【音キュレッタ vol.1】 SKY-HI、2014年要注目のニューヒーローの誕生!
クロスレビュー形式な音楽キュレーション企画【音キュレッタ vol.1】!
情報過多な音楽ニュースのなかから、いまチェックすべき要注目アーティストの魅力を、音楽シーンの目利きを迎えて多面的に伝えたい、クロスレビュー形式な音楽キュレーション企画【音キュレッタ】!
第一弾は、3月12日(水)にファーストソロアルバム『TRICKSTER』をリリースする新人ラッパーSKY-HIをピックアップ。
SKY-HIこと日高光啓は、今年5月より大規模な全国ツアーがはじまり、秋には横浜アリーナ2デイズ公演も決定している人気グループAAAのメンバーとしても知られている。しかし、中学生の頃からヒップホップ好きだったこともあり、プロダクション黙認で自ら積極的なクラブ活動によってシーンの信頼を得て、さらにプレゼンテーション資料を作りメーカーを直に説得することでソロデビューへ結びつけた努力の人であることに注目したい。
ポップシーンの最前線で活躍してきた日高は、詞曲ラップを手がけるソロプロジェクトSKY-HIとしての活動を平行することで、自らが夢見る“ヒーロー然とした”アーティスト活動を現実のものとした。そして3月9日(日)、全国ツアーのファイナル公演を満員のZep DiverCityで迎えたのだ。
今回のゲストは、そんなライブを目撃したヴィレッジヴァンガード下北沢店の名物スタッフであり、イベントスペースである渋谷ソラハウス館長でもあり、でんぱ組.inc、赤い公園、東京女子流、Bis、おおたえみりなどがディズニーナンバーをカバー参加して話題の『Disney Rocks!!! Girl's Power!』コンピの企画など、様々なCDプロデュースをされるポップカルチャーの目利き、金田謙太郎氏を迎えて、SKY-HIの魅力へ切り込んでいきたい。
●target gig
SKY-HI TOUR 2014 『Trip of TRICKSTER』
2014年3月9日(日)18時〜20時@Zep DiverCity
●point of view:金田謙太郎が観たSKY-HI
例えどんなジャンルの音楽が好きだろうとそんな事は一切関係なく、今パフォーマンスを絶対観なければいけない、作品を聴かなければいけない類のミュージシャンというのはその時その時にいるけれど、今はその一人に間違いなくSKY-HIがいると大袈裟ではなく思いますと、まず最初に結論でした。なのでここだけ見てくれれば正直あとは読まなくていいです。パフォーマンスを見れば、音を聴けば分かります。誰でも。きっと絶対に。
「人生ひっくり返せ」、「全部ぶつけてくれ。全部ちゃんと受け止めるから」とSKY-HIは今回のツアーで度々言っていた。本物のヒーローだ。SKY-HI のライブを見た人はきっとみんな、多かれ少なかれこういう感想を持つと思う。それも古き良き日本的なヒーロー。完全無欠にカッコいいという訳では決してない。 器用なようで不器用で、常に熱くむき出しで、正直で真っすぐで、皆の想いを受け止めて、その想いに全身全霊で応えて、それを見た人の心に確実になにかを残し、力強く背中を押してくれる類いのアレだ。カッコ良さと、カッコ悪さの中から底光りするカッコ良さが同居するあの感じです。
と、そういう姿勢だけで判断評価するのはフェアじゃないと思う。パフォーマーである以上それ以外の所がとても大事。でもそこももちろん大丈夫。これだけ踊りながらラップできるミュージシャンは、サラリとピアノを弾きながらラップできるミュージシャンは、世界でもそういないはず。片方はできても両方となるとそんな簡単な話じゃない(片方だって簡単じゃないけど)。掛け値無しに努力の賜物でしかない。そんなレベルのソロ活動を、国内トップクラスのアイドルグループであるAAAのメンバーとしての活動と並行して続けている。
その上、一人のラッパーとして、何年も、ストリクトリーなヒップホップの現場で夜な夜な現場でマイクを握り続けながら。姿勢だけで音楽を評価する事と同じく、ステージに立つプロのミュージシャンに対して努力がどうのと書くのは失礼だと思う。努力はプロの前提条件だから。でもどう考えたって普通の努力じゃない。それに加えてライブではDJ Jr.とSKY-HIダンサーズとの息の合った素晴らしいコンビネーションまである。本当に、どこまで見に来てくれた人を楽しませる事を考えているんだろう!
