフルエンザでも同様の考え方が可能です。インフルエンザの検査を行わなくとも、医師は臨床的にインフルエンザと診断できます。

ただし、「とりあえず新型コロナにしちゃおう」みたいな安易な臨床診断は決して認められません。

現場で懸念されることとしては、濃厚接触者がたまたま別の疾患を発症した場合に「新型コロナ」だと誤認されるリスクがあることです。上述したように、基本的にはITを活用した診察が主体となる見込みですが(1)、政府分科会からは直接受診しないことに対する懸念の声もありました(3)。もちろん、患者さんが希望すれば直接医療機関を受診することができることは周知されるべきです。

なお、モルヌピラビルなどの治療薬の投与が必要となる場合は、現時点では医療機関での検査が必要になります。

無料検査が足かせに

全国の自治体では、無料でPCR検査等が受けられます。「感染に不安を感じる人」に対してどんどん無料検査を行えば、検査機関の業務は逼迫します。

感染が急拡大した場合、この施策が結果的に国民を苦しめる原因になりかねません。

唾液のPCR検査(photo ACより)
唾液のPCR検査(photo ACより)

濃厚接触者に対しても、積極的にPCR検査等を実施してきた自治体は少なくありません。さすがにオミクロン株の感染が拡大している現状、濃厚接触者への検査は、無症状陽性者を同定するメリットよりも、業務逼迫のデメリットのほうが大きいと思われます。

重症化リスクが高い人や高齢者に限られた医療資源を配分するのであれば、無料検査事業を一旦停止するなどのテコ入れが必要と思われます。

まとめ

感染が急拡大した場合の緩和策について書きましたが、適用される前にピークアウトしてくれることを祈るばかりです。これらはあくまで苦肉の策であり、与えられた条件で死亡者数を最少化するための戦略です。

色々と複雑になってきた現状を見ると、意外と第1波の頃の「〇度以上の発熱が□日以上続くまで自宅待機」のようなざっくりとした戦略のほうが、広く普及させる上では有効なのかもしれませんね。

重症化率はデルタ株より低くなってきましたが、オミクロン株にもさらに感染力が強いBA.2が報告されています。

不織布マスクの着用、こまめな手洗い、3密を避ける、といった基本的な感染対策を続けていく必要があります。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症の感染急拡大時の外来診療の対応について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000886501.pdf

(2) Drain PK. N Engl J Med. 2022; 386: 264-72.

(3) 濃厚接触者 検査なしでも診断「医療の負荷深刻に」尾身会長(URL:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220125/k10013449181000.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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