「違いを認める」。障害のある子どもの施設をゼロから立ち上げた太田恵理子さんが見出す“吉本新喜劇の光”
水頭症と診断された長男を育てる中で感じた苦悩をもとに「株式会社ハビリテ」(徳島市)を立ち上げ、障害のある子どもを預かる施設を運営する同社代表取締役の太田恵理子さん(35)。現在は約50人の子どもが通い、約20人の職員が働いていますが、その活動の中で痛感したSNSの功罪。そして、笑いの世界から見出した光と影とは。
「ないなら、作ろう」
5年前に長男を出産したんですけど、水頭症と診断され、働くにも預かってくれる保育所が見つからなかったんです。
自分の経験をもとに「ないなら、作ろう」と考えて2018年に会社を立ち上げ、19年から実際に施設を運営してきました。
今の活動にあたる中で、親御さんの世代によって障害に対する意識に差があるとも感じています。
もちろん、一概に言えることではありませんが、私より少し上の世代の親御さんはお子さんの障害を隠す意識の強い方が多いのかなと。
その世代の方々より下の世代になると、すごくオープンにされる方が多い。それも強く感じています。その事実を皆さんと共有するといいますか。そこに大きく影響しているのがSNSだと考えています。
SNSの功罪
SNSで発信する人が増えていくにつれ「ウチの子もそうなんだよ」という声をあげやすくなった。そのコミュニティー形成にSNSが大きな力を及ぼしているのは間違いないと思います。
SNSの功罪、特に誹謗中傷などは社会問題にもなっています。特に芸能界だとか目立つ存在の方々からすると、とりわけ大きな課題になっていると思います。
ただ、私にとってSNSはほぼ100%良いことだけを享受している。それを痛感しています。Instagramのハッシュタグ検索で自分の子どもの病名を入れれば、同じような親御さんとつながれる。そのことで救われている親御さんは本当にたくさんいます。
それでも難しい部分もあって、私が主にしているのはFacebookとInstagram。匿名性の高いTwitterはほとんどやっていないんです。
そういう使い分けが必要ということは全面的に良いことばかりではないことの証明でもあるんですけど、現時点で私のいる世界では、ほぼメリットだけを抽出できていると思っています。
笑いにおける“やさしさ”から見えるもの
同じ境遇の親同士がつながれる。思いを共有できる。
これは本当に素晴らしいことなんですけど、それと同時に、障害がある子とそうでない子が一緒にいる。その意味も強く感じます。自然に違いを学ぶ。違うことが自然になる。その意味もすごくあると思うんです。
世の中を見ると、テレビの世界などでもここ数年急速に価値観の変化がもたらされていると感じます。
私はエンターテインメントのプロでもなんでもないんですけど、人と違うことを認める。違いに優しくなる。その方向は歓迎ですし、多くの人がナチュラルにそちらに進めば良いなとは思っています。
ただ、その中で違和感を覚えることもあるというか、逆に気をつけないといけないと感じるところもあるんです。
例えば、吉本新喜劇では池乃めだかさんが体が小さいことで笑いを取っている。普通の感覚ならコンプレックスになりかねないことが武器になる。
すごく難しい領域ではありますけど、それを実現できるのもお笑いの世界の素晴らしいところだと外から見ていて強く感じています。
お笑いのプロでもない人間がおこがましい限りですけど(笑)、押しつけのやさしさではなく、本当にフラットなやさしさ。それが根付く世の中であってほしい。そう思うばかりです。
(撮影・中西正男)
■太田恵理子(おおた・えりこ)
1986年9月5日生まれ。徳島県出身。香川大学卒業後、厨房機器メーカーに勤務する。2017年に水頭症と診断された長男を出産後、預ける施設が見つからず復職をあきらめる。「ないなら自分でつくるしかない」との思いで起業し、2018年に「ハビリテ」を設立。19年、障害をもつ未就学児のための発達支援施設を「おやこ支援室ゆずりは」を開業した。