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「肺炎の有無」が重要 医療逼迫の予測が困難な新型コロナ第7波

倉原優呼吸器内科医
(個人防護具を着用する筆者)

現在、新型コロナのオミクロン株の亜系統BA.5が主流の第7波が到来しています。私の勤務する病院は軽症中等症病床を運用していますが、病床が次第に逼迫しつつあり、患者数のピークが予想できません。日々、新規の新型コロナ患者さんを診療する上で重要なのは「肺炎の有無」です。

医療機関のクラスターが多発

コロナ禍始まって以来、当院でいつぶりかという「新型コロナの入院患者数ゼロ」を6月12日に達成したのですが、つかの間の休息に過ぎませんでした。そこからわずか1か月で、コロナ病棟は別の景色となりつつあります。

第6波は周囲の感染が高齢者に波及する形で新規陽性者が増えていきましたが、今回は全年齢で同時に感染急増が始まっています(1)。

BA.5はBA.2と重症化率がさほど変わらないとされており、もしかすると第6波に記録した過去最多の死亡者数を更新するかもしれません (図1)。死亡者数の増加は、グラフにあるように、必ず遅れてやってきます

図1. 国内の新型コロナ 新規陽性者数と死亡者数(筆者作成)
図1. 国内の新型コロナ 新規陽性者数と死亡者数(筆者作成)

現在、全国の医療機関で職員が陽性になったりクラスターが発生したりする事例が増えています。高齢者施設のクラスターも相変わらず多いです。また、保健所の職員クラスターによって、業務に差し支えが出ている地域もあります。

岸田総理は7月14日、記者会見で新型コロナワクチンの4回目接種の対象を医療従事者や高齢者施設の従事者に拡大することを表明しました。すみやかにワクチン供給がすすめばよいですが、第7波のピークには接種が間に合わないかもしれません。

BA.5はほとんどが軽症ですが、第6波のときのように「数の力」に圧倒されてしまうと、医療機関の内部から瓦解するように医療逼迫が急速に進んでいます(図2)。

図2. 医療逼迫の懸念(筆者作成)
図2. 医療逼迫の懸念(筆者作成)

諸外国との比較がいろいろ報道されていますが、過去の波を見ても同じように推移する保証はなく、波ごとに振れ幅が大きいことから、医療機関としても戸惑いがあります。

現場では「肺炎の有無」を注視

第6波は、新規陽性者数が急増し、医療逼迫が報道された時からやや遅れて、肺炎を併発する事例が増えました。新型コロナの感染者数が増えすぎて、強い症状で水面上に浮上してくる肺炎患者さんを効率よく拾い上げられたからだろうと思います。

新型コロナは、肺炎を併発すると酸素の取り込みが阻害されるため、致死率がグンと上がります。図3で左右に2つ見える黒いモノが肺です。肺炎があると、黒い部分が白いペンキを刷毛で塗ったようになります。

図3. 肺炎の有無について(筆者作成)
図3. 肺炎の有無について(筆者作成)

そのため、現在入院要請が続く中で、肺炎を併発している患者さんが入院してこないか、いつも注視しています。

「新型コロナはもはやただの風邪」でよいか?

オミクロン株になって、確かに感染者全体での重症化率は大きく下がりました。しかし、それでもなお入院を必要とする患者さんの絶対数は多いです。

「新型コロナはもはやただの風邪」という意見はよく目にします。リスクコミュニケーションの観点からはインフルエンザや風邪に近くなりつつあるという認識を持ってもよいと思いますが、医学的にまったく同等の感染症とは言えないという点も留意しておくべきです。

実際、軽症が多いとされる子どもにおいても、弱毒化したオミクロン株でさえ、インフルエンザと比較して小児ICUに入室するリスクは2倍、神経学的な合併症は1.9倍高いと報告されています(2)。

「諸外国はすでに風邪のように扱っている」という見解も部分的に正しいですが、現在の日本より多い感染者数と死者数を飲み込んだ上での対応であり、日本でこれが是認されるのかどうかは別問題です。

とはいえ、たとえば保健所の全数報告がもはや体を成していないことから、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで骨抜きにするなら、こうした現場の実務的なところからだと考えています。

まとめ

第7波の新規陽性者数のピークが予想より少なく終わるのか、10万人単位に増えてくるのか、現時点での予測は困難です。

BA.5の多くは軽症で終わりますが、感染者数が過去最多になると、これに引っ張られる形で肺炎を併発して重症化・死亡にいたる事例も増えると予想されます。

強い息切れや咳を伴う場合、肺炎を併発している可能性があります。無理をせず、かかりつけ医や自治体の相談窓口(3)に相談しましょう。

(参考)

(1) 第90回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年7月13日). 資料1.(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000964382.pdf

(2) Tso WWY, et al. Emerg Microbes Infect. 2022 Dec;11(1):1742-1750.

(3) 新型コロナウイルスに関する相談・医療の情報や受診・相談センターの連絡先(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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