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もう家の中に廊下は要らない。コロナ禍で進化するマンションの間取り

櫻井幸雄住宅評論家
奥に見える玄関から廊下を兼ねたリビングがまっすぐに配置された間取り。筆者撮影

 コロナ禍は、マンションの間取りにいくつかの変化を及ぼした。テレワークが増えたことで、住戸内に仕事スペースを設けるケースが増えたのもそのひとつ。そして、最先端の動きとして、「室内廊下をなくす」動きが出て、不動産業界の注目を集めている。

 各地のモデルルームで出合った「室内廊下をなくす」事例と、その利点を解説したい。

室内廊下をなくすと、住戸内が広々する

 下の写真は、江東区大島で分譲中のマンションのもの。玄関を入ってすぐの寝室を廊下スペースと一体化。どこまでが寝室か、どこからが廊下かを曖昧にして、寝室が広く感じられる。

「ブリリア大島パークサイド」のモデルルーム3LDKにて。筆者撮影
「ブリリア大島パークサイド」のモデルルーム3LDKにて。筆者撮影

 次の写真は、横浜市内で分譲されているマンション2LDKのモデルルーム。玄関からリビングに向かう通路の途中に、フルサイズのシステムキッチンを設置。本来は室内廊下になるスペースを、キッチンスペースに取り込んでいる。

 そのおかげで、開放的なキッチンができあがっている。

「ライオンズ横濱関内レジデンス」のモデルルームにて。筆者撮影
「ライオンズ横濱関内レジデンス」のモデルルームにて。筆者撮影

もっと積極的に室内廊下をなくした、個性的間取りも

 兵庫県西宮市で分譲中のマンションでは、完成した建物内で3つの提案型モデルルームを公開しており、その中には大胆に室内廊下をなくしたプランが含まれる。

「みんなの笑顔を見晴らすMa」と名付けられた間取りでは、玄関ドアを開けると、専用庭まで縦長の巨大リビングダイニングが目に飛び込んでくる。(下の写真参照。タイトル写真も同じモデルルーム)

「ルネ西宮甲子園」では、事業主の総合地所が一級建築士の渡辺淳一氏とともに考えた、今までにない間取りが提案されている。写真手前に、床が少し下がっている部分が見える。この部分が玄関となる。筆者撮影
「ルネ西宮甲子園」では、事業主の総合地所が一級建築士の渡辺淳一氏とともに考えた、今までにない間取りが提案されている。写真手前に、床が少し下がっている部分が見える。この部分が玄関となる。筆者撮影

 巨大なリビングは、室内廊下を取り込み20畳近い広さ。土足で歩くこともできるように床の強度を上げてある。廊下部分とともに玄関部分も取り込み、古民家の「土間」感覚で仕上げてあるところが、むしろ新しい。大テーブルを中心に、コロナ禍で家時間が増えた家族が思い思いの時間を過ごすことができるスペースだ。

 この間取りでは、20畳のリビングダイニングに沿って寝室やキッチン、洗面所、浴室、トイレが並べられ、プライバシーも確保される。

引き戸が設けられたキッチンと居室。引き戸なので、開け放して生活することもしやすい。筆者撮影
引き戸が設けられたキッチンと居室。引き戸なので、開け放して生活することもしやすい。筆者撮影

 ほかに「センターリビングの間取り」というべき間取りの住戸は、3LDKを基本としながら、バルコニーに面して設置されがちなリビングを住戸の中央に配置している。この間取りでも、室内廊下をリビング内に採り入れている。

「ルネ西宮甲子園」につくられた提案型モデルルームのひとつ。住戸の中央部分にリビングがあるプランだ。このリビングが室内廊下を兼ねている。筆者撮影
「ルネ西宮甲子園」につくられた提案型モデルルームのひとつ。住戸の中央部分にリビングがあるプランだ。このリビングが室内廊下を兼ねている。筆者撮影

 以上4つの間取りは、室内廊下を設けなかったり、室内廊下を設けても、そのスペースが生活空間に取り込まれているのが特徴。廊下を通路だけにしないところが新しい。

 一般的に、マンションの室内廊下は2〜3畳分の広さとなりがち。そのスペースをリビングなどに取り込めば、個性的な間取りが完成するし、住戸内の生活スペースが広がる、という利点も生じる。

