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【インタビュー後編】サラ・ロングフィールドが語るギター・ミュージックの変化と未来

山崎智之音楽ライター
Sarah Longfield /courtesy P-Vine Records

アルバム『ディスパリティ』で日本デビューを飾った新世代ギター・クイーン、サラ・ロングフィールドへのインタビュー全2回の後編をお届けする。

前編記事ではアルバムの音楽性とメタルからの影響などについて語ってもらったが、後編ではギタリストとしての原点、そしてギター・ミュージックの未来について訊いてみたい。

<“プログレ”と呼ばれることには抵抗はない>

●現在のあなたのスタイルに影響を与えたギタリストは誰でしょうか?

若い頃はトーシン・アバシとネクロフェイジストのムハンマド・スイスメズのようなテクニカル・メタル・ギタリストが好きだった。もちろん彼らのプレイは今でも好きだけど、最近はマテウス・アサトみたいなスタイルが好きね。

●タッピングの技術はどのように修得しましたか?

『Disparity』ジャケット (P-VINE RECORDS / 2019年3月6日発売)
『Disparity』ジャケット (P-VINE RECORDS / 2019年3月6日発売)

子供の頃からピアノを学んでいて、右手でピックを持つよりも弦を叩く方が自然だったのよ。ずっと独学でギターをやっていたし、“正しい”弾き方を教わることがなかった。意識せずそうしていたのよ。今から考えると、それが自分のスタイルを個性的にしたと思う。コヴェットのイヴェット・ヤングと話したことがあるけど、彼女もピアノをやっていて、タッピング・スタイルをギターに応用しているわね。

●オールドスクールなタッピング・スタイルのギタリストはどの程度掘り下げてチェックしていますか?

スタンリー・ジョーダンやジェニファー・バトゥンは素晴らしいギタリストだと思う。ギターを始めた頃に彼らから影響を受けることはなかったけど、ずっと後になって、私が手探りでやろうとしていたことを、はるか前にプロフェッショナルな形でやっていたことを知って驚いたわ。

●エディ・ヴァン・ヘイレンは?

ヴァン・ヘイレンはあまり聴いたことがないわね。ずいぶん前だけど、スティーヴ・ヴァイやジョー・サトリアーニぐらいまで遡ったわ。それから17、18歳の頃にイングヴェイ・マルムスティーンやジェフ・ベックを聴くようになった。

●あなたの音楽を表現するのに、時に“プログレッシヴ”という語句が使われることがあります。『Woven In Light』(2015)などは特にプログレ色がありますが、あなたの中で“プログレッシヴ”にはどんなイメージがありますか?

ザ・コントーショニストやVOLAのようなバンドは“プログレ”なのよね?彼らはとても刺激的な音楽をやっていると思う。だから私も“プログレ”と呼ばれることには抵抗はない。私のアルバムを聴いた人からイエスという昔のバンドに似ているね?」と訊かれたことがある。あなたはイエスって知っている?

●...それはまあ、知っています。

そのとき私は聴いたことがなかったのよ。実は名前すら知らなかった。ドリーム・シアターも数曲しか聴いたことがなかったし、ブルー・オイスター・カルトは少し聴いたことがあるけど、ああいう音楽もプログレというの?

●部分的にはプログレッシヴな要素もあると思いますが、プログレというジャンルで語られることは少ないかも知れませんね。

あと、うちの父親がキング・クリムゾンを聴いていたし、ギターを始めた頃に刺激を受けたかもね。

●ご両親は熱心な音楽ファンだったのですか?

母親はあまり音楽を聴いていなかったけど、父親はいつもクラシック・ロックのレコードを聴いていた。さっき挙げたブルー・オイスター・カルトやキング・クリムゾン、イエス、ジミ・ヘンドリックス、サンタナ、レッド・ツェッペリン...私がギターを始めた頃、ギタリストというのはそんなバンドのギタリスト達を指していた。それからすぐにメタルを聴くようになったけどね。

Sarah Longfield / courtesy of P-Vine Records
Sarah Longfield / courtesy of P-Vine Records

<8弦ギターはクールだ!>

●現在メインに弾いているのはストランドバーグの8弦ギターですが、最初は6弦ギターを弾いていたのですか?どのように8弦ギターを弾くようになったのですか?

13歳のときに手にした最初のギターは6弦だったのよ。3、4ヶ月して近所の楽器店で初めて7弦ギターを見て、何かの間違いじゃないかと思った。店員さんにそういう仕様のギターなのだと教えてもらって、「クールだ!」と思って、バイトで貯金して、7弦ギターを買ったのよ。それからすぐ、8弦ギターを発見して、「もっとクールだ!」と思って買い換えたけどね。

●変則チューニングはしていますか?

一時期やっていたわ。8弦ギターでGCCDCDCEというチューニングで、GとCで始まるから、“ギター・センター・チューニング”と名付けていた(笑)。一時はレコーディングでも使っていたけど、しばらくしいてスタンダード・チューニングに戻ったわ。NAMMショーとかでギターを手渡されて、何かを弾かされることが多くて、変則チューニングばかり弾いていると、そういう場でレギュラーでは弾けなくなってしまう。それが理由のひとつよ。それにレギュラー・チューニングは長年かけて作られたもので、理に適っている。結局、奇をてらって変則チューニングで弾くより、レギュラーにした方が面倒がないのよ。

●ジャケット・アートワークとギターはどちらも極彩色ですが、それには連続性があるのでしょうか?

