【現地ルポ】コロナ禍の韓国のいま。切り込めなかった「宗教団体の集団感染と日本」の接点。
本来なら現地で何かを突き止めた上で本稿を記すべきだ。
しかし状況が急に変わった。5日夕方から夜にかけ「中国と韓国からの入国者について、2週間、検疫所の所長が指定した場所での待機を要請」という報道が出た。これを受け急遽帰国した。「2週間の隔離」はさすがに他の仕事にも差し支える。「隔離」の詳細がなかなかはっきりと出てこなかったが、早めの帰国を決断した。
現地取材の最後の話として伝えたいのが、幾度もソウルで聞いた宗教団体と日本との接点についてだ。
「新天地の問題がなければ、韓国の感染者数はぐっと減ったのに」
韓国では新型コロナの問題と切り離せない存在といえる。「新天地」とは、「新天地イエス教証しの幕屋聖殿」の略称。1984年に設立された。教団側の発表によると20万人を超える信者が世界に存在する。この教団の集団感染と日本との接点は明らかになっていない点が多い。
「16日に集会、19日に集団感染発覚」「一時は世界最大の感染源」に。
まずは基本的な流れの整理を。2月16日に大邱支部で行われた礼拝参加者のなかに感染者が存在。フロアに500人が密集する形式で祈りをささげた。教団発表の当日の参加者は「のべ1000人」だった。
2月19日、大邸市とその近隣の都市で20人の感染が明らかになった。そのうち14人はこの礼拝参加者だった。さらに翌20日には同地域で50人の感染が明らかになり、同じく30人が礼拝参加者だった。
21日にはソウルなどの他地域を含め、さらに85人の新天地関係者の感染が確認され、韓国政府は大邱広域市と慶尚北道清道郡を「感染病特別管理地域」として指定した。25日には韓国政府によって「中央災難安全対策本部」が立ち上がっている。
一時期、新天地は「中国以外で世界最大の感染源」でもあった。韓国の国全体が3月第1週には中国以外で最も感染者数が多い国となったいっぽう、3月4日の「韓国日報」は「韓国の感染者の93%が新天地関連」と報じた。政府の統計から算出したもので、全体の36%が信者本人からの感染、57%が2次・3次感染だったという。
新天地の教義は、教団のトップ、イ・マニ氏には「イエス・キリストの再来」「永遠の生命がある」という点に基づく。この教義を学ぶことが教団の活動だ。07年に地上波で取り上げられて以降、信者勧誘に関するトラブルも大きく取り上げられた。出家信者を探そうとする家族に対し、信者本人から家族に対する被害届を警察に出させる手法、あるいは「探すのは迷惑」と訴訟を起こさせた事例もあった。またキリスト教の他の教会にスパイを送り込み、相手教会の幹部まで登りつめさせた後に「引き抜き」を行うという事例も報告されている。
3年前に韓国国内のキリスト教系放送「CBS」が報じた「ここは北朝鮮? 新天地のイ・マニ、露骨な偶像化…”洗脳され、イ・マニが死なないと信じるようになる”」。韓国で新天地が本格的に問題視される07年以前から強く糾弾し続けていたキリスト教系のメディアによるもの」
こういった「エグさ」を強く強調する記事を日本のいくつかの週刊誌に提案したが、あまり長いものは書けなかった。「今、大切なのは日本のことだから」と。本当にそうだ。
教団関連情報が五月雨式に出てきている
では、韓国発の「新天地」のニュースについて日本から何を注視すべきか。
「集団感染と日本との接点に関する情報」だ。
この実態について取材を続けた。なぜならこの教団関連の情報が五月雨式に出てきており、日本関連のものも含まれうると考えた。情報が出てくれば早めに報じていくことを考えた。
五月雨式、という点では2月20日に最初の集団感染が発覚して以来、25日ほど過ぎた3月8日に「大邸に住居者の3分の2が新天地信者という団地の棟が存在」という事実が報じられた。
教団関連情報には、日本に関わるものも点在した。早くから大邸の信者の一人が(2月16日の礼拝前の)2月9日に日本への渡航歴があることは公表されていた。2月29日、国内各メディアが大邱市側の発表として「追加で確保した新天地の大邸教会名簿に日本人1人がいる」という点を報じた。外国人が7人おり、うち中国とアメリカが各2人、日本、豪州、南アが各1人ずつだった。韓国国内の多くの媒体は「中国人がいた」という点を大きく見出しで報じたのだが。
また3月2日には、2月19日に行われたプロサッカーの「日韓戦」のスタジアムに新天地関連の感染者がいたことが分かった。アジアチャンピオンズリーグの水原三星―ヴィッセル神戸戦。1983年生まれの新天地信者男性が水原ワールドカップスタジアムのバックスタンドで観戦した。観戦後の2月26日に検査を行い、陽性の結果が出た。
この情報はスタジアム所在地である京畿道のイ・ジェミョン知事が自らの公式フェイスブックで発表した。発表の翌日にクラブ事務所を現地取材したが、「保健所に問い合わせている状態。本件はアポがないとお話できない」という結果だった。
