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「金大中」の再来か アッと驚く韓国の「政変」国会議員でない36歳の若者が最大保守野党の党首に!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
野党「国民の力」の党首選挙に立候補した李俊錫候補(李候補のHPから)

 台風が到来するには季節的には早すぎるが、韓国の政界では早くも「台風の目」が現れ、旋風が巻き起こっている。来年3月の大統領選挙で政権奪還を狙う保守系最大野党「国民の力」のトップを決める選挙で大波乱が起きたのだ。

 「泡沫候補」とみられていた李俊錫(イ・ジュンソク)氏が最有力候補の「政界のマドンナ」こと、羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)前院内総務や朱豪英(チュ・ホヨン)前党代表代行、趙慶泰(チョ・ギョンテ)議員ら実力者らを押さえて、予備選を1位で通過する番狂わせを演じた。テレビ放送出演で培ってきた知名度と党の刷新、変革を求める層の声を吸収した結果とみられている。

 与野党問わず、政界を震撼させている理由の一つは、李候補が過去3回国会議員選挙に出て、すべて落選した「当選0回」の非国会議員であることにある。ちなみに羅候補は昨年4月の選挙で落選したものの当選4回、朱候補は当選5回、趙候補も当選5回のベテラン議員である。

 李候補が政界のみならず、世間に衝撃を与えているもう一つの理由はまだ若干36歳の若輩であることだ。年功序列の厳しい韓国の政界では極めて異例のことである。

 韓国の党の代表は日本の自民党に例えるならば、総裁にあたる。現在、政権与党・自民党の総裁は菅義偉首相である。昨年9月の総裁選で選出された時の年齢は72歳であった。

 過去半世紀の間、自民党総裁は田中角栄総裁から菅義偉総裁までその数20人に上るが、一番若くして総裁になったのは安倍晋三総裁である。総裁選出イコール総理なので、2006年9月に内閣総理大臣に指名された際には「戦後最年少で、戦後生まれの初の総理が誕生した」と騒がれたのを記憶している。しかし、若いと言っても、それでも安倍総理・総裁は当時52歳だった。

 その自民党の総裁選挙は今秋に予定されているが、現在「ポスト菅」として岸田文雄元政調会長、石破茂元幹事長、野田聖子幹事長代行、茂木敏允外相、下村博文政調会長、加藤勝信官房長官、河野太郎行政各担当大臣らの名前が取り沙汰されている。調べてみると、河野氏を除く全員が60代である。唯一の50代である河野大臣も還暦間近い58歳である。ちなみに、小泉進次郎環境大臣は40歳と、李俊錫氏に最も近いが、総裁になるにはまだ先の話である。

 韓国は党の代表だけでなく、ソウル市長選や釜山市長など首長選の候補者も予備選を経て本選(全党大会)で選出される。今回の代表予備選では党員2千人、一般国民2千人を対象にした世論調査で本選に進出する5人が選ばれているが、李候補は41%を記録し、2位の羅卿瑗候補(29%)に10ポイント以上の差を付けていた。注目すべきは、李候補が一般国民の調査で51%を獲得し、2位の羅候補(26%)を2倍近くも引き離したことだ。

 本選は、党員50%一般国民50%の割合の予備選とは異なり、党員投票70%、一般国民30%で決まる。当然、予備選での党員調査で1位だった羅候補がやや有利だ。しかし、その差は僅か、1ポイントしかなかった。仮に、李候補が来月11日の本選で勝てば、36歳の党首の誕生となる。

 韓国の一部では李俊錫候補の台頭を「金大中の再来」に例える向きがある。後に大統領となった金大中氏が現職の朴正煕大統領の3選を阻止するため大統領選挙に打って出たのが1971年の46歳の時だった。金大中氏は当時、2歳年下のライバルの金泳三(後の大統領)氏と共に「40代の旗手」と騒がれ、脚光を浴びた。

 李俊錫候補はこの時の金大中氏よりも10歳も若いから「30代の旗手」ということになる。二人の間に共通点があるとすれば、なんとなく雰囲気が似ていることと、李候補が国会議員選挙で3度落選を味わったのに対して金大中氏もまた、1971年、1987年、1992年と3度大統領選挙に落選していることだ。(1997年の4度目の挑戦で当選)

 ▲李俊錫は何者?

 生まれはソウルだが、本籍地は慶尚北道・大邱。大邱は朴正煕政権以来の保守の地盤である。ソウル科学高校を卒業後、ハーバード大学に国費留学し、経済学とコンピューターを学んだ。いずれも学位を取得している。

 李明博保守政権下の2011年2月に次期大統領選挙への出馬を準備していた朴槿恵氏(前大統領)にスカウトされ、2012年5月まで与党「セヌリ党」の非常対策委員会委員として活動した。この時もまだ30歳未満(当時27歳)だったことで話題となった。2014年には同党の革新委員会委員長に就任し、一段とその存在が注目された。

 こうした経緯もあって党内では「朴槿恵キッド」とみられていたが、「朴槿恵・崔順実スキャンダル」が表面化した際には朴大統領を批判し、弾劾を支持する側に回り、最後は党を離れてしまった。

 李氏は常に政界に入門してからは学生時代の2004年の夏休みに議員室でインターンをさせてもらった保守のニューリーダ、劉承敏(ユ・スンミン)議員と行動を共にし、劉議員が立ち上げた改革保守新党「正しい政党」に加わった。2017年の大統領選挙で党が分裂し、同党所属議員13人が保守政党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)候補の支持に回っても最後まで「正しい政党」から出馬した劉承敏候補の選挙活動を手伝った。

 翌年2018年に李氏は党代表選に名乗りを上げ、予備選では本選進出を勝ち取ったが、本選で敗退し、翌年の2019年2月からは2か月間、タクシーの運転手をしていた。この年、党の執行部を批判したため党活動停止処分を受けてたこともあって2020年1月に「正しい政党」を脱党し、新たに創立した「新保守党」に合流。その後、野党勢力が統合した「未来統合党」(現「国民の力」)に入党し、今に至っている。

 先のソウル市長選挙では呉世勲陣営に加わり、当選に一役買っている。呉候補は党内選挙では下馬評の高かった羅卿瑗候補を逆転し、本番のソウル市長選挙では序盤与党の朴映宣(パク・ヨンソン)候補に劣勢だったが、追い上げ、最後は大差を付けて勝利している。勝因は20代から30代の若者層が呉候補の支持に回ったことにあるが、李氏の貢献が大だった。

 仮に、野党陣営の有力候補とみられている尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長が出馬せず、李候補が「国民の力」の代表に選出された勢いで大統領選挙に立候補して当選すれば韓国にも北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長(37歳)とほぼ同じ年の若い大統領が誕生することになるが、韓国は憲法上、年齢制限があって40歳未満は大統領選挙には立候補できないことになっている。

(来年の大統領選挙で与党の李在明・京畿道知事が当選したとしても文大統領の監獄行きは避けられない!?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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