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AV被害議員立法 18歳・19歳の取消権存続を見送らないでください。被害者に真に役立つ法律を。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
支援団体PAPSのキャンペーンサイト

 4月から成人年齢が引き下げられ、18歳、19歳のAV出演強要等の被害が深刻化することが社会的に懸念されています。

 国会でも3月に、塩村あやか議員などが連日質問で取り上げる中、与党がPTを立ち上げ、本格的に議員立法を目指すことになりました。歓迎すべき動きです。

4月から成人年齢が引き下げられたことに伴い、18歳と19歳のアダルトビデオ(AV)出演の契約が「未成年」を理由に取り消せなくなった問題で、自民、公明両党は13日、与党プロジェクトチーム(PT)の初会合を開き、与党案の作成に向けた「基本的な考え方」をまとめた。今後、法案化の作業を急ぐ。

(朝日新聞)

 与党「AV出演被害防止に関するPT」で座長は、自民党の上川陽子議員・前法相、座長代理は公明党の佐々木さやか議員。

 両議員とも、これまでも大変この問題に関心を寄せ、取り組んでくださってきたので、心強いです。

 さて、ではいかなる法律になるのか。

 報道によれば、与党では以下の6項目を盛り込むことで合意したとされています。

1 AV被害は年齢を問わず深刻なので全年齢を対象にする

2 問題のある契約は取消ができるようにする

3 いかなる出演契約であっても、撮影までは無条件に、撮影後も相当期間を経過するまでは無条件に解除できる

4 拡散防止措置を講ずる

5 出演者の利益を一方的に害する契約条項は無効とする

6 アダルトビデオを明確に定義する

 大変ポジテイブな内容を含んでいることは確かですが、全年齢対象としたために、18歳、19歳に対する未成年取消と同様の保護、と比較すると、果たして困っている若い被害者をすぐに救える立法となるのか、懸念があります。

 AV出演をめぐっては、東京地裁2015年9月9日判決で、AVに意に反して出演したくない場合はプロダクション等との契約をいつでも解除できる、という判例があります。つまり、出演前は契約解除して断ることは法律上は可能です。

 一番法的に問題なのは、意に反しているが断れずに出演してしまったが、販売・配信を停止したい、という訴えに対して何ができるかということになります。

 若い女性があれよあれよと出演させられてしまうとき、相手はプロですので、出演するまではなかなか断れず、出演させられてしまってから「何とかしてほしい」「こんなつもりではなかった」という訴えが多いからです。しかし、現行制度ではなかなか出版を差し止めることが難しく、いわば自分の性被害動画が世界中に半永久的に拡散され、それをどうすることもできない被害者の苦しみはあまりに深刻なものです。

 こうした被害の実態、支援現場の実情から、6項目の主な点について検討し、これからの立法に求められることを指摘したいと思います。

1 「問題のある契約は取消ができるようにする」

 問題のある契約は取り消せるとのことですが、「問題のある契約」とは一体何か、「問題のある契約」であることを立証する責任はだれが負うのか、被害者が立証責任を負わされるのかが問題となります。

 AVの場合、メーカーとの間で確認する出演同意契約は、条項を業界が一方的、統一的に定めており、出演者は読み上げさせられて、その様子を録画されるため、実際には周囲に囲まれて断れず、不本意であっても契約を覆すのが難しい状況があります。

 私たち支援団体が求めてきた、18歳・19歳に対する未成年取消と同様に、無条件で取り消すことができ、遡及的に出演同意を無効にする、取消制度を維持する立法が最も強力 です。

 まず、18・19歳はこれまでの保護がなくなることがないよう、未成年取消と同様の無条件の取消制度を維持することを強く求めたいと思います。

20歳以上についても、被害実態に即して、被害者が救済されやすい要件とすること、取消の有効性を判定できる迅速な仕組みをつくって販売差し止めに導く制度を創設することが必要です(ちなみにこの点で、業界団体の仕組みが機能しているとは言い難い実例を何人もの被害者から聞いています)。

2 「撮影までは無条件に、撮影後も相当期間を経過するまでは無条件に解除できる」

 この点は大変注目に値しますが、被害者救済を実現するには相当工夫が必要です。以下論点を上げてみました。

(1) 解除の効力

 まず、解除の効果が遡及効(さかのぼって無効になる)なのか、将来効なのかという点が焦点になると思います。

 この点法律はといえば、売買契約の解除は遡及効、委任契約や雇用契約等の解除は将来効、と民法の中でも契約によって、違いがあるのです。

 そもそも、AV出演契約の法的性質は何なのか、依頼を受けて演技という役務提供をすると考えれば、委任契約または準委任契約(土屋アンナ氏事件判例) となりそうです。とすれば、準委任契約の解除は、委任契約同様将来効と解されます。

