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勝利とは別に、圧倒されたという事実の重みを考えるべき【サウジアラビア戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

最後まで森保監督の狙いは見えぬまま

 アジアカップ決勝トーナメント1回戦。サウジアラビアと対戦した森保ジャパンが、1-0で勝利を収めて準々決勝に駒を進めた。前半20分に冨安健洋が決めた虎の子の1点を、文字通り、最後まで守り抜いた格好だ。

 予想以上の大苦戦。この試合をひと言で表現すればそうなるのだろうが、実際はそんな生易しい言葉では言い表せないほどの一方的内容だった。格上相手のW杯の試合ならまだ分かるが、これがアジアカップのラウンド16の試合だったことを考えると、ゾっとせずにはいられない。

 これが日本人らしいサッカーを目指すチームの姿と言うなら、考え直した方がいい。

 スタメン全員が自国クラブでプレーするサウジアラビアの選手の質と、トップレベルとは言えないまでも、GK権田以外のフィールドプレーヤー全員がヨーロッパのクラブに所属する日本の選手の質を比較した場合、客観的に見て日本の方が上回っていることは明らかなはず。仮に当事国以外のサッカーファンが両チームのメンバーリストを見比べたとすれば、間違いなくそうなる。

 では、実際の試合はその個人レベルの差の通りの試合になったか? 拮抗していたどころか、誰の目から見てもサウジアラビアの方が圧倒的に上回っていたというのが現実だった。

 まず、良いディフェンスができていたのはどちらのチームかと言えば、明らかにサウジアラビアだった。選手間の距離が近いため、ボールホルダーに対するプレスもかかっていたし、その結果、ボールを失った後の即時回収ができていた。また、日本がクリアした後のセカンドボールのほとんどを回収することもできていた。

 サウジアラビアがこの試合で圧倒的にボールを支配できていた最大の理由であり、この守備方法は、森保ジャパンが国内親善試合で見せていたものと共通したコンセプトでもある。

 対する日本のディフェンスは、サウジアラビアとは対照的なものだった。選手間の距離が遠いため、ボールホルダーに対して複数人でプレスをかけられない。単独で奪いに行けば、足元の技術に優れるサウジアラビアの選手にかわされてしまい、無理にアタックをかけようとすればファールを取られ、相手ボールにしてしまう。

 結局、最終ラインを上げられずに自陣に引きこもるだけとなり、ボールを奪っても陣地挽回のためのクリアに終始。味方につながらないから、当然またサウジアラビアの攻撃を受けるという繰り返しになっていた。

 一方、サウジアラビアの攻撃は稚拙だった。あれだけボールを支配していても、ゴール前にアイデアが不足し、何よりシュートの精度が低すぎた。カウンターが得意なのかもしれないが、引かれた相手を崩すほどの戦術とクオリティは持っていなかった。

 シュート15本(うち枠内1本)、659本のパス、76.3%のボール保持率を記録しながら、日本から1ゴールも奪えなかった多くの理由はそこにある。

 かといって、日本の攻撃の方がよかったかと言えば、決してそんなことはない。シュート5本(うち枠内2本)、パス197本、ボール保持率23.7%という数字とは別に、その内容が酷かった。試合を通して、日本の攻撃の狙いをうかがい知ることはできなかった。

 たとえば、自陣に引きこもった守備から、カウンターで仕留めるといった狙いが見えたのであれば分かる。相手に背後を突かれないように意図的に引きこもったのであれば、少なくともそうした狙いが垣間見られたはずだ。

 ところが、この試合で日本が見せた数回のカウンターは行き当たりばったり感がたっぷりで、連動性のない単発のものに限られていた。もちろん、しっかりビルドアップしてから相手を揺さぶろうという攻撃もなく、森保ジャパンのバロメーターである縦パスが効果を示したシーンは一度もなかった。

 この試合の戦い方が意図したものであったとしたら、一体、森保監督はどうやって勝とうと考えていたのか。そんな疑問が解決されないまま終わってしまった90分間だった。

 チームを機能させられるかどうかは、選手ではなく、やっぱり監督の力が占める割合が圧倒的に多いのがサッカーだ。個人が持つ能力を最大限に発揮させ、チームとしてそれを昇華させるのが監督の仕事だとすれば、ここまでのアジアカップ4試合で見せた森保監督の手腕には大きな疑問が残る。

