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オーガスタ・ナショナルがリブゴルフ選手の受け入れを発表、ゴルフ界の分断解決の「はじめの一歩」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 メジャー4大会の1つであるマスターズを主催するオーガスタ・ナショナルのフレッド・リドレー会長が12月20日(米国時間)に2023年マスターズの招待選手に関する重大な声明を発表。そのニュースは猛スピードで世界のゴルフ界を駆け巡っている。

 声明の中で、世界に衝撃をもたらしたのは次の2点だ。

 まず1点は「オーガスタ・ナショナルはマスターズの従来の出場資格を満たしている選手すべてを2023年マスターズに招待する」と発表したこと。

 このフレーズを少し補足して言い換えると、「オーガスタ・ナショナルはリブゴルフ選手の2023年マスターズへの出場を制限することなく受け入れる」という意味になる。

 具体的には、今年6月に創設されたリブゴルフへ移籍した選手の中で、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソン、パトリック・リード、バッバ・ワトソン、セルジオ・ガルシア、チャール・シュワーツェルは「マスターズの過去の優勝者」の資格を満たしているため、従来の規定通り、来年のマスターズ出場が認められたことになる。

 さらには、マスターズ以外のメジャー3大会(全米プロ、全米オープン、全英オープン)の過去5年以内の覇者、プレーヤーズ選手権の過去3年以内の覇者、世界ランキングのトップ50以内といったマスターズ出場資格を現時点で満たしているキャメロン・スミス、ブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボー、ルイ・ウエストヘーゼン、ホアキン・ニーマン、エイブラハム・アンサー、ジェイソン・コクラック、テーラー・グーチ、ケビン・ナ、ハロルド・バーナーに対しても、オーガスタ・ナショナルは「今週、招待状を送る」という発表だった。

【今後のマスターズ出場資格の修正の可能性】

 世界を驚かせたもう1点は「今後のマスターズへの招待(=出場)資格の修正に関しては4月に発表する」というものだ。

 これを補足して言い換えると、「現状ではマスターズ出場資格の中には『世界ランキングのトップ50』と明記されているが、今後はその部分を修正する可能性が高く、最終結論は4月に発表する」という意味になる。

 これをさらに咀嚼すると、現在、リブゴルフは世界ランキングの対象外であり、すでにPGAツアーから資格停止処分を科されているリブゴルフ選手は、世界ランキングのポイントを稼ぐ場と機会が閉ざされている。

 その状況を打破すべく、リブゴルフは「世界ランキングの対象ツアーとして認めてほしい」とOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)に申請しているが、審査には時間を要しており、いまなお「検討中」とされている。そのため、リブゴルフ選手の世界ランキングは下降の一途を辿っている。

 オーガスタ・ナショナルが今後のマスターズ出場資格を見直す可能性を示唆したことは、世界ランキングを向上させる方法を失っているリブゴルフ選手たちを、マスターズ出場資格を変更してでも迎え入れる意思を示したと解釈できる。

【この声明がもたらすものは?】

 リドレー会長は声明の冒頭で、これまでオーガスタ・ナショナルで戦ってきたジーン・サラゼンやバイロン・ネルソン、アーノルド・パーマーやジャック・ニクラス、タイガー・ウッズといった歴代の名手たちの名を挙げ、「彼らのおかげでゴルフはより良いものになった」と述べた。

 さらにリドレー会長は、リブゴルフが創設されて以来、PGAツアーや欧州のDPワールドツアーといった旧来のツアーとの対立が深まっている現状を鑑み、「先人たちが築いた意義深いレガシーとゴルフというゲームが男子プロゴルフ界の分断によって衰退しつつあることが悔やまれる」とも記し、「これまで何年間も、さまざまな困難を克服してきたオーガスタ・ナショナルは、再び、辛抱強く困難に向き合っていく」という確固たる意思を示した。

 今回のリドレー会長の声明は、マスターズ以外のメジャー3大会の主催団体であるPGAオブ・アメリカ(全米プロ)、USGA(全米オープン)、R&A(全英オープン)にも大きな影響をもたらすことだろう。

 これまではPGAツアーがリブゴルフへ移籍した選手に資格停止処分を科したように、メジャー4大会の主催団体もリブゴルフ選手の出場を拒否する可能性さえ取り沙汰されていたが、オーガスタ・ナショナルがリブゴルフ選手を受け入れる意思を示したことで、PGAオブ・アメリカやUSGA、R&Aもオーガスタ・ナショナルの方針に追随する可能性が一気に高まったと見ることができる。

 リブゴルフ選手を「拒否しないこと」「受け入れること」で、男子プロゴルフ界の現在の分断が、果たして本当に改善されるのかどうかは、今は誰にもわからない。

 PGAツアーに背を向け、リブゴルフに移籍した選手たちを敵視する人々は顔をしかめ、マスターズに出られることになったリブゴルフ選手たちは歓喜し、そこにさらなる確執が生じる可能性もなくはないが、逆に争点が1つ減ったことで確執が減る可能性もなくはない。

 どのツアーの選手であれ、グッドプレーヤーのゴルフを楽しめると喜んでいるファンもいることだろう。

 未来のことは神のみぞ知るところだがオーガスタ・ナショナルが確固とした信念の下、ついに、はじめの一歩を踏み出したことだけは確かだ。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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