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トルコ・シリア大地震から1年2ヵ月:シリア北部の武装グループへの被災者用住居の引き渡しをどう捉えるか

青山弘之東京外国語大学 教授
ヌール住宅プロジェクト(シリア人権監視団、2024年4月6日)

2023年2月6日にトルコ南部とシリア北部を巨大地震(トルコ・シリア大地震)が襲ってから、4月6日で1年と2ヵ月が経った。

被災支援への関心がほぼ完全に消失するなか、13年にわたって紛争に苦しむシリアへの支援のありようを問い直すようなニュースが報じられた。その内容は、シリア北部のアレッポ県ジンディールス町にトルコ・シリア大地震の被災者を収容するためのモデル村が開村したというものだった。

シリア地図(筆者作成)
シリア地図(筆者作成)

ヌール住宅プロジェクト

トルコを拠点とする反体制系テレビ局のシリア・テレビなどが報じたところによると、このモデル村は、トルコのNGOで、同国在住のシリア人らが運営するウィファーク人道機構(本部イスタンブール、https://wifak.org/)が建設したもの。

ウィファーク人道機構は今年2月、「48年アラブ人」(アラブ系イスラエル人)の支援を受けて、ジンディールス町近郊に「ヌール住宅プロジェクト」の名でモデル村の建設に着工した。工事の第1段階においては、65平方メートルの集合住宅48戸、モスク1棟、学校1校、公園1つが建設され、4月2日に開村、住民への住居の引き渡しが行われた。

ムハンマド・アワーマ最高経営責任者によると、第2段階においては、さらに住宅48戸の建設が行われ、6月に完成が予定されているという。

ヌール住宅プロジェクト(Facebook(@Wifak.ARD)、2024年4月2日)
ヌール住宅プロジェクト(Facebook(@Wifak.ARD)、2024年4月2日)

ヌール住宅プロジェクト(Facebook(@Wifak.ARD)、2024年4月2日)
ヌール住宅プロジェクト(Facebook(@Wifak.ARD)、2024年4月2日)

ヌール住宅プロジェクト(Facebook(@Wifak.ARD)、2024年4月2日)
ヌール住宅プロジェクト(Facebook(@Wifak.ARD)、2024年4月2日)

ジンディールス町

ジンディールス町は、2018年1月から3月にかけて、トルコ軍が「TFSA」(Turkish-backed Free Syrian Army)として知られる武装連合体のシリア国民軍とともに、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)を目的として敢行した「オリーブの枝」作戦で制圧した、アレッポ県アフリーン郡の主要都市の一つ。同町を含むアフリーン郡のほぼ全域は現在、「オリーブの枝」地域の名でトルコが事実上の占領支配を行っている。

トルコ・シリア大地震においてもっとも大きな被害を受けたのがこのジンディールス町だと言われており、住宅の80%が倒壊したとされている。

ジンディールス町には、カタールが緊急支援を行ったほか、筆者が発起人・代表を務めるシリア地震支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」も昨年3月、トルコのNGOを通じて被災した住民への義援金給付を行った(シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも)「トルコのNGOに義援金を送付(2023年3月2日)」を参照)。

さらには「シリアのアル=カーイダ」として知られる国際テロ組織のシャーム解放機構の指導者アブー・ムハンマド・ジャウラーニーも同町を訪れ、被災者の救援状況を視察した(「シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在:トルコ・シリア地震発生から3週間」を参照)。

被災したジンディールス町(Alarabiya.net、2023年2月7日)
被災したジンディールス町(Alarabiya.net、2023年2月7日)

シリア人権監視団の報告

しかし、このニュースに関して、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が、被災者と支援者の双方の感情を逆撫でするような報告を発信した。

同監視団が複数筋から得た情報によると、第1段階で建設された住宅48戸のうち、42戸は、シリア各地からこの地に逃れてきた家族、とりわけトルコが後援する武装グループ(シリア国民軍諸派)のメンバーの家族に割り当てられたと言うのだ。

彼らは、「オリーブの枝」作戦によってアフリーン郡がトルコの占領下に置かれ、多くのクルド系住民が同郡の西に位置するタッル・リフアト市一帯に避難したのを受けて、空き家となったジンディールス町内の住居を接収、居住するようになっていた。

不法占拠していようがいまいが、住居が損害を受けている点で、彼らも被災者ではある。だが、シリア人権監視団は、トルコによる占領後もジンディールス町に留まっていた元々の住民に引き渡された住居が6戸に過ぎないとして、これを問題視したのだ。

何のための支援か?

シリア人権監視団の指摘に対して、どのように反応すればよいのだろう?

シリア国民軍諸派のメンバーの家族への住居の引き渡しは、支援の政治利用で、一般の住民を疎外した行為ーーそう非難することも可能だろう。

あるいは、シリア北部でシリア国民軍諸派が横暴な振る舞い(住民への暴行、金銭の要求、略奪など)を続けていること、そしてイスラーム国の元メンバーやシャーム解放機構に今も忠誠を誓っているメンバーらを包摂しているという事実を鑑みて、犯罪者やテロリストに「横取り」、「ネコババ」されるような支援は行うべきではない、と主張する者もいるかもしれない。

事実、同じようなことは、シャーム解放機構が支配するシリア北西部への支援、そしてシリア政府の支配下にある地域への支援についても度々指摘され、非難の的になってきた。そして、こうした非難は、往々にして「正しい支援」を行う「正しい組織」や「正しい個人」にのみ支援を行うべきだという主張を伴い、異なる立場の他者への罵倒や嫌がらせが「正しい行為」として行われている。

しかし、こうした言動は、被災者を彼らが置かれている政治的状況によって差別する行為に他ならない。被災者は、トルコの占領地で暮らそうと、シャーム解放機構の支配地で暮らそうと、シリア政府の支配地で暮らそうと被災者であって、彼らが身を置いている地域の為政者の権威を無視したかたちでの支援など不可能に近い。

人道支援というのは、地震の被災者、紛争の被害者といった人間一人一人を支援することであって、彼らの政治的姿勢を後援したり、投資することではない。

ある為政者を批判し、拒否するポジション・トークのなかで、その為政者の支配下で暮らす被災者の存在を無視し、支援を思いとどまらせようとする者がもしいるとしたら、彼らは、支援について語る資格のない、人道からもっとも遠い存在だと言える。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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