3月12日発売の実質的なファーストソロアルバム『TRICKSTER』も必聴。日本ではかなり早い段階で、ダフト・パンク「Get Lucky」に対して見事なアンサーを返したと思える素晴らしき「愛ブルーム」、ハイパーレトロモダンなスウィングビートに乗って、自分の力で人生を引っくり返せと熱く吠える「トリックスター」などリード楽曲は勿論、オーセンティックなブレイクビーツと少し割れたようなピアノの旋律が、変わらず前に進む人生と、変わってしまった人生の苦みを表現するラブソング「Diary」、穏やかで柔らかなフロウとそれに寄り添うシンセの旋律が心地よい「Diary」とはネガポジの関係にある「Blanket」、今の音楽を取り巻く状況に、ミュージシャンとして真っすぐに意見を表明した「Tyrant Island」他、どれも聴きごたえがあります。
楽曲に合わせてフロウは勿論、声質まで変えて(いるように聴こえる)、丁寧に楽曲の世界とのマッチングを試みている、歯切れが良く、言葉スッと入ってくるラップと歌も素晴らしい。ミュージシャンとして伝えたい信念と、エンターテインメントとしての軽みがちゃんと同居しているアルバムです。
と、ここまで書きながらだけど、音もパフォーマンスもどちらも、まだ荒削りな部分は正直多いと思います。でもどう見てもSKY-HIが現状に満足しているはずがないし、更なる高みを見せてくれる期待も感じさせるし、間違いなくそれに応えてくれるはずです。SKY-HIの楽曲とパフォーマンスは、未だ途上ながら音楽でエンターテインする事させる事についてのあらゆる可能性があって、そしてここからどこにでも飛んで行けるしいつでも戻ってきたくなる感じもあります。マス対コアの二律背反から生まれる求心力も並みじゃないです。
これ、正直少し盛って書いてます。でもその盛った分の期待のハードルを、SKY-HIは必ず越えてくれると思ってます。最後にもう一度。お願いします。是非一度でいいからパフォーマンスを見てください。作品を聴いてみてください。きっと今までの音楽体験に素晴らしい上書きしてくれるはずです。ヒーローとはそういう存在なんですから。
●point of view:ふくりゅうが観たSKY-HI
2006年に活動開始を決意した、新人ラッパーであるSKY-HIは近年、環ROY、TARO SOUL、KEN THE 390、KLOOZ、MIYAVI、小室哲哉、SPICY CHOCOLATE、KEITA(w-inds.)、tofubeatsなど、様々なアーティストとコラボレーションや客演を経験されてきた。しかし、今回のワンマン公演では、あえてゲストを招くことをせず、表現者SKY-HIとして丸裸のパフォーマンスに徹していた。
ライブで披露した、ヒップホップとポップチューンを掛け合わせた70’sセンスを見事に料理した「愛ブルーム」や、鬼才SONPUBのトラックによるアグレッシヴな「Jack The Ripper」、最新型のSKY-HIサウンドを提示するSFテイストにエッジーな「Tyrant Island」、ダンサーとの絡みも含めエンターテイナーとしての魅力を存分に発揮した「TOKYO SPOTLIGHT」、泣きのせつないメロディが心を振るわす珠玉のラブソング「キミサキ」、そしてタイトルチューン「トリックスター」でのスウィンギンなビッグバンド・スタイルなど、音楽ファン必聴な、名曲づくしなファイナル公演だった。
ソロプロジェクトにも関わらず、新鮮な領域へと踏み込む名曲感いっぱいなイメージは、過去をさかのぼれば、活動するフィールドは異なるが、X-JAPANにおけるhideのソロのような、ポップセンスに導かれた、良い意味で情報量の多い多才なアーティストである印象を受けた。
今回のライブで興味深いポイントは、最新アルバムのリリース前に全国ツアーを終えていることだ。いわゆる、ツアーでのライブ・パフォーマンスによって新曲をいちはやくファンの前でプレゼンテーションすることで、アルバムの曲に興味を持ってもらいたいという願い。ソーシャルメディアで友人同士が繋がっている時代、ライブでの熱量の高い体験は、クチコミの連鎖によって、さらなるマーケットを開拓していく一歩となるだろう。
SKY-HIは、オーディエンスと向き合うことを「自分の人生が倍になっていく喜びの瞬間」とライブでMCされてた。さらにラップのフリースタイルのような扇情的なメッセージで「君のため息を歌声に変えよう!」、「本気で君たちの人生を変える為にやってきた!」など、トークにおける熱量の高さがトリガーとなって、10代〜20代前半が中心のオーディエンスの胸に突き刺さっていたように思う。
音楽との向き合い方が本気であるが故に、予定調和やお約束を嫌い、潔くアンコールも行わない。しかし、途中、雨音をビートにポエトリーな演劇風演出を見せるこだわりや、自身によるキーボードプレイ、ダンス、そして良曲揃いな全18曲の構成力の高さに驚かされた。
その姿はかつてのロックスターを想起させ、30代の筆者としては、テイストは違うが尾崎豊、布袋寅泰など、メッセージ性の強いカリスマ性を感じた。それこそ売れっ子グループAAAのメンバーだからと舐めてかかると火傷することだろう。音楽が生き甲斐であり、他人とコネクトする本気のコミュニケーション・ツールとして、オーディエンスの期待をすべて背負う覚悟を決めているSKY-HIのたたずまいのプロフェッショナルさ。音楽に救われた者が継承する、音楽の力が持つ本質をSKY-HIのライブに感じたのだ。
筆者にとってのSKY-HIとは、冗談ではなく仮面ライダーやウルトラマンなど、そんなヒーローにこそ近い存在なのかもしれない。昨今、文化的ヒーローが、故スティーブ・ジョブズを皮切りに、ITフィールドに奪われがちななか、音楽シーンから誕生した、言葉を持っているニューヒーローの存在を祝したい。