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梅毒の感染者が5000人突破 日本で広がる「特殊な事態」とは

市川衛医療の「翻訳家」
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 11月28日、国立感染症研究所は、今年の梅毒の感染者が44年ぶりに5000人を超えたと発表しました。

国立感染症研究所は28日、今年の梅毒の感染者が19日までの報告で5053人(速報値)になったと発表した。5千人を超えたのは昭和48年以来、44年ぶり。

出典:『今年の梅毒患者、44年ぶりに5千人超え 「気になる人は早めに受診を」厚労省呼びかけ』 産経新聞ニュース2017.11.28 16:28

 梅毒は、「梅毒トレポネーマ」という病原体による感染症です。性行為によって広がることが多いですが、梅毒に感染したお母さんから生まれた赤ちゃんが感染する「先天性梅毒」というケースもあります。

梅毒トレポネーマ(電子顕微鏡写真) CDC / Dr. David Cox
梅毒トレポネーマ(電子顕微鏡写真) CDC / Dr. David Cox

 30年前(1987年)に2928人をピークとする流行が見られたのち、年間500人程度にまで減っていた梅毒。どのようなルートで増えているのでしょうか?先月公開された、国立感染症研究所による、ここ5年ほどの状況を調査した論文(※1)をもとに見てみます。

 日本国内で2012~2016年にかけて報告されたデータから、感染が広がったルートや、性別・年代ごとの感染者数などを調べた調査です。

 調査結果のなかで、筆者が注目したのは次の項目です。

・男女間の性交渉による感染が急激に増えている

・男性は25~29歳、女性は20~24歳で感染するケースが多い

・数としては少ないが、先天性梅毒の赤ちゃんも増えている

男女間の性交渉での感染が増えている

 実は近年、アメリカなど海外でも梅毒の感染が広がり、問題になっています。

 ただ、例えばアメリカでは、主に「男性同士による性交渉」(MSM)によって感染が広がっています。実は日本でも、2012年には男性同士の性交渉が原因と思われるケースが最も多く報告されていました。

 ところがここ数年、男女間の性交渉による感染が急激に増えています。

 2016年には、女性と性交渉した男性(MSW)の報告が最多となりました。さらに、男性と性交渉した女性(WSM)による感染も増えていることがわかりました。

文献1より筆者作成
文献1より筆者作成

 国立感染症研究所の研究グループによれば、こうした状況は海外の先進国においては報告されていないということです。男女間の性行為によって梅毒が広がっている現状は、国際的にみて特殊な事態といえるかもしれません。

男性は25~29歳、女性は20~24歳の報告が多い

 いま感染が広がっているのは、どの世代なのでしょうか?2016年のデータで、10万人あたりの報告数を比較した結果では男性は25~29歳、女性は20~24歳が多いことがわかりました。

 例えば女性20~24歳の場合、2012年の報告数は20件でしたが、2016年には268件に増えています。10万人あたりの報告数は0.7から9.0と、およそ13倍に増えたことになります。(※第1期・第2期の梅毒のみ)

 もちろん、梅毒の感染への対策はどの年代にとっても大切です。ただ、特に20代の女性に関しては、病によりつらい思いをする人を減らすための対策が急務と言えそうです。

数としては少ないが、先天性梅毒の赤ちゃんも増えている

 若い女性に感染が広がるのと同時に、「先天性梅毒」の赤ちゃんの報告も増えていることがわかりました。論文によれば、2012年には4件だった報告数が、2016年には14件に増えたということです。

 14件というのは、全体の出生数からすると非常に少ない数です。ただ日本では母子保健法により、妊娠初期(4~12週)に梅毒の検査を無料で受けられ、感染が見つかった場合には早期に治療が行われるはずです。

 何らかの事情で検査を受けられなかったり、感染が発覚しても治療を受けられなかったケースが少しずつ増えていると考えられます。

若い女性への対策をどう進めるか

 なぜ、若い女性に梅毒が増えているのでしょうか?

 「男性同士の性交の経験者から広がった」「性風俗業に従事する人のなかで感染が広がっている」「海外から梅毒が持ち込まれている」など様々な仮説が出されていますが、はっきりした原因はわかっていません。

 ただ、男女間の性交渉によって梅毒が急激に広まりつつあること、特に若い女性で増えていることは現実です。いま出来ることは、私たち一人ひとりが感染を広げないために、梅毒に関する知識を伝えあい、予防対策をとることです。

 厚生労働省は梅毒の感染対策として、次のことを勧めています。どうか他人事と思わず、いちど目を通してみてください。

Q6 どのようにすれば感染を予防できますか?

A6 感染部位と粘膜や皮膚が直接接触をしないように、コンドームを使用することが勧められます。ただし、コンドームが覆わない部分の皮膚などでも感染がおこる可能性があるため、コンドームを使用しても、100%予防できると過信はせず、皮膚や粘膜に異常があった場合は性的な接触を控え、早めに医療機関を受診して相談しましょう。

Q7 無事に治療が終わりました。一度梅毒になったので、もう免疫があると考えてよいですか?

A7 梅毒の感染は、医師が検査で血液中の免疫(抗体)を確認して判断をします。感染した人の血液中には、一定の抗体がありますが、再感染を予防できるわけではありません。このため、適切な予防策(コンドームの使用、パートナーの治療等)が取られていなければ、再び梅毒に感染する可能性があります。

厚生労働省 梅毒に関するQ&Aより抜粋

参考文献===

※1 Rapid increase in reports of syphilis associated with men who have sex with women and women who have sex with men, Japan,2012-2016

Takuri Takahashi et al.

Sexually Transmitted Diseases:Post Acceptance: November 21, 2017

doi: 10.1097/OLQ.0000000000000768

論文へのリンクはこちら

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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