 そうすると、単に「無条件に解除できる」と規定しても、被害者にとってはあまり役に立ちません。意に反して出演してしまった後で後悔して契約を解除しても、出演同意が遡って無効になるのでなければ、結局販売、配信を停止できない、という結論になり、救われないからです。

 一方、映像作品に出演する場合、単にその場で演技するという役務提供にとどまらず、著作権法91条の許諾、肖像権、パブリシティ権などの譲渡などが含まれ、そうなると、著作権法上の契約解除に倣った解決になる余地がありそうです。

 しかし裁判例や研究者の研究をみると、著作権法上の解除は性質によって将来効か遡及効かが異なり、判例でも「どっちなのか」が争われている状況です。

 そして多くの場合、解除は将来に向かってだけ効力がある、とする判例が多いようです。

 解除の効果が遡及効なのか、将来効なのかを明確にせず、判例に委ねるというような立法では、簡易迅速な被害救済は実現できません。

 AV出演契約の解除が無条件で、遡及的な効力を持つと明確に規定する必要があります。

(2) 解除の時期 

 撮影後も相当期間を経過するまでは無条件で解除できる、とされています。この時期はいつ頃まででしょうか?

 まず、出演後も、販売・配信までの間は、無条件で解除ができるようにすべきです。

 それだけでなく、ほとんどゲリラ的に被害にあい、忘れたころに販売・配信されていることもよくあります。その意味では、知った時から3年、などの規定を設け、被害者を保護することも必要です。

(3) 第三者との関係

 民法では、契約解除が遡及的な効力を持つ場合でも、第三者の利益を害することができないと規定されています。 

 しかし、AV被害では、制作会社に対する出演同意契約を締結し、販売、配信しているのが別会社の場合、そうした会社が第三者として保護されるとなれば、被害者が保護されず、意に反する販売・配信が認められてしまいます。この点でも第三者より被害者の利益が優先されるよう、明確な規定が必要となります。

3 拡散防止

 AV被害の拡散防止も6項目に含まれています。

 効果的な拡散防止を進めるためには、まず、リベンジポルノや児童ポルノと同様の措置が必要ですが、その前提は、意に反する販売や配信が違法であり犯罪であると明確に規定されることです。しかし、そのためには、1と2で記載したことが、はっきりと被害者保護の観点から整理されることが不可欠です。

 また、現行のリベンジポルノ法は、およそ、商業的なポルノ被害を排除するものになっており、この機会に改正が必要です。

4 出演者の利益を一方的に害する契約条項は無効とする

 この点、常々思うのが、契約とは言え、本番の性行為や性虐待行為を出演者に課す契約は出演者の利益を深刻に害するということです。

 契約書には「セックスシーン」をすると書かれていますが、撮影現場では実際の性交をする事がお約束であり、さまざまな性虐待的行為も拒絶が困難な状況です。

 現在、おりしも、法務省では刑法の性犯罪規定の改正が議論され、意に反する性交等を処罰する改正が議論されています。契約の強制や撮影現場の監督の指示によって、意に反する性交や性交類似行為をさせるというのは改正の方向性にも合致しないのではないでしょうか。

 少なくとも、性交、口腔性交、肛門性交、性器への物の挿入を実際に契約内容として課す契約は無効とすべきでしょう。

5 18歳・19歳の取消権存続を見送らないでください。

 この記事を書いている最中に、

「AV出演被害、「未成年者取り消し権」の復活見送りで調整 与党」

 という見出しの記事が出て非常に驚いています。

 これまで、世論が注目し、支援団体が求めてきたことについて、支援団体と協議をする前に決めてしまわないでほしい、と思います。

3月に開催した院内集会
3月に開催した院内集会

 与党の提案する「いつでも解除」という提案が今のところ法的に課題が多いことは上述した通りです。

被害を本当に救済する視点に立って、未成年取消と同様の救済効果がある規定が他の方法で間違いなく導入できる、ということが確実に実現できるのであればともかく、そのような確証もないなかで、一方的に被害者や支援団体の声・提案を葬らないでいただきたいと切に願います。

 18歳・19歳の取消権存続を安易に見送らず、そして、被害救済において意味のある制度を創設することを、与野党の国会議員に期待を込めて、強く求めたいと思います。(了)

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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