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ウーマンラッシュアワーの中川パラダイス 5分間に144回発言する破壊的な漫才力の凄み

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

『THE MANZAI 2020』のウーマンラッシュアワーの独特の漫才

ウーマンラッシュアワーの漫才の話をする。M-1の話ではない。

少し前になるが(2020年12月6日)『THE MANZAI 2020』が放送され、ウーマンラッシュアワーが登場した。

いつもどおりの村本の「スタンダップコメディ」スタイルの漫才で、マイクを一人占めして前に倒し、マシンガントークのように一方的に客に喋りかけていた。

時間はほぼ5分。

ただ、あくまで漫才である。

村本大輔の横にはしっかり中川パラダイスがいて、相づちを打っている。

きちんと漫才の形を保っている。

機会があって見返して、(学生が『THE MANZAI』のウーマンのネタはどうおもいましたかと真剣に聞いてきたので、真剣に見返した)、あらためてこの「漫才」の型に感心していた。

ナインティナインが「中川パラダイスがしっかり相づち打ってましたね」と言っていたとおり、彼はずっと相づちを打ち続けていた。

この5分の漫才を「中川パラダイスの発言」だけに注目して見返してみると、「ウーマンラッシュアワー」のコンビの姿が見えてくる。

297秒で144回も発言する中川パラダイスの凄み

5分間、村本が一方的に喋りつづける横で、中川パラダイスは、どれぐらい相づちを打ったのか。

数えてみると、142回である。

それ以外に、最初に「どうもウーマンラッシュアワーです、よろしくお願いします」と中川パラダイスが一人だけ頭を下げ、村本は下げず(お願いしますとは言っている)、また最後は村本が「フジテレビ、このネタ、改竄するなよ」と言い捨ててそのまま去ったが中川は残って「どうもありがとうございました、さよならー」と一人で頭を下げて、手を振ってから帰っていった。

その挨拶を含めて、中川パラダイスが全部で言葉を発した回数は144回である。

ほぼ5分(声を出し始め、出し終わった部分だけだと4分57秒)で、144回発言している。

つまり297秒で144回である。だいたい2秒に1回。

すごい数である。破壊的でさえある。

短い単語しか発しないことが多いから、数が多くなってしまうのだが、それにしても「ウーマンラッシュアワーの出す音」は、じつは中川パラダイスもけっこう受け持っているのである。

心地よい打楽器としての中川パラダイス

小さく頷いて聞こえるかどうかのまで含めて「うん」と答えたのが30回。

「ふん」が19回。「ほう」が15回で、合計64回。

一音節が多い。

あとは「たしかに」8回、「そう」が5回、「まあね」も5回である。

「へえーっ」が4回。

ほかには「うわあ」、「おるおる」、「なるほど」、「わかるわかる」がそれぞれ2回ずつだった。

村本の言葉をリピートすること(地獄…、削除…、十年…、麻生さんが…、などなど)が13回。

受けて簡単に返すことば、「そんな経つか」「そんなランキングあるのん」「困るね」「木製のやつ」などが8回。

来た球をすっと打ち返すような、短い言葉の応酬が続いていた。

短い言葉だから反射でいいのかというと、そういうものでもない。

だいたい2秒に1回、言葉を発するのだから、煩雑に聞こえてはまずい。

村本はつらーーーーーと音を出し続けているから、それを邪魔しては何もならない。

その音を心地よく聞かせるための打楽器の役割である。

中川パラダイスの合いの手が入ることによって、村本の喋りがテンポ良く聞こえてくる。そういう役割を担っている。

なんでもなさそうでいてその実かなり重要で、少しでもずれたら、村本の声がうるさく聞こえてしまう。

中川パラダイスの音だけに注目してこの漫才を聞くと、(これはかなりその気にならないとむずかしい)この二人のコンビネーションに感心してしまう。

かなりのもたつきを見せた2020年のウーマンラッシュアワー村本

このスタンダップコメディ風漫才は、とくに村本が扱う話題が、かなり客を選んでしまう。

たしかにあまり漫才向きではない。

彼らの前に出場していた和牛は「ハゲの悩み」について語っていたし、後に出てきたブラックマヨネーズは「釣りを趣味にしたい」という話題を展開していた。

そんな場で、政権の不祥事や原発再起動などを話題にするのは、かなりの場違い感がある。

正直言えば、私もまったく好みの話題ではない。

言ってる方向性に興味も賛同もしないし、そういうことを取り上げる性根は、正直かなり気持ち悪い。

ただ、私は演芸を見ているだけなので、「話題にしていること」についてあまり拘泥しない。

「安倍元首相の桜を見る会はひどい」という話題と、「ハゲ始めたら先にカツラをかぶってしまったほうがいい」という意見は、同じ意味しかもたない。つまり、ほぼどちらも無意味である。