カラフルなのが好きなのよ。私が描く絵画はたいてい極彩色だし、自分の音楽もさまざまな色彩を散りばめている。アルバムの曲を書いた時期はツアーで忙しくて、毎日がカラフルだった。そんなすべてをジャケットに込めたわ。

●『ディスパリティ』のジャケット・アートはスティーヴ・ヴァイがギターを弾いたデヴィッド・リー・ロスの『イート・エム・アンド・スマイル』っぽくもありますが、意識はしましたか?

実はそのアルバムは見たことがなかったけど、ウェブで最初にアートワークを公表したら「似ている!」という書き込みがあって、それで知ったのよ。確かに似ていると思うわ。もちろん偶然だけどね。

●ストランドバーグのギターとの出会いについて教えて下さい。

19歳の頃、カスタム・ギターを某ギター・メイカーに発注したら、注文のスペックが間違って伝わっていたのよ。それで代わりにストランドバーグを1本もらった。それをyoutubeビデオでも弾いていたら、彼らが声をかけてくれたわ。そうして交流が始まったのよ。無地のボディを送ってもらって、それに私がペイントしたのがメインで弾いているレインボー・ギターよ。これから私の8弦シグネチャー・モデルを出す予定で、Boden Metalに似ているけど、私のデザインしたペイントが施される。ヴィジュアルもサウンドもカラフルなギターになるわ。

●ストランドバーグのギターを弾いている女性ギタリストという共通点があるせいで、イヴェット・ヤングと比較されたりもすると思いますが、そのことについてどう感じますか?

イヴェットとは友達だし、そのことは話したことがある。まあ確かに、比較されるのは理解出来るのよ。2人とも女性ギタリストだし、絵も描くしね。ただ彼女がやっている音楽はマス・ロックに近いし、私はメタルやプログレから影響を受けたダークなスタイルだから、音楽的にはかなり異なっている。彼女みたいな優れたミュージシャンと比較されるのは光栄よ。

<新しい時代には新しいギター・ミュージックが必要>

●コンテンポラリーなギター・ミュージック・シーンをどのように見ていますか?アニマルズ・アズ・リーダーズやCHON、ポリフィアなどの活躍もあり、ギターが新たな注目を集めていますが...。

ギター音楽は常に変化してきたと思う。ギターによる表現、奏法、聴き方...今は過渡期じゃないかな?ギターに変化を求めない人もいるからね。タッピングなんて邪道だ!と言う人が未だにいるのに驚かされるわ。ギター・シンセやヘッドレス・ギターを受け入れられず、フェンダーとギブソンだけを求める頭の固い人がいるのよ。ギターにしても何にしても、時代に合わせて変化しないと、衰退してしまう。新しい時代には新しいギター、新しいギター・ミュージックが必要だわ。ストランドバーグのようなギター・メイカーも新しいギターを作っている。...とは言っても、私も老舗のギター・メイカーを否定しているわけではないわ。ギブソンSGやフェンダーのジャガーやテレキャスターは大好きだしね。

●あなたはyoutubeでの音源発表で知名度を上げましたが、音楽以外でどのように視聴者にアピールしていますか?

知り合いのユーチューバーがたくさんいるけど、彼らの多くはそれぞれの表現スタイルを持っている。そういうのを見ると、私はそういう“方程式”を確立していないと実感するわね。曲をアップすることもあるし、しゃべりだけの時もある。統一感はないけど、それが私だし、いろいろあって良いと思う。もっとyoutubeにビデオを上げたいと考えているわ。私はせいぜい月に1、2本だけど、プロのユーチューバーは週に1、2本が普通だからね。ただ、せっかく公開するなら良いものを提供したいし...難しいところだわ。

●数多くのミュージシャンがyoutubeで自分が演奏するプレイスルー・ビデオを公開しており、ジューダス・プリーストやジャーニー、リッチー・ブラックモアズ・レインボーなどは新しいメンバーをyoutubeで見つけています。大物バンドがあなたのビデオをyoutubeで見てコンタクトしてきたことはありますか?

そんな超有名なバンドからはオファーが来ていないけど、幾つかのバンドから声がかかったことがある。でも自分の音楽を犠牲にしてまで加入したいというオファーではなかったわね。ただ、youtube経由でいろんなクリエイターとコラボする機会があるし、面白いものであればやってみたい。

●ライヴはどのように行っていますか?

私とセカンド・ギタリスト、ベーシスト、ドラマーという4人編成でやっている。シンセはバッキング・トラックを使っている。これ以上メンバーを増やすと、経費がかかり過ぎだからね(苦笑)。

●ソロと並行してザ・ファイン・コンスタントというバンドでも活動していましたが、現在はどうなっているのですか?

ザ・ファイン・コンスタントは他のメンバーが別のバンドやプロジェクトで忙しかったりで活動休止中なのよ。あのバンドでも私が曲を書いていたけど、音楽性は異なっていたわね。私も今はソロでの活動にウェイトを置いているけど、スケジュールを合わせてまたやりたいと考えているわ。

『ディスパリティ』

P-VINE RECORDS PCD-18861

2019年3月6日発売

日本レーベルサイト

http://p-vine.jp/news/20190125-191320

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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