Yahoo!ニュース

決勝戦「青森山田vs近江」、結末は「海賊退治」か「ラスボス撃破」か=高校サッカー選手権

平野貴也スポーツライター
第102回全国高校サッカー選手権は8日に決勝を迎える(写真は開会式)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 第102回全国高校サッカー選手権は、8日に国立競技場で決勝戦(14時05分開始予定)を迎え、2年ぶり4回目の優勝を狙う青森山田(青森)と、初優勝を目指す近江(滋賀)が対戦する。

 2015年に就任し、わずか10年で決勝に駒を進めた近江の前田高孝監督は「Be Pirates(海賊になれ)」のスローガンを標ぼう。荒波で揺れる船の上を我が物顔で動き回る海賊のように自在性の高い位置取りから、豪快にドリブルで敵陣へ迫り、ゴールという宝を奪いに行く攻撃型のサッカーを体現する。

 準々決勝で前回4強の神村学園(鹿児島)を打ち合いの末に4-3で破るなど快進撃を見せてきたが、満足はしていない。中盤でチームの心臓となるMF西飛勇吾(3年・背番号4)は「やっぱり、ラスボス(最後の敵)を倒すことが一番、楽しいと思う。勝てるように頑張りたい」と話し、近年の高校サッカー界で王者と呼ばれる、最後のボスにふさわしい相手を撃破して優勝旗を奪い取る気概を見せた。

 一方の青森山田は、高校年代最高峰のプレミアリーグで日本一に輝いたチームで、全国2冠を狙う。前回優勝した2年前のシーズンを最後に、黒田剛・前監督(現・FC町田ゼルビア監督)が勇退。ヘッドコーチだった正木昌宣監督が後を引き継ぎ、就任2年目で早くもリーグタイトルを取り、高校サッカー界の象徴でもある選手権タイトルも射程圏に捉えた。

 常勝軍団の狙いは、日本一のみ。190センチの長身を誇り、セットプレーから得点を重ねているDF小泉佳絃(3年・背番号5)は「青森山田に入った理由は、プレミア優勝ではなく、選手権を優勝したいから。最高の仲間と絶対に優勝したい。自分の特長であるヘディングやカバーリングを国立の舞台で存分に見せつけたい」と海賊退治に意欲的だった。

青森山田、日本一基準の守備に自信

190センチの長身DF小泉(写真)や主将の山本を中心とした守備の強さは、青森山田の特長だ
190センチの長身DF小泉(写真)や主将の山本を中心とした守備の強さは、青森山田の特長だ写真:長田洋平/アフロスポーツ

 勝負のポイントは、近江の攻撃、青森山田の守備で、どちらが上回るかだろう。青森山田の正木監督は、決勝前日の練習を終えて「選手権で一番(大事なの)は、勢い。(相手は)それを裏付けるためのテクニックとアイデアを持っていると思う。彼らの攻撃力は、本当に警戒しています。ただ、我々は、逆に守備が売りのチームなので、どちらのストロングポイントが優って、お互いにもう一つのプラスアルファを出せるかというのが勝負になる」と話した。

 青森山田は、2回戦で飯塚(福岡)に1-1でPK戦による辛勝というスタートだったが、3回戦では広島国際学院(広島)に7-0、準々決勝は上位候補の一角だった昌平(埼玉)に4-0と完封勝利。準決勝は、市立船橋(千葉)に追いつかれて1-1となりPK戦4-2での勝ち上がりとなったが、複数失点はない。

 中盤で連動して次々にボール保持者を捕まえ、球際の争いを制して相手をゴールに近付けない守備が強みだ。主将のDF山本虎(3年・背番号4)は「いろいろな形でやって来る相手だけど、意識し過ぎずにいつも通りにプレー出来れば良い」と変則的な相手の動きに惑わされず、王者の基準の高さで制圧する姿勢を示した。

 MF芝田玲(3年・背番号10)も「劣勢に立たされた試合で、二度追い、三度追いという自分の守備能力でカバーして来たところもある。全体の守備の形も大事だけど、個人の守備強度にフォーカスを当てて、自分が全部(ボールを)取ればいいというくらいでやれればいい」とプライドを込めた強い言葉で覚悟をのぞかせた。

