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共通テスト・追試案でまとまるが~実施で懸念される3点とは

石渡嶺司大学ジャーナリスト
大学受験に臨む高校生(写真はイメージ)。来春の大学受験はどうなる?(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

◆延期か現状維持かで揺れ動く

現・高校3年生は今後、神社での受験祈願はしても、厄払いをしなくてもいいのではないでしょうか。

前厄・本厄が重なってきた、と言ってもいいくらい、大学受験日程と内容の変更には振り回されているからです。

ただでさえ、センター試験から大学入学共通テスト(以降、共通テストと略)に変更される1年目に当たります。それだけでも大変なのに、昨年秋から変更が相次ぎました。

思い返せば、共通テストで予定されていた英語民間試験と記述式が昨年秋に相次いで導入延期が決定。

コロナショックで4月には9月入学議論が起き、収まったところに、大学入試の日程延期論が出ました。

◆文科省は日程の原則維持と追試を発表

そして、6月17日夜、文部科学省は大学、高校などの団体と日程について合意した、と発表しました。

主なポイントは以下の通りです。

・総合型選抜(旧AO入試)の出願開始は9月15日開始(2週間後ろ倒し)

・学校推薦型選抜の出願開始は予定通り、11月1日

・共通テストは予定通り1月16・17日

・一般選抜(一般入試)の日程も予定通り

・共通テストは、1月30日・31日に追試。2月13日・14日に追試の追試を実施

・共通テスト・追試は長期休校による学習の遅れを理由として受験することが可能(出願時に選択)

・共通テスト・追試の会場は47都道府県に拡大(センター試験時は全国で2か所)

・入試問題作成では高3で学習する数学3、物理、化学、生物では発展的な学習内容から出題しないよう出題範囲の削減や選択問題を増やすことを大学に求める

※括弧の中の「数学3」の「3」はローマ数字が正しい表記/本記事では記事入稿ツールの仕様上、アラビア数字で表記

◆2010年も追試は2週間遅れ

今年まで実施だったセンター試験は、本試験のあと1週間後に追試を実施するのが一般的でした。

共通テストの追試が本試験の2週間後、さらに2週間後に追試の追試を実施するのは異例です。

ただし、前例がないわけではありません。

2010年実施のセンター試験は前年から流行した新型インフルエンザの影響を受けました。それを受けて10月には追試日程を例年通りの1週間後から2週間後に変更としたのです。なお、試験会場もこの年は全国47都道府県での実施としました。

それだけでなく、文部科学省は2009年10月7日付で「感染が急激に拡大した場合、受験生の受験の機会を確保するなどの対策をとるように」と、追試などの特別対応を各大学に求めています。

ただ、入試問題がほぼできていた前年10月に追試を、と言われてそう簡単にできるものではありません。

2009年12月24日東京新聞朝刊「新型インフル 大学も苦渋 救済追試どうする? 『公平性』『不安払拭』対応割れ」記事によると、私立大だと立教、中央などが追試実施を決定。一方、

「本試験の合否判定との整合性、公平性が確保できない」(上智大)「例年通りの実施が原則」(慶応大)

※記事より

と、追試を実施しない私大もありました。

肝心のセンター試験追試も、事前には5万人受験をそうていしていたものの、実際は993人(新型インフルエンザが理由の追試受験者は509人)と、それほど増えませんでした。

センター試験では、大学入試センターが全受験者の1割の「5万人」が追試験を受ける事態を想定して準備。例年は2カ所の追試験会場を、今年は69カ所で確保。問題用紙も「人数判明後では間に合わない」として7万5千部印刷した。

しかし、実際の受験許可者数は100分の1の509人。48会場で予定通り追試を行ったが、受験者が10人以下の会場も目立ち、鳥取と島根の両県では1人だけ。大量に刷った問題の大半は廃棄される見通しだ。

同センターは想定した大流行がなかったことを受け、「(追試受験者が)大変少ない人数で収まってほっとしている」とコメントしている。

※2010年2月9日読売新聞朝刊「インフル追試 国立大13校見送り 流行下火、特別扱い避ける」記事より

◆追試はどれくらい受ける?

