【高齢者の帯状疱疹予防に朗報】新型ワクチンが健康寿命延伸の鍵に？

高齢化が進む日本では、健康寿命の延伸が大きな課題となっています。加齢に伴い免疫機能が低下する免疫老化現象により、高齢者は感染症のリスクが高まります。中でも帯状疱疹は、50歳以上の成人の3人に1人が罹患すると言われており、高齢者のQOL(生活の質)を大きく損なう疾患として注目されています。

帯状疱疹は、子供の頃に罹患した水痘の原因ウイルス(水痘帯状疱疹ウイルス)が神経節に潜伏感染した状態から再活性化することで発症します。強い痛みを伴う特徴的な皮疹が現れ、痛みのため日常生活に支障をきたすことも少なくありません。さらに、帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれる慢性の神経痛が残存し、長期にわたってQOLが低下することが知られています。加齢に伴う免疫力の低下が帯状疱疹発症の主な要因であり、高齢者の健康寿命を脅かす大きな問題と言えるでしょう。

【サブユニットワクチン　シングリックスによる高い予防効果と安全性】

近年、組換え型サブユニットワクチン　シングリックスが開発され、既存の生ワクチンを上回る高い予防効果が示されました。シングリックスは50歳以上の成人を対象とした臨床試験で、90%以上の発症予防効果を示し、80歳以上の高齢者でも同等の効果が確認されています。このシングリックスによる予防効果は、ワクチン接種10年後でも70%以上が維持されることが報告されており、長期的な発症リスク低減が期待できます。

また、シングリックスは免疫抑制状態の人にも使用可能な不活化ワクチンであり、高い安全性プロファイルが示されています。一方で、接種部位の疼痛や発熱などの一時的な副反応が報告されていますが、ほとんどが軽度から中等度で1〜3日程度で回復するとのことです。シングリックスによる予防効果と安全性の高さから、日本でも接種が推奨される状況になりつつあります。

【シングリックスによる健康寿命延伸とQOL向上への期待】

帯状疱疹および関連する合併症は、身体的・精神的健康に大きな負担を与え、社会経済的損失も無視できません。シングリックスによる発症予防は、個人のQOL向上だけでなく、医療費削減や生産性損失の軽減にも寄与すると考えられます。ある研究では、シングリックスの定期接種により、帯状疱疹関連の入院が大幅に減少すると試算されています。超高齢社会の日本において、健康寿命の延伸は喫緊の課題です。シングリックスをはじめとする成人ワクチンの普及は、健康寿命延伸の鍵を握る重要な戦略の一つと言えるでしょう。

シングリックスは、水痘帯状疱疹ウイルスの糖タンパク質と免疫増強剤を組み合わせた、新しいタイプのサブユニットワクチンです。既存の生ワクチンに比べ、シングリックスは免疫原性が高く、免疫老化が進行した高齢者でも十分な免疫応答が得られることが特長です。一方、シングリックスの2回接種は、生ワクチンの1回接種と比べてコストがかかるため、費用対効果の観点からは課題も残ります。ただし、モデリング研究の多くが、シングリックスの定期接種は費用対効果に優れるとの結果を示しており、長期的な医療経済効果が期待されています。

日本では高齢化に伴い、帯状疱疹患者数の増加が予測されています。帯状疱疹は皮膚と神経に重大な影響を及ぼす疾患であり、特に高齢者のQOLを大きく損ねる要因となります。ウイルスの再活性化を予防するシングリックスの活用は、健やかな老後を送るための有力な手段の一つと言えるでしょう。一方で、ワクチンに対する理解や接種率の向上など、克服すべき課題も残されています。今後、シングリックスをはじめとする成人ワクチンが、健康寿命の延伸に貢献することを期待したいと思います。

参考文献:

1. Curran D et al. Healthy ageing: Herpes zoster infection and the role of zoster vaccination. NPJ Vaccines. 2023;8:184. https://doi.org/10.1038/s41541-023-00757-0