周辺は大きな騒ぎとはなっていなかった。スタジアムの周辺をランニングする人の姿もあった。知事の発表には「99番のバスに乗ってスタジアム入り」とあったが、これは水原市内を回る路線だった。日本からの観客の多くがここを訪れる際の起点となる「水原駅」「ソウル地下鉄4号線舎堂駅」はルートに入っていない。いっぽう当日の知事の発表では当日の試合時間にスタジアム内の施設で、市民団体による集会が行われていたことも併せて公表。「多くの人が近くで移動した可能性」を記している。
大邱市「日本人信者に関する移動経路情報はなし」
これらを現地で把握しながら、「新天地と日本」の接点について情報を取っていった。3月3日、大邱市側に対して「新天地に複数いると考えられる韓国在住日本人信者の行動経路」「うち1人が大邸のリストにあったという。特にこの信者の移動経路」を電話で確認した。代弁人室の担当者キム・シヨン氏はメールでのやりとりを望み、すぐに返事が来た。
「2つの質問に関し、疾病管理本部(緊急時電話番号1339)の公示決定事項として、大邱市にデータが無いことをお知らせいたします」
「疾病管理本部」とは政府の対策本部。ここに確認の結果、データがないという。
無理を承知で各自治体などが行う定例会見(ブリーフィング)への参加方法を探ったが、担当記者以外には簡単なことではなかった。また現場である大邸市での現地取材も、3月1日以降に日本側が大邱市を「渡航中止勧告」の対象地域と定めたため難しい状況になった。各自治体や中央災難安全対策本部の現場に直接足を運ぶ決心をしていたが、これは5日の「帰国者全員2週間隔離情報」があったために実現できなかった。
取材出来なかった、という話を長く書いても仕方がない。無駄に煽ることもしたくない。
ここで示せる点は「ニュースの見方」だ。今後、教団関連のニュースは「日本関連情報」に留意を。これが情報の本質だ。教祖が土下座して謝罪したり、その際の時計が朴槿恵元大統領のサイン入りだった点などが興味本位で注目されるが、日本にとって一番核心的な情報が明らかになっていない。「新天地と日本の接点、特に日本人信者の移動経路についてははっきりとは情報が分かっていない」ということだ。日本のメディアも思った以上に「日本と接点がありうる」という点に着眼していない。
そして繰り返しになるが「五月雨式に情報が出ている」。教団側が決して当局の調査に協力的ではないからだ。この集団感染の話題のややこしさだ。詳細は以下の「参考資料」に記した。
最悪なシナリオは信者が感染後、日本に入国していること。今後、関連ニュースが出た際には情報をしっかり追っていく次第だ。
参考資料 3月1日付「ノーカットニュース」の記事がまとめた「4大偽装証言」(抄訳)
21万人、24万人、29万人? 行ったり来たりの信者数
25日に韓国政府の「疾病管理本部」に21万2324人分の名簿を提出。これが新天地の公言している24万人と開きがあった。当局から指摘を受けると、26日に突如「海外の教会の信者」として3万3281人分を提出した。
この報道を受け、韓国国内で「信者隠し」の批難が巻き起こった。教団側は「(正式な入信前の)教育生は正式な信徒ではないため、我々の任意で個人情報を提出できない」とした。それでも批難は収まらず、結果、新天地は追加で6万5127人分の名簿を政府に提出した。内訳は5万4000が国内在住者、1万1000が国外在住者だった。
また新天地は名簿に未成年者の信者の情報を掲載していない。未成年者は家族に入信の事実を告げていないことも多く、感染の「盲点」となりうる。
新天地側の公表する数字が事実と違う点はここに留まらない。教団本部のある(ソウル郊外)クァチョン市での直近の集会参加者が「1920人」としていたが、教団内強制捜査の結果、「9930人」と発覚した。
「武漢に支部なし」と言っていたが、証言録音データが流出。すると「施設は所有していない」。
事が起きた時点から教団の武漢支部の存在は噂されていた。教団側は否定していたが、香港紙がその存在を報道。また26日には韓国国内の反新天地団体がYouTubeで礼拝中の牧師の言葉を暴露。「今、武漢肺炎がある場所に私達の協会がある」「3万人以上の患者がいるが、新天地の信徒はひとりも罹っていない」。
すると26日に教団側は「我々は信徒が120集まれば『教会』と呼ぶ。武漢は2018年に120人を超えたが、教会などの施設は所有していない」と声明。
加えて「中国の信徒88人が昨年12月1日以降に入国した」との情報があるが、もはや真相は分からない。
調査時にもウソ、偽りの証言が続く
京畿道ヨンイン市の患者A氏は「新天地の信者ではないし、大邸を訪れたこともない」と証言したが、携帯電話のGPS昨日を追跡したところ、16日の礼拝への参加の事実が明らかになった。
また別の信者(感染者)は16日の大邸での礼拝の後、仕事であるクレジットカードの営業で行った場所について虚偽の証言をしていた。監視カメラを調べ直すと、より多くの場所を訪れていたのだ。その他、自宅での待機勧告を破り、仕事を続ける信徒も複数。
施設の数も一致せず
2月22日に公式サイトで「1100すべての施設を消毒した」と発表。しかしこれには新しい信徒の受付のための施設などが含まれず。昨年の定期総会で発表された不動産の数「1952」とも一致しない。