2010年当時の追試受験者が低調だったことについて、東日本の高校・進路指導教員は次のように話します。

「まず、新型インフルエンザの流行がそれほどでもなかったことが大きいです。受験生からすれば、早く受験して、次の一般入試に備えたいと考えます。それと試験会場が各都道府県で1か所のみ。地方にもよりますが、本試験よりも会場がさらに離れる事になるケースが大半でした。いくら2週間遅れとは言え、移動の手間などを考えると、受験生にメリットはありません」

このため、2021年の共通テスト・追試についても、受験者はそれほど多くないのでは、と見る高校・大学関係者もいます。

「来年はセンター試験から共通テストに変わります。不安がっている高校生が多いため、地域にもよりますが早期に受けたい、と考える高校生の方が多いのではないでしょうか」(大宮淳史・近畿大学入学センター事務部長)

「現役の高校生だと最初の試験は緊張する。そこで、せめて普段知っているクラスメイトと同じ会場で受験したい、と考えるのが人情。新型インフルエンザのあった2010年でもそれ以外の年でも例年、追試がある。その追試受験者が2010年でも約1000人、例年だと500人程度にとどまるのは、早く受けたい、と考える高校生の心理があらわれている」(西日本公立高校・進路指導担当教員)

一方、休校期間の長かった東京など首都圏の高校教員は別の見方をしています。

「一斉休校で授業が遅れている。共通テストの2週間後追試という案は受験対策が遅れている高校生からすれば魅力的。志望大学などにもよるが、受験者数は一定数は出るだろう」

2019年度センター試験の志願者総数は57万6830人(大学入試センター・サイトより)。うち、一斉休校期間の長かった首都圏は17万6589人。

「このうち、オンライン授業で対応が早く、そもそも受験対策も早くから実施している私立高校は本試験受験でしょう。遅れている公立高校で、本命が国公立大学の生徒は追試を選択しそう。そうなると、首都圏だけで数万人は追試を選択するのではないか」(首都圏・進路指導教員)

◆追試は難問、はデマだが

なお、センター試験では、「追試は本試験より遅れての受験なのでそれだけ難易度を上げている」とよく言われています。

こちらについても、取材したところ、

「デマ。問題を長年観察しているが、それほど難易度に差はない」(西日本公立高校・進路指導教員)

とのこと。

ただ、

「追試が難しそう、というイメージがあるのは確か。そのため、共通テストの追試も仮に受験対策が遅れていても、それほど志願しないのではないか」(東北・私立大入試課職員)

との意見もありました。

◆懸念その1・成績提供はどうなる?

現時点では全く読めない追試の志願者数ですが、もし、追試を受験した場合、大きく影響を受けるのが各大学への成績提供と2月上中旬の私立大入試です。

これまでセンター試験を受験すると、その成績情報は各大学に提供されていました。正確には、国公立大学の2次試験や私立大学のセンター試験利用入試は、受験生が出願を受けて、大学入試センターから各大学に成績情報を提供。そのため、受験生が申告せずとも各大学は成績情報を持っており、それで合否判定などができたのです。

2010年の新型インフルエンザにともなう追試でも、志願者数が多かった場合、成績提供がスムーズにいくかどうか、懸念されていました。実際には追試受験者が約1000人と少なかったため、成績提供ができ、大きな問題にはならなかったのです。

今回の共通テスト・追試志願者が数万人、もしくはそれ以上、増えた場合、この成績提供が可能かどうか、各大学の入試担当者は懸念しています。

◆懸念その2・2月上中旬の私立大入試は?

