コロナ禍乗り越え、取り戻した「サッカーのある日常」 マリティモ・前田大然に緊急インタビュー
4日のセトゥバル戦で3カ月ぶりに公式戦のピッチに
3月7~8日のリーグ戦を最後に3カ月も中断していたポルトガルリーグが6月2日から再スタートを切った。1年延期となった東京五輪出場を目指す韋駄天FW・前田大然所属のCSマリティモも4日夜、本拠地のエスタディオ・ド・マリティモでヴィトリア・セトゥバル戦に挑み、1-1で引き分けた。このゲームに先発出場し、後半34分までプレーした前田に緊急インタビューを実施。コロナ禍を乗り越え、「サッカーのある日常」を取り戻した今の心境を赤裸々に語ってもらった。
無観客試合で感じた違和感と疲労
4日のセトゥバル戦は、前田にとって3月7日のモレイレンセ戦以来の公式戦。休止期間に延ばしていた髪の毛を試合前日に自らカミソリで剃り、トレードマークの丸刈りにした背番号13は、4-2-3-1の最前線から戦いをスタートさせた。序盤の短時間だけハイプレスをかけにいき、その後は左サイドに移動してウイングとしてプレーした。ゴール前に飛び込んで競りに行く得点機などはあったが、結局得点はなし。本人も安堵感と嬉しさ、悔しさと複雑な感情が入り混じった再開ゲームだったという。
「ピッチに立った時は『ホッとした』というのが正直な感想でした。(ジョゼ・ゴメス)監督から『相手にドリブルで持ち上がるDFがいるので、前からプレスをかけてくれ』と指示されて、最初の5~10分だけ1トップに入ったんですけど、その後はずっと左サイドでやりました。1つアシスト未遂のプレーがあったけど、VARで取り消しになって点には絡めなかった。去年の12月(7日のCDサンタクララ戦)からゴールを取っていないんで、点が欲しいという気持ちが強まりました。
久しぶりの試合だったんで、メチャクチャ疲れましたね(苦笑)。前半はあんまり走れなくて、後半になって徐々に上がってきたんですけど、やっぱりブランクを感じました。もう1つ違和感があったのは無観客。観客がいると物凄くモチベーションが高まるタイプなんで、誰もいないところでの試合には戸惑いましたね。ただ、ポルトガルは監督も選手も熱いんで、ピッチ上はヒートアップしていた。そこは日本とは違うところかもしれないですね」
ポルトガルリーグはPCR検査を週1回実施
3~4月にかけて自宅待機になり、まともに練習ができない日々が続いた。外を走れるようになったのも4月中旬以降。そんな状況だけに、いきなりベストパフォーマンスを出せないのも当然だろう。ここから試合をこなしながら休止期間のブランクを埋めていくことが、今の前田に課された命題と言っていい。
「5月4日から2グループに分かれた練習が始まり、中旬から全体練習がスタートしました。監督はケガをしないように配慮したのか、そこまで強度を上げることなくコンディションを整えることを重視したメニューを組んでいました。僕自身は3~4月も個人トレーニングをしていたし、4月半ばからはクラブのオンライントレーニングにも参加していた。なので、そこまで走れないということはなかったですけど、やっぱり公式戦だと違うのかもしれないですね。
コロナ対策に関しては、熱を測ったりするくらいで特別なことはやらなかった。水のボトルはポルトガルに来てから個別管理になっていますし、道具も自分で消毒することはないですね。もちろん手洗い・うがいは徹底していますし、PCR検査も5月11日に1回目をやってからすでに4~5回は実施しています。クラブからは誰も陽性者が出ていないですし、マディラ島も落ち着いている。そういうこともあって、スムーズに再開まで来ることができたのかな。ここから本格的に調子を上げていくことが大事だと思います」
ここまで試合を消化できていなかった分、6月は過密日程を余儀なくされる。10日の次節・FCポルト戦の後は、14日のジル・ヴィテンセ戦、21日のポルティモネンセ戦、28日のベンフィカ戦と好カードが続く。ポルト戦はMF・中島翔哉がチーム練習に合流していないため、残念ながら日本人対決は叶わないが、ポルティモネンセ戦では日本代表のGK・権田修一、DF・安西幸輝との顔合わせが控えている。そこでゴールを奪いたいというのが、今の前田の強い願いだという。
「次はアウェーのポルト戦で移動が入ります。リスボンやポルトはマディラ島よりコロナ感染者が多いので少し不安もありますが、僕らはチームの指示に従って試合をするしかない。4試合で毎回ゴールを取るのが今の目標です。ポルトとベンフィカはポルトガルビッグ3に数えられる強豪。そこで点を取れれば自分のアピールにもつながります。ポルティモネンセ戦もすごく楽しみですね。マッチアップする可能性のある安西君をぶち抜いて、権田さんからゴールを奪う……。それが現実になるように貪欲に向かっていきます」
レンタル期限は6月末。難しい選択を迫られる前田
マリティモとのレンタル契約は現状では6月30日まで。その後の身の振り方はまだ決まっていない。保有権を持つJ2松本山雅復帰の可能性もゼロではないが、コロナ禍に見舞われたJリーグもすぐに選手登録ができるとは限らず、帰国したとしても直近の公式戦出場は叶わない。かといって、7月26日の最終節までポルトガルに残留した場合も、次のシーズンがすぐに始まってしまうため、十分なオフが取れないという問題が生じる。直近2年間、クラブと代表の掛け持ちでしっかりと休養を取っていない彼にしてみれば、このまま異国で戦い続けるのも不安がつきまとうのだ。
こうした懸念材料は前田のみならず、東京五輪世代の欧州組である冨安健洋(ボローニャ)や久保建英(マジョルカ)らにも共通する点だ。レアル・マドリードに戻るのか、マジョルカに残留するのか、別のレンタル先に行くのか…という複数の選択肢がある久保などは、本当に難しい判断を迫られるだろう。まともなオフを取らずにプレーを続行し、代表との行き来を繰り返せば、大ケガにつながる可能性も否定できない。そこは日本サッカー界として真剣に考えていくべきだ。
東京五輪までオフなしの不安を抱える欧州組
「コロナ拡大でリーグ中断していた時にクラブはオフを設定したんですけど、僕はずっとトレーニングしていたのでほとんど休んでいません。東京五輪までこのままぶっ続けで戦うのはどうなのかなと思うところもあります。自分にとって一番いい道が何なのか。それは近いうちに結論を出さなければいけない。先々を考えながら最良の選択をしていければいいと思います」
初の欧州挑戦でコロナ禍という未曽有の困難に見舞われた前田はようやくピッチに戻るところまで来た。本当に重要なのは、ここから彼がどんな軌跡を描いていくのかだ。我々はその動向を興味深く見守ることにしたい。