積立王子を追放の後、セゾン投信のファンドはどうなっているのか 売るべきか、売らざるべきか
(本記事について解説したYouTube動画もあります。あわせてご視聴ください)
積立王子ことセゾン投信を立ち上げた中野氏は6月末を持って退任
セゾン投信の会長であり、創業からここまでの成長に大きく関わった中野氏の退任が報道されたのは6月1日のことでした。当初は憶測記事と見られましたが、同日中におおむね事実であることが明らかとなりました。
同日夕方にはセゾン投信から公式にプレスリリースされ、また6月28日に開かれたセゾン投信の株主総会をもって退任することとなりました。中野氏は今、運用会社の新規設立に向けて動いているとされます。
2023/6/28 セゾン投信 プレスリリース 代表取締役の異動のお知らせ
私は6月2日にコラムを寄稿し、セゾン投信で投資信託を買っている個人はどうするべきか、解説をしましたが、報道初期段階ということもあり、様子を見ることも勧める内容となっていました。
2023/6/2 Yahoo!ニュース セゾン投信 カリスマとしての積立王子がその座を追われるとき 賛同した個人投資家は売った方がいいのか
実際に退任されて、1カ月以上が経過し、改めてセゾン投信のファンドをどうするべきか、できる限り中立的に考えてみたいと思います。
セゾン投信のファンド、資金の動きを見てみるとどうか
Yahoo!ファイナンスには、いろんなデータを閲覧できるチャネルがありますが、投資信託も例外ではありません。ウェルスアドバイザーの提供情報を見る仕組みで、一部は同サイトに遷移して見ることができます。
ここに資金の入出に関するページがあるのでこれを見てみます。
このうち、「セゾン 共創日本ファンド」は設定からまだまだ間もなく資産流入が安定していないと判断、残りの2本を見てみます。
近年の投資信託は基本的には資金流入超過、つまり購入する金額のほうが解約する金額より多くなっています。定期積立投資をする顧客が増えており、その流れは年3兆円以上といわれます。セゾン投信は積立投資をする顧客が多いとされてきました。
私がチェックした時点では6月30日時点でのグラフが表示されていましたが、過去の安定的な資金流入と比べて大きく下がっている傾向が読み取れます。「セゾン 資産形成の達人ファンド」「セゾン・グローバルバランスファンド」ともに読み取れます。下げ幅が大きいのは後者のほうです。「資産形成の達人ファンド」のほうは減少傾向といえど月10億円の流入となっており、積立投資の顧客の影響がしっかりあるようです。
QUICK Money Worldの記事でも同テーマが紹介されており、6月の資金流入はほぼ半減、過去1年半くらいでは最大の落ち込みとしています。
7/4 QUICK Money World セゾン投信、創業者中野氏の退任で6月の資金流入が大幅鈍化
「解約分と定期的な積立購入分」を全体で見たとき、解約が一時的な減少にとどまるのか、それ以降も積立購入額が減ったままなのか、8月以降の動きがどうなるのかが注目されます
セゾン投信のファンドを見直す必要があるのか
データを見る限り、セゾン投信のファンドを、中野氏退任の報に接して解約した人、積立を中断した人が少なからずあることが読み取れます。
一方で、積立を継続している人もいると思いますが、同社ファンドを見直す必要は(中野氏退任への抗議「以外」の面で)あるでしょうか。
まず投資信託の評価を見てみましょう。ウェルスアドバイザーのレーティング(★)では、
セゾン・グローバルバランスファンド
カテゴリー:安定成長
総合レーティング:★★★★★
セゾン 資産形成の達人ファンド
カテゴリー:国際株式・グローバル・含む日本(F)
総合レーティング:★★★★
となっており(運用期間が短い「セゾン 共創日本ファンド」は評価がまだない)、同種カテゴリー内の他の投資信託と比較して大きく劣後した評価とはなっていません。むしろ悪くない評価です。
この運用評価は、会長職にあった中野氏の退任は大きく影響しないものと考えられます。彼が運用責任者というわけではないからです。
ここだけを見れば急いで解約をする必要がない、ともいえます。
もうひとつコスト面ではどうでしょうか(実質コストのほうに注目)。
セゾン・グローバルバランスファンド
名目 実質
信託報酬等合計0.5%0.56%
カテゴリー平均1.03%1.19%
+/- カテゴリー-0.53%-0.63%
セゾン 資産形成の達人ファンド
名目 実質
信託報酬等合計0.57%1.34%
