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母子二代制覇を目指すヴィクトリアM目前にアパパネの仔アカイトリノムスメが引退

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
阪神牝馬Sのパドックでのアカイトリノムスメ。鞍上は戸崎圭太騎手

母はあの牝馬3冠馬

 4月10日の阪神競馬場。国枝栄厩舎のスタッフから声をかけられた私は、逆に質問をした。

 「アカイトリノムスメは大丈夫ですか?」

 これに対する答えは「あまり大丈夫じゃないかもしれません」。

 前日の同競馬場で阪神牝馬S(GⅡ)に出走を予定していたアカイトリノムスメ。本馬場入場直前まで姿をみせていたが、馬場入りはせずにUターン。そのまま出走を取り消していた。

阪神牝馬Sのパドックを出て本馬場へ向かうアカイトリノムスメ。残念ながらこのあと馬場入りする事はなく、この度、引退が発表された
阪神牝馬Sのパドックを出て本馬場へ向かうアカイトリノムスメ。残念ながらこのあと馬場入りする事はなく、この度、引退が発表された

 話は2010年まで遡る。この年の牝馬クラシック戦線は1頭のキングカメハメハ産駒が大活躍をみせた。

 アパパネ。

 管理したのは国枝栄調教師だった。

 「お母さんのソルティビッドも面倒を見させてもらいました。彼女はスピードの勝ったタイプでしたけど、ダービー馬と配合された事で、アパパネは距離がもつ仔になりました」

 09年に阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)を制した同馬は翌10年の桜花賞(GⅠ)、オークス(GⅠ)、秋華賞(GⅠ)をコンプリート。見事に牝馬3冠馬となってみせた。

10年秋華賞(GⅠ)を制し牝馬3冠を達成した際のアパパネ。右から2人目が国枝調教師
10年秋華賞(GⅠ)を制し牝馬3冠を達成した際のアパパネ。右から2人目が国枝調教師

 そんな名牝は繁殖入りしてからも続々とそれなりに走る子供達を生む。14年生まれのモクレレが4勝して準オープンまで出世すると、15年生まれのジナンボーもやはり4勝。2年連続で新潟記念(GⅢ)2着した他、ジャパンC(GⅠ)や天皇賞(秋)(GⅠ)にも出走した。更に2つ下のラインベックも皐月賞(GⅠ)やNHKマイルC(GⅠ)といったビッグレースに名を連ねるまでになった。

19年ジャパンC(GⅠ)に出走したアパパネ産駒のジナンボー
19年ジャパンC(GⅠ)に出走したアパパネ産駒のジナンボー

母娘2代でGⅠ制覇

 しかし、母ほどの活躍をする仔はなかなか現れなかったが、昨年、ついにGⅠを射止める女の子が現れた。父は7冠馬のディープインパクト。母の名のアパパネ(ハワイ固有種の赤い色の鳥類)からの連想で命名されたその馬こそ、アカイトリノムスメだった。

 春先、桜花賞が4着でオークスは2着に終わると、国枝は苦笑交じりに次のように語った。

 「お母さんと比べるにはまだまだひ弱いところがあります。本当に強くなるのはもう少し先でしょう」

オークス(GⅠ)はユーバーレーベンの2着に敗れたアカイトリノムスメ(ゼッケン7番)
オークス(GⅠ)はユーバーレーベンの2着に敗れたアカイトリノムスメ(ゼッケン7番)

 その見解に誤りがなかった事を、アカイトリノムスメ自身が証明する。

 オークスから約5ケ月ぶりに出走となった秋華賞(GⅠ)の直線で先頭に立った同馬は、後続の追撃を抑え母娘二代の秋華賞制覇を成し遂げてみせたのだ。

 「序盤で前を壁に出来ず、少し掛かってしまった時には心配したけど少ししたら落ち着いて走ってくれました。最後ギリギリまで分からなかったけど、勝てて良かったです。母子三代にわたってかかわらせていただいた馬でGⅠを勝てた事が嬉しかったです」

 指揮官はそう言って笑みをみせた。

 古馬となった今年はますますの成長をみせ、母に追いつき追い越す活躍が期待された。その手始めとして出走を予定していた阪神牝馬Sだが、馬場入り直前に右第3趾骨を骨折。本来ならこれまた母娘制覇を目指して出走を表明していたであろう今週末のヴィクトリアマイル(GⅠ)を目前に、引退が発表されたのは残念でならない。これから親子三代にわたるGⅠ馬を産んでくれる事を願おう。

今週末に行われるヴィクトリアマイル(GⅠ)を11年にアパパネが制した際のワンシーン
今週末に行われるヴィクトリアマイル(GⅠ)を11年にアパパネが制した際のワンシーン

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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