 しかし、室内廊下をなくして不都合はないのか、という疑問も湧く。というのも、マンションの室内廊下は、これまで重要な役割を果たしていたからだ。

じつは、室内廊下は、日本のマンションを進化させた立役者だった

 日本のマンションが広まったのは、昭和30年代から。最初は、鉄筋コンクリート造でも中身は和風だった。

 畳の部屋が3つと板の間のダイニングが1つ。計4つの部屋が襖で仕切られ、上から見ると、居室が「田」の字のように配置された。

 この間取りは、昔から日本の民家で見られた形式。襖で4つの部屋を区切り、襖を取り外せば大広間が出現するという便利な間取りである。

 昭和30年代のマンションも襖1枚で居間、主寝室、子供部屋を分けるタイプが主流だった。が、これは、プライバシーが守られず、居間の声が勉強の邪魔になるなど、不満の声が多かった。

 そこで登場したのが、生活空間を分ける工夫。リビングと寝室を離し、さらに、主寝室と子供部屋も離してプライベートを大切にし、音の問題が少なくなる間取りである。

 その際に、重要な役目を果たしたのが、室内廊下だ。

 玄関からリビングダイニングまで室内廊下を通し、廊下を挟んで、主寝室と子供部屋を配置。これで、リビング・主寝室・子供部屋が密着せず、プライバシーを保ちやすくなる。

 室内廊下によって、マンションは各部屋の独立性を高めたわけだ。

定評のある「田の字プラン」から個性的間取りへ

 室内廊下を設けることで、日本のマンションは進化した。その評価が高かったため、以後のマンションは同じような間取りになってしまった。

 玄関からリビングまで室内廊下を設けて、その両側に2つの部屋。リビングの横に、もう一つの部屋。この区分けを上から見ると、「田」の字になるので、「田の字プラン」という呼び名が生まれた。

 初期のマンションは4つの部屋で田の字を構成したが、その後のマンションは、住戸全体で田の字を構成したわけだ。

 「田の字プラン」は、昭和50年代からマンション3LDKの主流になった。

 マンション探しをすると、どこでも似た間取りだなあ、と感じる人が多いだろう。実際、よく似ているのは、「田の字プラン」でつくられているケースが多いからだ。

 この「田の字プラン」から脱却し、個性的な間取りはできないか……その声は、以前から購入者からだけでなく、不動産会社からも出ていた。が、定評のある田の字プランを捨て、個性的プランを採用する冒険はできないでいた。

 その状況が今回のコロナ禍で変化した。

 テレワークやステイホームで、家族が家で過ごす時間が増加。増えた家時間を快適に、楽しくするために、いままでにない間取りが求められたからだ。

コロナ禍で求められるのは「ゆとりある居住スペース」

 コロナ禍による家時間の増加で、真っ先に求められたのは「住戸の広さ」。家族全員が長く家に居るようになり、家の中で仕事や勉強をする。さらに、リモート会議のための小部屋が求められたりする。これまでより広いスペースが必要になったわけだ。

 しかし、住戸の面積を広くするのは簡単ではないし、広くすれば分譲価格や家賃が高くなる、という問題も生じる。

 面積を広くせず、ステイホームしても息苦しくないマンション住戸を実現するために目がつけられたのが室内廊下だ。

 室内廊下を通路ではなく、居住スペースに取り込むことができれば、同じ面積でもゆったり暮らすことができる。

 室内廊下を手放すことで、ゆとりが手に入るわけだ。

 ただし、単純に室内廊下や室内ドアをなくすだけでは、古いタイプの住まいに戻ってしまう。廊下をなくすが、別の方法でプライバシーを確保する。たとえば、区切るところはしっかり区切り、居室の間に収納スペースを効果的に配置する、といった工夫だ。

 その最新事例が、写真で紹介した4つの間取りである。

 室内廊下をなくすことで、個性的な間取りが増えれば、それはコロナ禍によってもたらされた予想外の恩恵と考えることができそうだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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