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2年連続の防御率タイトル獲得を逃した山本由伸 それでもオリックスの判断は絶対的に正しかった理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
山本由伸投手が投手として完全開花するのはこれからだ(筆者撮影)

【2年連続防御率タイトルを逃した山本由伸投手】

 11月7日にオリックスは2020年シーズンの公式最終戦を迎えた。試合に発表された公示で、出場選手登録されたのはこの日先発予定だった榊原翼投手1人のみ。10月21日以来登録抹消されている山本由伸投手の名前はなかった。

 この結果山本投手は、10月20日の楽天戦での登板を最後に、今シーズンを終了することになった。当時は防御率と奪三振のタイトル争いで独走態勢にあったが、最終的に千賀滉大投手が猛烈な追い上げをみせ、防御率は逆転され、奪三振も149で並ばれる結果になった。

 昨年防御率タイトルを獲得していた山本投手には、2年連続のタイトル奪取の期待がかかっていたが、残念ながら実現することはできなかった。最下位チームの投手で2年連続防御率タイトルを獲得するのは史上初だったこともあり、残念に思うファンも少なくないはずだ。

【計算上は3イニング無失点で再逆転が可能だった】

 11月4日に千賀投手がロッテ戦で8回無失点の好投を演じ、山本投手の防御率を抜いた時点で、オリックスは3試合の公式戦を残しており、再逆転できるチャンスはあった。

 千賀投手は121イニングを投げ自責点29でシーズンを終えたため、防御率は2.157となった。一方山本投手は11月4日時点で、126.2イニングを投げ自責点は31だったので、防御率は2.203だった。

 もし山本投手が残り3試合で3イニングを無失点に抑えれば、防御率は2.152になり、計算上は再逆転できていた。

 もちろん10月20日以降実戦から遠ざかっていた山本投手が、確実に3イニングを無失点に抑えられる保証はまったくない。さらに3イニング内に1失点を許せば、7.1イニング以上を投げ続け、残りを無失点に抑えないと再逆転できなかったことを考えれば、決して簡単なことではなかった。

 ただ登板していたとしたら三振を奪う可能性は十分にあったので、奪三振のタイトルは単独で獲得できていたかもしれない。

【山本投手は投げられる状態になかった?】

 10月21日に山本投手が登録抹消になったのは、チームの発表によれば、「上半身のコンディション不良があり、疲労を考慮されたもの」だった。

 それを物語るように、登録抹消された直後の山本投手は試合前の練習でキャッチボールすらも行わず、見学に徹していた。明らかに疲労回復に努めていた。自分が確認した限りでは、それ以降も通常通りの練習を再開しておらず、この時点で今シーズン中の登板は見送られていたと考えていいだろう。

 となれば、千賀投手に防御率を抜かれた時点で、すでに万全な状態で試合に投げられる状態にはなく、登板機会を用意しなかったオリックスの判断は至極正しかったということになる。

【MLBでは若手投手のシャットダウンは当たり前】

 今更ではあるが、山本投手はすでにNPBを代表する先発投手になったという一方で、まだ22歳の選手でしかないという事実があることだ。

 もし山本投手がMLBに在籍する投手だったならば、高卒からプロ入りした投手として22歳という年齢は、育成プログラムで徹底管理され、年間のイニング数、球数も制限されている時期だ。

 その状況下で、シーズン終盤に疲労が確認されたとしたら、チームは間違いなく残りシーズンのシャットダウンを厳命し、投手に休養を与えるのが当然の措置なのだ。そうした例を何度も現場で目撃してきた。

 別表をチェックしてほしい。高卒選手として順調にMLB昇格を果たし現在もMLBトップクラスの先発投手の評価を受けている、クレイトン・カーショウ投手とノア・シンダーガード投手の23歳までの試合数、イニング数を示したものだ。

(筆者作成)
(筆者作成)

 如何だろう。多少の差はあるものの、両投手ともに年々マイナーのレベルを上げていき、それとともに徐々にイニング数を増やしながらMLBに到達し、MLBに昇格した後も、しっかりイニング数が管理されているのが理解できるだろう。

【山本投手の本領発揮はこれから】

 つまり現在の山本投手は年齢的にまだ育成課程であり、しっかりチームがモニタリングすべき選手なのだ。疲労を考慮されたシャットダウンは当然な措置であり、それはすべて先発投手として長年活躍するための、大事なプロセスだと考えるべきだろう。

 もちろん個人タイトルを狙えるチャンスは常に訪れるわけではない。だが現在の打者を圧倒する山本投手の投球スタイルが調整法や技術を含め完成することになれば、彼は毎年のようにタイトルを争える存在になれるだろう。

 カーショウ投手も23歳から先発投手として一本立ちし、4年連続で防御率タイトルを獲得し、3度のサイヤング賞と1度のMVPを受賞している。

 今回のシャットダウンは、必ず来シーズン以降の山本投手の糧になるはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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