「美しい青い血」が重宝されるカブドガニが減少 感染症診療を進歩させた立役者
ご存知の通り、カブトガニは4億年以上前から姿を変えていない「生きた化石」と呼ばれている貴重な生物です。日本では生息地が天然記念物に指定されています。実は、「美しい青い血」を持ったカブトガニは医療の分野で大活躍しています。
カブトガニの血液は青い
カブトガニの血液には、ヘモグロビンという赤い色素のタンパクが存在せず、かわりにヘモシアニンという銅を含んだ色素タンパクがあることから、青くなります(図1)。正確に記載すると、体内を流れているときは乳白色ですが、酸素に触れると青くなります。
ナメック星人のような紫がかった青色ではなく、きれいなハワイアンブルーです。同じ原理で、イカやタコの血液も、酸素に触れると青くなります。
さて、カブトガニの血液のすごいところは、細菌が生み出すエンドトキシンという毒素や真菌(カビ)の成分と反応して、ゲル状に固まるという点です(1,2)。これを、カブトガニの学名をとって「リムルス反応」と呼びます(図2)。
細菌は、医薬品や医療機器に付着すると、人体に感染症を起こす可能性があります。そのため、エンドトキシンによる汚染がないかチェックするために、カブトガニの血液から作られた試薬が非常に有効なのです。
現時点では、エンドトキシンを検出できる天然資源はカブドガニだけだと言われています。
私は呼吸器内科医をしていますが、真菌感染症の検査をすることが多いです。その手段として、真菌の細胞壁成分であるベータDグルカンという物質の血中濃度をみることがあります。この際、カブトガニの血液抽出物でつくられた試薬を使っています。
実は、ほぼ毎日カブトガニの恩恵を受けて仕事していることになります。ありがとうございます。
カブトガニの減少
現在、採血したカブトガニはそのまま海に返してあげます。この採血作業によって死亡するカブトガニは約3%ではないかと見積もられていますが、その6~10倍である17~30%にのぼるのではないかという見解もあります(3,4)。
カブトガニ全体が短命になってきており、採血だけでは説明できないとする報告もあります(5)。ウナギなどのエサとしても捕獲されており、数からいえば採血目的よりもこちらのほうが問題になるかもしれません。
乱獲や地球温暖化によりカブトガニの数は減少の一途をたどっており、絶滅が危惧されています。日本でも生息地が天然記念物になっています。
渡り鳥はカブトガニの卵を食べているため、カブトガニの減少によって、周囲の生態系にも影響が出始めています。
カブトガニを使用した検査需要は近年むしろ増えており、代替物質の開発と普及が望まれます。
まとめ
私たちの医療の進歩に、カブトガニが密接に関わっていることを知っていただければと思います。
生態系を守るため、エンドトキシンを検出できる代替物質の開発が急がれており、すでに「リコンビナントC因子」などが実用化されています。
(参考)
(1) Bang F, et al. Johns Hopkins Hosp. 1956; 98: 325.
(2) Levin J, et al. Johns Hopkins Hosp. 1964; 115: 265.
(3) John BA, et al. Marine and Freshwater Behaviour and Physiology. 2011; 44(5): 321-7.
(4) Smith DR, et al. Front Mar Sci. 2020; 7: 607668.