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「時間って何?」世界的ミリオンセラー物理学者に訊いてみた「あなたの心はタイムマシン」

木村正人在英国際ジャーナリスト
「時間って何か」考えてみては(写真:アフロ)

[ロンドン発]『すごい物理学講義』で日本でもおなじみの仏エクス・マルセイユ大学理論物理学センター量子重力理論研究グループのカルロ・ロヴェッリ部長(61)に時間について初歩的な3つの質問をしてみました。

カルロ・ロヴェッリ氏(筆者撮影)
カルロ・ロヴェッリ氏(筆者撮影)

――近い将来、タイムマシンはできますか

「タイムマシンは理論的には可能ですが、それを作るのは非常に難しい。起こりそうもありません」

――宇宙に行くと年を取るのが遅くなるというのは本当ですか

「米SF映画『インターステラー』(2014年)でも紹介されたシーンですが、それはファンタジーでも何でもなく、現実です。まさしく宇宙はそのように機能しています」

「ブラックホールに向かって非常に早く移動し、そこに次の1世紀、3~5世紀滞在して地球に戻ってくるというアイデアは、タイムマシンに乗るのと理論的には同じです」

(注)『インターステラー』の科学コンサルタントは理論物理学者キップ・ソーン氏。ソーン氏は2017年、重力波の観測でノーベル物理学賞を受賞

――人間にとって時間とは何なのでしょう

「時間の概念には物理学、生理学、哲学、神経科学といったいくつもの層があります。アメリカの神経学者(ディーン・バオノマーノ氏)は『人間の脳はタイムマシン』と言いました」

「人間にとっての過去は記憶であり、未来は期待やアイデアです。人間にとっての時間を理解するのは物理学よりも神経科学で人間の意識を理解した方が役に立ちます」

ブラックホールのように重力がとても強いところでは時間がゆっくり進むことが分かっています。ロヴェッリ氏は「理論物理学的には遠く離れた宇宙のかなたと地球上で暮らす私たちに同じ『現在』は存在しません」と言います。

しかし地球上で暮らす私たちの間での時間の遅れは限りなくゼロに近いので、私たちは同じ「現在」を共有しているように認識しています。

時間は過去から現在、未来に向けて不可逆的に流れているように見えます。その一方で、頭の中では過去と現在、未来の間を自由に行ったり来たりしています。

人間の意識の中では過去は記憶であったりノスタルジーであったりし、未来は期待であったりアイデアであったりするとロヴェッリ氏は解説します。

ロヴェッリ氏はアルベルト・アインシュタインの相対性理論と量子力学の統合を目指す新理論の一つ、ループ量子重力理論の第一人者です。時空(時間と空間)にもそれ以上の分割不可能な最小単位の「原子」が存在するという考え方です。

専門書を書いても読んでくれるのが同業者や学生に限られているので、ロヴェッリ氏は一般書として『物理学の7つのレッスン(筆者仮訳、Seven Brief Lessons on Physics)』を出版したところ世界40カ国語以上に翻訳され、130万部が売れるミリオンセラーになりました。

そして4月26日に新著『時間の流れ(筆者仮訳、The Order of Time)』を出版しました。理論物理学で時間の流れを解明するよりも、人間の意識の中でどのように過去と未来が認識されているのかを知る方が人類にとってもっと意義があるとロヴェッリ氏は言います。

ロヴェッリ氏は「時間の無駄」をなくすよりも「無駄に過ごす時間」が大好きだそうです。私たちは時間の中に生きているのか、時間は私たちの中に存在しているのか、思索にふけってみるのも一興かもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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