政治ネタは品がないとはおもうが、漫才として見ているときには、内容はべつだん気にしない。

話題は、笑いのための行き違いや、奇妙な展開をひきだすためのきっかけにすぎないから、そこに引っかかってもしかたない。

ウーマンラッシュアワーの漫才の見せどころは、村本の淀みない喋りにある。

よくまあ、これだけの量の言葉を一気呵成に話しきれるものだという喋りにいつも感心するばかりで、たぶんそれは、魚釣りを話題にするより社会の不満をネタにしたほうが勢いがつくから、そうしてるまでだろう。

意味も追ってるがただ追ってるだけで、聞いているのは「音として心地よいかどうか」だけである。うまく喋りきった村本の音は、けっこう気持ちいい。

「音」として、村本の一気の喋りはとても強く、どんどん引き込まれていく。しかも、そこに中川パラダイスの軽い打楽器のような合いの手が入ることによって、より音として心地よくなるのだ。

そのことにあらためて気がついた。

ただ、2020年の村本の喋りは、やや、もたつきが目立った。

つらーーっと行ってるほうがずっと多いのだが、もたつきは少しだけでも目立ってしまう。数回以上、もたついたのが印象に残った。

調子のいい回ではなかった。

中川パラダイスのふつうの漫才らしいツッコミ

中川パラダイスは、合いの手だけではなく、ふつうのツッコミもする。

最初に「お客さんが若いので、桜を見る会の話をしましょう」と村本が言い、中川は「いや興味ないやろ」と軽くツッコんで漫才は始まった。

ただ、村本はこれを受けて「興味ないからああいうことになってるんでね」とつないで、村本ワールドに突き進んでいく。

そのあともボケとツッコミ展開はある。

「地獄へ行けと書かれているわけです、地獄はゴーツーの対象ですかね」

「いや対象ならへんよ」

「おれのツイッターは公文書よりは上だ!」

「いや上とか下とかないから」

「あの日から僕はロンドンブーツさんのことを1号機、2号機と呼んでます」

「いや、1号、2号ね」

きちんとしたお笑いのパターンを踏んでいる。

突っ走る村本の補助輪としての中川パラダイス

ただ、この漫才の特徴は、ふつうのボケとツッコミだけに終始しないところにある。

被災地で聞いた「こんな救援物資は要らない」ランキングとしてトップに「まず、千羽鶴は要らないと言ってました!」と村本が絶叫して、中川パラダイスはそれにはツッコまずに「いやあ、いらんいらんいらん、困るわー」と乗っかっていくのである。

その流れで村本の再びの絶叫がある。

「彼らの言った最高の名言をみなさんに捧げましょう、『そっちで要らないものはこっちでも要らない!!』」

と叫ぶと、

「いやそのとおりよ、要らないものは要らないとはっきり言わんと」

と乗っかっていくのである。

これは、その気になれば、否定するツッコミにすることも可能である。

でもそれはやらない。

ここはふつうのボケではなく、村本独特のギャグポイントである、と指し示しているのだ。

中川パラダイスは、村本の見事な解説役であり、笑いの補助輪でもある。

突っ走る村本のトークを、より広く届けるため、細かく動いている。

細かく見て、中川パラダイスの動きに感心してしまった。

最初と最後に頭を下げるのも中川パラダイスの仕事

また、最初に挨拶して頭を下げるのも、終わって頭を下げて手を振るのも中川パラダイスがおこなう。

彼が愛想よく振る舞うから、村本は少々、乱暴な気配で出入りしてもバランスが取れている。彼のキャラも守られる。そういう割り振りになっている。

いいコンビだとおもう。

ただまあ、聞くのは年に一回でいいけどね。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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