 国内親善試合でおぼろげながら見え始めていた森保監督の目指すサッカーは、アジアカップという国際大会ではすっかり影を潜めている。これまでは、アジアと世界というダブルスタンダードに苦しんだ日本代表だが、森保ジャパンでは、国内親善試合とアジアでの国際大会というダブルスタンダードに苦しんでいる。進歩どころか、後退でしかない。

 これでW杯アジア予選を勝ち抜けるのか? カタール大会の出場枠が現状のままなら、森保監督ではかなり怪しい。そう見るのが妥当だ。しかも、終始押し込まれたこのサウジアラビア戦においても選手の奮闘をただ見守るだけで、試合の流れを変える采配を見せられずに終わっている。

 同じアジアのサウジアラビアに対し、何もできずに圧倒されてしまったという事実は重い。アジアカップのベスト8に進出したという事実とは別に、そこは冷静に評価を下す必要があるだろう。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一(GK)=6.0点

シュートに対する反応を誤ったシーンも見受けられたが、全体としてはハイボールの処理も含めて安定したプレーを見せた。フィードの正確性については改善の余地あり。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

高い位置取りのときに裏のスペースを狙われた他、1対1で剥がされるシーンもあった。セフティな守備を心がけたプレーに徹した割にはミスが多く、まだ調子は上がっていない。

【右CB】冨安健洋=7.0点

前半20分に決勝点となるヘディングシュートを決めた。守備面ではゴール前で身体を張って再三のピンチを防いだ。シュートブロックや空中戦の競り合いの強さを見せた。

【左CB】吉田麻也=6.0点

前半12分には相手の強烈なシュートを顔面ブロック。ラインを下げすぎたが、ゴール前ではことごとくボールを跳ね返した。一方、簡単に剥がされた他、パスミスの場面もあった。

【左SB】長友佑都=6.0点

終始ディフェンスに徹していたため、持ち前の攻撃参加はほとんどできず。クロスも前半の1本だけに終わった。守備面では、ゴール前で身体を張ってボールを弾き返した。

【右ボランチ】柴崎岳=5.5点

ほとんどの時間帯で守備に追われたため、自らの特長を発揮できず。前線へのパス供給もロングフィードに限られた。守備重視の戦いにおいては、存在意義が問われてしまう。

【左ボランチ】遠藤航=6.5点

最後までよくボールを追い、要所でボールを奪取した。とはいえ、中盤でボールを奪うような連動した守備ができなかったため、奪った後のパス供給が雑になってしまった。

【右ウイング】堂安律(88分途中交代)=5.0点

南野や武藤との距離も遠かったため、特長を出すことができずに終わった。現在の日本の戦い方だと、堂安の存在意義も失われる。終盤は疲労し、試合終盤に塩谷と交代した。

【トップ下】南野拓実(76分途中交代)=5.0点

数少ない決定機でトラップミスをしたり、ボールを失ったりする場面が目立った。全体的に動きが鈍く、前線の守備でも貢献できず。試合を重ねるごとに調子を落としている印象。

【左ウイング】原口元気=6.0点

前半12分は軽いプレーで相手にビッグチャンスを与えるなど、いくつか判断が悪いプレーがあった。それでも守備面では大きく貢献し、試合終了まで運動量は落ちなかった。

【CF】武藤嘉紀(90+1分途中交代)=5.0点

守備面で貢献するも、前線の起点となれなかった。後半60分のカウンターの場面はスムースにシュートに持ち込んでほしかった。通算2度目の警告を受けて次戦は出場停止となる。

【MF】伊東純也(76分途中出場)=5.5点

南野に代わって途中出場し、右ウイングでプレー。何度か得意のドリブルで敵陣に進入するもチャンスにつなげることはできなかった。もう少し早い時間帯で出場していれば……。

【DF】塩谷司(88分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。試合終盤、堂安に代わって途中出場し、ボランチでプレーした。ゴール前で相手のクロスを跳ね返すなど、与えられたタスクはこなした。

【FW】北川航也(90+1分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。後半アディショナルタイムに、時間稼ぎの意味で武藤に代わって途中出場。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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