カテゴリー平均1.21%1.45%
+/- カテゴリー-0.64%-0.11%
となっており、「セゾン・グローバルバランスファンド」については同一カテゴリー内では低コストの運用だということが分かります。一方で「セゾン 資産形成の達人ファンド」は平均をやや下回るコスト設定です。
運用コストは同一の運用カテゴリーで比較するのが原則です(例えば、日本株の運用と新興国株の運用ではコストが異なるのは当然)。また、運用方針(インデックス運用かアクティブ運用か)によってもコストは変わってきます。
ウェルスアドバイザーの分類である「国際株式・グローバル・含む日本(F)」内をチェックすると、インデックス運用では「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」(三菱UFJ国際投信)のような商品は圧倒的に低コスト設定をしています。なにせ年0.11%の運用コストですから、インデックス運用を選択すれば、コストは10分の1になるわけです。
一方で運用方針がアクティブな同カテゴリーのファンド「キャピタル 世界株式ファンド」や「フィデリティ・世界割安成長株 B(H無)『愛称:テンバガー・ハンター』」と比べると、必ずしも高コストではなく、アクティブな運用としては標準的です。
運用評価とコストそのものでは、慌てて売却する必要はなさそうです。あなた自身がセゾン投信での継続投資をどう考えるか(また売ったとき売却益に税金がかかることをどう考えるか)が判断のポイントになりそうです。
セゾン投信を降りる場合の注意点~セゾン号から降りても投資からは降りないこと~
長期積立分散投資が大切だとよく言われますが、これはつまり「みだりに中途解約をしないこと」ということでもあります。
あなたがもし、セゾン投信での継続投資を中止したり、すでに積み立てている分を解約するというのであれば、ひとつアドバイスすることは「セゾン号を降りても、投資の世界からは降りないこと」です。
セゾンは長期投資を列車になぞらえ「セゾン号」と呼んでいました。あなたのゴールはまだ遠いのであれば「セゾン投信の売却 → 別の投信の購入」としたり「セゾン投信の積立の停止 → 別の積立投信のスタート」としてください。
ここで売却分を現金にしてずっとプールしてしまったり、新たな積立投資をストップしてしまうと、この先の経済成長のリターンを得るチャンスを逃してしまうことになります。それは本来、中野氏が目指していたアプローチから外れてしまいます。解任劇に反発して売却した人ほど、新たな投資を考えたいところです。
ひとつの商品の解約や中断があったとしても、投資という大きな流れには乗り続けてほしいと思います。
もうひとつの決断として、セゾン投信で運用を続けてもいい
全般に、メディアの論調は中野氏に同情的です。これを知れば知るほど、なんとなくセゾン投信で運用を続けることが居心地悪いものとなってきます。
しかし、こうした報道を知ってか知らずか、トップの交代など気にせず積立投資を続けている人も一定割合います。月末の定期的な資金流入、つまり自動的な積立投資を継続している顧客は引き続きあります。
私はこうした「積立投資継続派」はあってもいいと思います。
自分の保有するファンドの運用会社のドタバタを知らない、というのはあまりいいことではありませんが、少なくとも運用の根幹が崩壊したわけではありませんので、積立投資を続けることも差し支えありません。
とはいえ、知らないまま、ではなく、「中野氏がいないセゾン投信」を改めて見直し、手数料や運用方針、運用実績などをみて、セゾン投信での運用継続を判断してみてください。
まとめ
中野氏の去ったセゾン投信がどのような手に出るかはまだ分かりません。これから数カ月、積立資金の減額傾向や解約の傾向が続くのかもしれません。
しかし、セゾンカード経由の積立投資サービスを開始し、0.5%超のポイント還元を設定したりすれば、縮小どころか急拡大の可能性もあると思います。楽天証券やSBI証券など、クレジットカードを介した積立投資信託購入の市場は大きく拡大しているからです。
セゾン投信の騒動、一般にはガバナンスの問題が指摘され(株主だからと親会社が安易に更迭してもいいものなのか)、運用会社の独立性の問題が指摘されます。また積立王子というキャラクターが愛されてきたことへの世間の強い反応もあります(私も中野さんは好きです)。
しかし、運用は運用と分けて、しっかりあなたの判断をしてみてください。
(本記事について解説したYouTube動画もあります。あわせてご視聴ください)