第三者の善意と企業の社会的信用を用いて、人の安否をダシに宣伝する事の是非
6月1日0時。株式会社イード【6038】が運営するゲームニュースサイト「インサイド」に、編集部名義による一つの告知が載りました。現在は文面が変わっていますので、以下にキャッシュのスクリーンショットを貼ります。
自社サイトに掲載していたライターと連絡が取れなくなり、連絡取れる方を探しているという告知です。Twitterのインサイド公式アカウントでもツイートが行われ(現在は削除)、それには「【お知らせ】フリーライター内川たまき氏と連絡可能な方を探しています」という告知タイトルと、URLだけしか書かれていません。告知本文を読むと、そのライターが書いたとされる記事をプッシュする感がありありと見て取れ、この告知を訝しむ声も見られましたが、これが架空と断じれる情報は公式に一切ありませんでした。
ところがこれ、騒動が広がったためか、全くの架空であり、ライターは元から存在せず、宣伝目的の告知だった事をインサイド公式アカウントが明らかにし、謝罪しました。
企業の公式アカウントが連絡の取れない関係者の情報提供をSNSで求めた場合、消息不明という人の安否への心配と、社会的信用を持つ企業(それも上場)による情報発信なら、精査せずに情報を拡散してしまう事もあるでしょう。
記事のような形態をとる宣伝という手法は、紛らわしいという問題はありますが、広く行われている手法です。新聞でも見ますし、ネットでもあります。しかし、それには宣伝あるいは広告である事が明示されています。例えば、Yahoo!ニュースのスマホアプリでYahoo!ニュースを閲覧した場合、下のスクリーンショットのようにどれが広告か分かるようになっています。
しかし、今回の例では公式サイト・SNSでの告知の双方で宣伝・架空である旨の表記無く、それを社会的信用のあるニュースサイトが人の安否をネタにして掲載し、第三者の善意を悪用したことが問題です。
SNSの普及により、個人による情報拡散の敷居も下がりましたが、行方不明者の情報というのはセンシティブなものです。たまに、SNSで行方不明者の情報提供を呼びかける個人アカウントを見かける事があります。しかし、個人アカウントが行方不明者の情報を求めていても、その個人と行方不明者の関係をSNS上で立証するのは困難です。そして、ストーカーが関係者を装って情報を集めている可能性もあり、慎重な人は信用が無い個人アカウントへの協力は控えるでしょう。
ところが、発信元やアカウントに社会的信用がある場合、話は違ってきます。告知を見た人は、発信者の社会的信用に応じて、その情報の信用性を見積もる事が出来るため、情報の拡散にリスクが無いと判断することになります。今回は、上場企業が運営するニュースサイトの編集部による告知です。おまけに、これを創作とする表示は一切ありません。社会的信用のある存在が、ネットで嘘か真か分からない情報を発信し始めたら、ネットでの情報の信頼性が揺らぐ恐れすらあります。
社会的信用を持つ企業が、ネットでこのような宣伝行為に及ぶこと。それ自体がネット情報への信頼性の毀損に繋がりかねない事だと思うのですが、いかがでしょうか?
今回、インサイドが社会的信用を投げ打ってまで偽告知を用いた宣伝に出たのか理解に苦しむ所があるのですが、ネット情報への信頼性に対する自爆テロでもあるので、少しは考えて欲しいものです。
※本記事では、インサイドが宣伝しようとした記事・ゲームの名称・リンクにつきましては、炎上商法の可能性を考え、一切を削除してあります。