追試受験者が多い場合、私立大入試の日程にも大きく影響します。

例年だと、2月上旬には関西の主要私立大や首都圏の中堅私大、中旬にはマーチクラス(明治、青山学院、立教など)の入試日程が組まれています。

来年の受験日程は7月31日に交付で願書等にも記載されるため、今から変更することは不可能ではありません。

ただ、それは制度上、可能、というだけです。

「受験日程は他大学とのバッティングがどこまであるか、会場の確保は可能か、などかなり前から検討して、前年の6月にはほぼ決まっている時期です。そこから入試日程を変更、もしくは新設となると…。私ら入試課職員は何カ月、徹夜すれば済むか、というレベルです」(西日本・私立大学入試課職員)

「ただでさえ、コロナショックの影響で授業が遅れている。来年1月下旬から2月上旬にかけても授業を実施する予定。そのうえ、入試日程の変更や新設、というのは無理」(中部・私立大入試職員)

3月入試の出願者数も例年以上に増えそうです。

「本校は3月入試も拡大して実施する予定です。そのため、受験機会は十分に確保できる、と考えています」(大宮淳史・近畿大学入学センター事務部長)

一方、これまで3月入試を実施していた私立大の一部では、3月入試の撤退を決めたところもありました。

「撤退を決めたはずですが、今朝の新聞を見て混乱しています」(撤退を決めた関西私立大教員)

◆懸念その3・追試会場、誰が運営する?

ここまでは受験生への影響ですが、大学関係者にとって大きな関心事は「どの大学が追試会場となるのか」です。

今までのセンター試験は大学教職員の苦労によって、運営されてきました。

運営マニュアルは毎年のように改訂され、ハイヒールは禁止(コツコツとした足音がうるさい)、香水も禁止(臭いが気になる)など、受験生の苦情に比例して禁止事項・注意事項が増えていっています。

共通テストの運営も大学教職員が苦労することは間違いなく。

「毎年、大きな運営ミスが出ないよう、シミュレーションなどを何度もやるなど、相当神経を使う。正直言って、運営は担当したくない」(中部・国立大学教員)

「年末から2月まで海外調査があり、センター試験の運営から外れた。すると、他の教員から『先生はいいですね。今年はセンター試験から外れて』と羨望とも嫉妬ともとれる話をされた。調査先でお土産をしっかり買ってフォローしたのは言うまでもない」(東京・私立大教員)

2010年のセンター試験追試は47都道府県の国立大学が入試会場となりました。そのため、共通テストの追試も同じく、国立大学が担当することが予想されます。

ただ、もし、志願者数が多かった場合、規模の大きい私立大学が担当することもありそうですが…。

「1回でも教職員ともへとへとなんです。うちに話が来ても丁重にお断りしたい」(東京・私立大入試課職員)

「考えたくありません」(関西・私立大広報課職員)

コロナショックの影響により、地域によっては高校生の学習も遅れています。大学入試も大きく影響を受けることは間違いありません。

そのための対応策は、試験日程の現状維持、日程の延期、追試の実施、試験範囲の縮小、試験問題の選択制。この5案のいずれか、または複合となります。

どれをとってもマイナスがあり、その中で、文部科学省は5案の複合を選択しました。

文部科学省は週内にも入試の実施要項を発表する予定です。

追記(2020年6月18日20時38分・修正)

冒頭の文科省案・ポイントの部分で、「選択問題」と出すべきところを「洗濯問題」と出していましたので修正しました。

ご指摘いただいたLunatomo様、ありがとうございました。

追記(2020年6月19日10時29分)

記事中の科目「数学3」について「3」はローマ数字ではないか、とのご指摘をいただきました。

記事執筆者も把握はしています。ただ、このYahoo!ニュース個人・記事入稿ツールの仕様上、ローマ数字を出すことができません。

そのため、アラビア数字での表記となっています。

この点について、記事中に注釈を加筆しました。

冒頭の文科省案・ポイントの部分で、「選択問題」と出すべきところを「洗濯問題」と出していましたので修正しました。

ご指摘いただいたLunatomo様、ありがとうございました。

追記(2020年7月8日10時6分)

「◆追試はどれくらい受ける?」段落の中で「追試」を「ついし」と記載していました。Yahoo!ニュース個人編集部の指摘を受け修正します。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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