変幻自在の近江、勇気で生み出すパスコース

近江は、10番の金山が攻撃の鍵を握る
近江は、10番の金山が攻撃の鍵を握る写真:長田洋平/アフロスポーツ

 対する近江は、青森山田にプレッシングの的を絞らせない攻撃を徹底できるか。初戦の2回戦は日大藤沢(神奈川)、3回戦はインターハイ王者の明秀日立(茨城)と対戦し、ともに1-1からのPK戦で勝ち上がった。驚異的な攻撃力を見せたのは、準々決勝の神村学園戦だ。プロ内定2人を擁する相手に打ち合い、4-3で勝利。勢いに乗った準決勝は、開始から22分で3得点を奪い、終盤にPKで失点したが3-1で堀越(東京A)を打ち破った。

 相手に奪いどころを絞らせない攻撃は、中盤に人数が多い3-6-1の布陣で、ボール保持者に対し、味方が近い距離でパスコースを複数生み出す動きが特徴だ。青森山田のように球際で強い守備を見せる相手に対し、自分はマークされているのでパスを受けられないというアクションを起こす選手が出てくると崩壊するが、西は「必要なのは、勇気を持つこと。勇気を持って受けようと練習して来た。ボールを持ち過ぎると(相手のプレッシャーに)食われる。早く(パスコースを複数作って)つながって、首を振る回数を増やして、つないでいきたい」と青森山田の攻略をイメージしていた。

 推進力に優れたDF金山耀太(3年・背番号10)を3バックの左に置いたり、左のウイングバックに置いたりと明確に選手のポジションを入れ替えることもあるが、神村学園戦の際に攻撃的MF浅井晴孔(3年・背番号14)が「フリーで動けと言われて、内に入ったり、外に行ったり。バランスを見ながら(相手の)背後に抜けたりという感じ」と話したとおり、プレーの流れの中で瞬間的に入れ替わることも多く、相手はマークを捕まえにくい。ボールサイドに人数をかけ、素早いパス回しから前を向ける選手にボールを渡すと、すかさドリブルで前進し、相手を置き去りにする。

 準決勝で敗れた堀越の佐藤実監督は「ボールホルダーからしっかりプレスをかけていって(相手が前に進んだところを)プレスバックすれば……と思っていたが、初動の切り替えが遅く、どんどんスピードアップされた」と、流動的な相手にわずかなタイミングで数的不利の局面を作られ、あっという間にゴールまで持って行かれた展開を悔しがった。人がスペースに動き、空いたスペースに誰かが入るという連動性で、相手の守備を振り切れば、近江の攻撃力が生きる展開になる。

序盤が鍵、国立に棲む魔物との付き合い方も重要

 青森山田の屈強な守備を、近江の流動的な攻撃が上回るかどうか。互いのプレースタイルを見れば、そんな一戦になる。ただ、大観衆の反応が生まれる選手権の決勝戦は、1点、1プレーで流れが大きく変わるため「魔物が棲む」とも言われる舞台だ。リードをしても守りに入れば一気にひっくり返されることも珍しくない。試合の入り方、臨み方、対応の仕方も大事になる。

 高精度のプレースキックで得点を演出し続けているMF芝田は「まずは守備ばかり考えず、攻撃的に攻守ともにやるのが一番。相手の向かって来るモチベーションに対して受けてしまったら良くない試合になる。自分たちも(2冠達成への)チャレンジャーとして立ち上がりからやれたら良い。もう最後(の試合)なので相手に何もやらせないくらいの勢いで、思うサッカーができればいい」と積極性を90分間保ち続けて圧倒する理想像を描いた。守備を気にして守勢に回る展開を避けたいという点を主軸が理解しているのは、強みだ。セットプレーという飛び道具で試合の流れとは無関係にゴールを狙えるのも青森山田の強みと言える。

 魅惑の攻撃で勢いに乗る「海賊」近江が勝利の旗を掲げるか、青森山田が誇る王者の盾こそ最強か。いよいよ、最終決戦だ。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

平野貴也の最近の記事