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新たな二刀流起用法を打ち出したジョー・マドン監督が示した大谷翔平への“観る” “話す” “聞く”姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
オープン戦初登板で投手復活を印象づけた大谷選手(Angels Baseball)

【投手として完全復活を印象づけた初登板】

 今シーズンに二刀流の完全復活を目指す大谷翔平選手が、現地時間の3月5日に実施されたアスレチックス戦でオープン戦初登板し、投手としての復活を印象づける投球を披露した。

 スプリングトレーニングが始まって以降、投球フォームが進化したことで、フォームの持続性と制球力に安定感が生まれ、ジョー・マドン監督や米メディアからずっと好評価を受けてきたが、実戦段階に移行しても大谷選手の投球は素晴らしかった。

 球数の関係で2回途中での交代となったが、すでに日本でも報じられているように、球速は最速で100マイル(約161キロ)を計測し、5つのアウトをすべて三振で仕留めるなど、終始打者を圧倒し続けた。

 昨シーズンは公式戦2試合に登板し、制球力が定まらずわずか1.2イニングしか投げられなかったことを考えれば、まさに隔世の感がある。大谷選手のみならず、誰もが大谷選手の投手復活に手応えを感じたはずだ。

【マドン監督が打ち出した新たな二刀流起用法】

 そんな大谷選手のオープン戦初登板前に、ちょっとしたニュースが飛び込んできた。

 試合前に実施されたマドン監督のオンライン会見で、大谷選手の今シーズンの起用法について、従来の起用法にとらわれない独自の方針を明らかにしていたのだ。

 米メディアから投手としての登板頻度を聞かれた指揮官は、以下のように答えている。

 「先発ローテーションの中に入り、(従来のように)決まった曜日に投げることはない。

 まだ先発の順番は決まっていないが、それが決定したのなら、その順番で投げていくことになり、他の先発投手と同様にローテーションに合わせて登板日が決まっていくことになる」

 マドン監督の構想では、今シーズン6人で先発ローテーションを回していく予定なので、基本的には中5日で投げていくことになるが、登板間に試合がない日を挟めば中6日になるケースも生じるというものだ。

 これまでエンジェルスでの起用法は日本ハム時代のそれを踏襲し、中6日登板を絶対視し堅守してきたが、マドン監督はまず投手としての起用を優先し、それに応じて打者としての起用を考案していくという新方針を打ち出したわけだ。

オンライン会見で大谷選手の二刀流起用法について説明するジョー・マドン監督(筆者撮影)
オンライン会見で大谷選手の二刀流起用法について説明するジョー・マドン監督(筆者撮影)

【その根底にあるのは大谷選手との密な対話】

 実を言うとマドン監督はスプリングトレーニング開始当初から、大谷選手の二刀流起用法について「すべてにおいて制限がない」と説明し、従来のかたちにとらわれない方針を示していた。

 この言葉を聞いた当初は、二刀流の調整の上で何の制限がなくなったことを説明しているものだと思っていたのだが、さらにマドン監督の説明を聞いていると、起用法についても制限を設けないことを意味しているのだと理解できた。

 マドン監督はスプリングトレーニングが始まると、すべての選手と個別面談を実施するのが習わしになっているが、大谷選手とも早い段階で話し合いの場を設けている。その中でマドン監督は、大谷選手に正直に自分の思いを発するように伝えたという。

 「もっと野球選手として自分のキャリアに介入するように伝えた。もちろん日本での育んできたものに敬意を表しているが、自分が感じていることを首脳陣に正直に話すことは、決して相手を侮辱することではない。納得できないことがあれば、それを正直に伝えてくれるように話した」

 つまりマドン監督は従来の方針にとらわれず、大谷選手から正直な気持ちを確認しながら起用法を考案していこうとしているのだ。大谷選手自身もマドン監督の考えに賛同しているという。

【大谷選手との“観る” “話す” “聞く”で起用法が決定】

 もちろん今回打ち出した起用法についても、大谷選手と話し合った上でだされたものだろう。そうでなければ根本が崩れてしまう。

 「これまで彼のキャリアについては我々以上に彼自身が理解している。その上で我々としては、(彼に対し)制限やルールを設けたくなかった。制限を設ければケガを予防することができるかもしれないが、現在はどうしてもケガをしてしまうものだ。

 そこで“watch(観る)” “talk(話す)” “listen(聞く)”を毎日繰り返しながら信頼関係を構築していき、その時々で最善の決断を出していきたい。

 過去の起用法に関係なく、彼にはチームの中で他の選手と同様に扱われていると感じて欲しい。唯一の違いは、投手と打者の両方で高いレベルでプレーできるということだ」

 今シーズン大谷選手が二刀流として完全復活し、シーズンを通して周囲の期待に応える活躍をした時には、マドン監督と間で素晴らしい師弟関係が築き上がられていることだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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