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広瀬章人挑戦者(35)鮮やか先勝! 藤井聡太竜王(20)終盤の鬼手届かず 竜王戦七番勝負第1局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月7日、8日。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において第35期竜王戦七番勝負第1局▲広瀬章人挑戦者(35歳)-△藤井聡太竜王(20歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 7日9時に始まった対局は8日18時2分に終局。結果は107手で広瀬挑戦者の勝ちとなりました。

 広瀬挑戦者は竜王復位に向けて、まずは大きな1勝をあげました。

 第2局は10月21日、22日、京都府京都市・総本山仁和寺でおこなわれます。

 藤井竜王の2日制(持ち時間8時間)のタイトル戦番勝負の通算成績はこれで20勝3敗。敗れたのはいずれも七番勝負の第1局です。

広瀬挑戦者、会心の快勝

 広瀬挑戦者先手で、戦型は角換わり腰掛銀。広瀬挑戦者側が飛車先の歩を保留した形なのが工夫です。

 広瀬挑戦者が仕掛けて戦いが始まり、1日目でわずかにペースをにぎりました。

 広瀬挑戦者は2日目に入ってからも少しずつリードを広げていきます。

 88手目。藤井竜王は飛車を捨てる鬼手を放ちました。はっとするような一手で、取れば広瀬玉に王手がかかる形となります。

 持ち時間8時間のうち、残りは広瀬1時間43分、藤井1時間28分。広瀬挑戦者は15分考えて、差し出された飛車をきっぱりと取りました。

 広瀬玉はかなり王手が続く形。しかしきわどいながらも詰みません。

 92手目。藤井竜王は1時間1分を使って銀を打ち、王手をかけます。世界一詰将棋を解くのが早い藤井竜王がこれだけ考えて、相手玉の寄せが見つからなかったということなのでしょう。

 94手目。藤井竜王は相手玉への王手は続けず、じっと自陣に銀を打ちます。わるいながらも最善のがんばりか。コンピュータ将棋が示す評価値の上では藤井竜王敗勢でも、ここから広瀬挑戦者の側を持って勝ちきれるのは、相当に強い人でしょう。

 若手の頃からずっと、終盤力に定評のある広瀬挑戦者。誤ることなく、着実にゴールへの道を歩んでいきます。

 100手目。藤井竜王は歩頭に桂を打ち捨てます。これもまた驚くような勝負手。しかし広瀬挑戦者の指し手は最後まで正確。表情を変えることなく、2分の考慮で素直に桂を取ります。

 悄然とした面持ちの藤井竜王。対して広瀬挑戦者はゆっくり、グラスに注いだ水を飲みました。そして105手目、藤井玉そばに歩を成り捨てて決めにいきます。

 107手目。広瀬挑戦者は盤上中央に角を打ちました。厳しい王手。藤井玉は持ち駒の金を合駒に使えば詰みませんが、それでは勝ち目がありません。

 藤井竜王はお茶を飲みます。

藤井「負けました」

 藤井竜王は一礼をして投了。広瀬挑戦者も一礼を返して、対局が終わりました。

 藤井竜王はこれまで10回のタイトル戦番勝負に登場し、敗退なしという驚異的な記録を更新中です。広瀬挑戦者は藤井竜王について、事前のインタビューで次のように語っていました。

広瀬「そもそも数えるほどしか負けていないので、当然ながらタイトル戦でも無敗なんですけれども。まあ、いつかは負けるでしょうから、その相手が自分になればいいなとは思っています」

 本局の勝利によって、その目標に近づいたといえそうです。

 両者の通算対戦成績はこれで藤井5勝、広瀬2勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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