セクハラ被害の相談を受けたときの「厳禁ワード」
「パワハラ防止法」の施工が、2020年6月の大企業に続き、2022年4月に中小企業でも施工されます。世間的にもハラスメントが話題になることが多くなっています。
今回はハラスメントの中でも、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)で社内の人から相談を受けた際に「けっして言ってはいけない言葉」から、問題解決に導くまでの道筋についてお伝えします。
職場でのセクハラは離職にもつながる
セクハラは、普段の仕事の相談に比べ、デリケートな問題をはらんでいます。軽い気持ちで相談に乗った結果、いつのまにか相談者から失望されてしまったり、会社への不信感につながって、退職にまで発展してしまうこともあります。
私自身にも、セクハラを受けた経験があります。
前職の営業時代、取引先に「女性営業はスカートで来て」と言われました。当然のことながら、そんな指示には聞く耳を持たず、パンツスーツで訪問しました。
東京都議会で「結婚しろ」「子どもを産め」とヤジを飛ばし、セクハラだと問題になりましたが、「結婚しないの?」なんて、大げさではなく100回以上は言われています。
セクハラを受けたことがある人は、案外多いのではないでしょうか。
中小企業も避けては通れない「ハラスメント」問題
最初でも少しお伝えしましたが、2020年6月施行の「パワハラ防止法」により、大企業には、従業員からのハラスメントについての相談窓口の設置が義務付けられました。中小企業についても、2022年4月からは「パワハラ防止法」が施行されます。
日本では、大企業が0.3%、中小企業が99.7%と、ほとんどの企業が中小企業であることがわかります。従業員が5名以下の小規模企業も、全体の9割弱を占めています。そんな状況を反映し、ハラスメントに対する知識がまだ十分ではない方が多いのではないでしょうか。
私は企業研修で一般企業に伺いますが、たとえハラスメント窓口があっても十分に機能していなかったり、ハラスメント教育を実施していないのでは、と感じる企業も多くあります。そんな企業では、女性社員に対し、「まだ結婚しないの?」「彼氏は?」といった会話が当たり前のように飛び交っています。
実際のところ、社員数5名の会社でハラスメント窓口を設置するのは困難でしょう。小規模企業では、ハラスメントについての相談を受けるのは経営者や管理職です。もしハラスメントの相談があったときのために、研修までは難しいとしても、最低限の知識は知っておく必要があります。
「頭ポンポン」はセクハラです
「セクハラをしよう!」と思ってしている人は多くはないでしょう。ほとんどの人は、悪意なく、セクハラになる言動をしてしまっているのです。
研修を受講してくれた新入社員の女性、Aさんの事例をご紹介します。
Kさんは、直属の上司である、主任の男性の行動に悩んでいました。男性主任は、褒める際、「今日はよくがんばったね」と、Kさんの頭にポンポンと触れるのです。
Kさん自身は、触れられることが気持ち悪いと感じていますが、立場を考えて、笑いながら「やめてください」としか言えません。男性主任は、Kさんが笑っているので、心底嫌がっているとは思わず、幾度も同じ行動を取っていました。
Kさんが嫌がっているのですから、これは明らかなセクハラに当たります。特に部下や後輩がいる場合は、「これはアウト」と、セクハラの定義を理解することが必要です。
セクハラ相談の禁句「気にしなくていいよ」
では、上司としてセクハラの相談を受けた場合、どうすればいいのでしょうか。そんなとき、けっして言ってはいけない禁句が「気にしなくていいよ」です。
旅行会社の女性社員Bさんの事例をご紹介します。
Bさんは、男性上司にセクハラについて相談をしました。相談の内容は、「既婚の男性社員からしつこくデートに誘われている。何度断っても誘われる」というものでした。
相談を受けた男性上司の回答はこうです。
「ああ、あの人はみんなに同じことを言っているから、気にしなくていいよ」
Bさんにとっては「出社したくない」と思うほどの悩みであり、勇気を絞り出して相談したにも関わらず、軽く扱われたことに大きく絶望したそうです。
たとえ上司にとっては、取るに足らない悩みと思えたとしても、自分の先入観や主観で判断してはいけません。「気にしなくていいよ」「考えすぎだよ」は禁句です。まずは相談者の気持ちを理解するように努めましょう。そうしなければ、「この人に相談しても無駄」と信用をなくしてしまいます。
セクハラ相談の禁句「なぜ断らなかったの?」
次に、もうひとつの禁句をお伝えします。
誰かに「嫌なことを言われた」「嫌な行動をされた」と相談を受けた場合、はっきり断ることのできる人は、「なぜ嫌だと言わないの?」「きっぱり断ればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、どんなに嫌でも、その嫌な気持ちを表に出せない人もいます。ましてや目上の人からセクハラまがいのことをされた場合、これからの仕事や人間関係に差し支えると考えて、耐えてしまう人もいるのです。
そこで、「どうして拒否しなかったの?」「断ることもできたのではないか」という言葉を投げかけてしまうと、相手は「せっかく勇気を出して相談したのに責められた」と感じます。そして、それ以上相談するのをやめてしまうのです。
セクハラ相談をされたら、相談者の意向を確認する
では、実際にセクハラを相談されたら、どうしたらいいのでしょうか。
まずは、話に自分の助言は挟まず、最後まで話を聴きましょう。共感をしながら、事実関係をヒアリングします。そして、大切なことは、問題解決に向けてすぐに動き出す前に、「相談者はどうしてほしいと思っているのか」を確認することです。
実は相談者は、すぐに解決してほしいと思っているとは限りません。
「話をただ聞いてほしい」「相手との間に入って解決してほしい」「外部の専門家に相談する際、同行してほしい」など、相談者の意向はさまざまです。
それなのに、上司の独りよがりで解決に向けて動き、加害者と話し合いを始めてしまっては、相談者は「勝手に余計なことを」と思うかもしれません。ひょっとすると、会社に居場所がなくなってしまうかもしれません。親切が仇になってしまいます。
そこで、相談者の意向をはっきり確認した上で、もし「解決してほしい」と思っている場合には、すぐに問題解決に向けて動きましょう。
最後に
職場におけるハラスメントは、仕事へのモチベーションの低下や、精神的な苦痛、離職率の増加を引き起こします。働きやすい職場づくりのためにも、誰もがハラスメントについて理解し、ハラスメントのない組織をつくりましょう。
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