アジアに買い叩かれる日本企業の彷徨。 買収された日本企業の暗黒史から学べること
KNNポール神田です。
台湾の『鴻海(ホンハイ)精密工業』は、世界最大のEMS(電子機器受託サービス)であり、主要な工場は中国にあり、AppleのiPhone製造のEMSとして有名だ。当然、中国の経済や雇用にも大きな影響力を持ち、製品調達の面では、日本の『JDI(ジャパンディスプレイ)』なども納入企業の一つであった。すでにJDIは台湾&中国系企業となっている。同時に、かつて日本企業であった『シャープ株式会社』の親会社でもある。そして、そのシャープは東芝のパソコン部門の『Dynabook株式会社』を買収している。鴻海の孫会社が、東芝の元ダイナブックの事業部なのだ。そして、鴻海とシャープは、ソフトバンクグループの『ソフトビジョンファンド(SBF)』の中核を占める投資のリミテッドパートナーでもある。
■日本の大企業が買い叩かれた『平成』時代 ブランド名だけの『ホンハイ化』
2019年、令和の10連休の間にも世界市場は動いているが、しかし、日本のマーケットは時が止まったままだ。いや、平成の時代こそ、日本の大企業は止まったままであった。平成の後半は、日本のかつての高度成長期の『昭和』を支えてきた大企業が続々と買収された『元号』でもあったのだ…。日本に会社があり、日本の社員が働いていれど、そこは、もう日本の会社ではない。そう、台湾の鴻海が中国の工場で作るiPhoneと同じ理由で、中国に会社があり、中国の社員が働いていれど、鴻海は台湾の会社という構図と同じだ。すでに買収された日本の大企業はブランド名だけが残った『中国ホンハイ化』した企業なのだ。そう鴻海に発注しているAppleのiPhoneの製品発注次第で雇用が飛んでしまうのだ。
■『三洋電機(現アクア)』は、100億円で『中国ハイアール(Haier Group)』へ(2011年)
2009年、パナソニックが三洋電機を完全子会社化、パナソニックと事業が重複し、赤字の『冷蔵庫』『洗濯機』事業を売却を2011年に発表し、2012年から『アクア』ブランドで展開する。2014年に黒字化だが、円安やリストラによるコスト削減が大きい。親会社の『ハイアール』は、2016年に米ゼネラル・エレクトリックの白モノ家電事業を54億ドル(5,400億円)で買収済み
■ソニーPC事業部門の『VAIO』は『カーブアウト』で投資ファンド『日本産業パートナーズ株式会社 (JIP)』へ(2014年)
2014年にソニーが不採算事業として売却(売却額未発表)し、投資ファンド『日本産業パートナーズ株式会社 (JIP)』のもとで独立したパソコンメーカーが『VAIO株式会社』(資本金:10億2,600万円)。
BtoBモデルやEMS事業でロボット(KIROBO mini)なども生産している。日本産業パートナーズはみずほ証券(元興銀)が起こした社内ベンチャー。『カーブアウト』という事業再編のための分社化の支援をおこなうパターン。2013年のソニー時代には917億円の営業損失を計上していたが、VAIO株式会社は、4期連続の黒字化を達成し、売上214億円、当期純利益は4.8億円 利益剰余金は8.6億円と再生している。日本企業のカーブアウト戦略で、日本の独立ファンドが再生し成功しているパターンである。VAIOは現在、香港、台湾、マレーシア、シンガポールへ日本の『VAIO』ブランドとして再参入している。
■東芝の『白モノ家電』事業は、537億円で中国の『美的集団』へ(2016年)
2016年、東芝の『白モノ家電』事業の『東芝ライフスタイル』を537億円で、中国の『美的集団(広東省、マイディアグループ)』へ売却。
東芝ライフスタイルは売り上げ4,989億円(2015年)だが821億円の赤字だった。美的集団は白物の東芝ブランドを世界中で40年間使用できるので、2056年まで日本の『東芝ブランド』は中国企業の自由となった。年間売り上げの1/9で取得できたので、企業再生は容易にみえたが再生されてはいない(2018年9月25日)。
■シャープは、3,888億円で台湾の鴻海へ(2016年)
世界最高の液晶技術を持っていた『シャープ株式会社』も2016年に3,888億円(株式66%)で電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手である台湾の鴻海(ホンハイグループ)に売却されているが、経営は現在、見事にV時復活している。そして、シャープに、元・東芝のPC部門の『dynabook株式会社』が集約されている。2019年には黒字転換予定だ。ジリ貧の状態で安値でタタキ売りに出されて、たかだか2〜3年で見事に復活しているのが、高度成長期をささえてきた日本を代表するメイカーの姿だ。また、鴻海(ホンハイ)の郭台銘(かく・たいめい テリー・ゴー)会長は、2020年1月の台湾の総統選に最大野党の国民党から出馬する意向を正式表明した(2019年4月17日)。台湾、中国、米国、日本と4カ国にわたる経営のパワーバランスにも影響を与えることだろう。
■東芝は『東芝』という名の外資系ブランドとなった…
■東芝の『テレビ事業』部門は、129億円で中国のハイセンスへ(2017年)
東芝のレグザを販売する『東芝映像ソリューション(従業員800人)』は、日本の東芝のテレビ部門であったが、2017年に129億円(株式95%)で中国電機大手の海信集団(ハイセンス)に売却されたので、中国企業の傘下会社である。
■東芝の『メモリー事業』部門は、2.3兆円で 米投資ファンドの『ベインキャピタル』日米韓連合へ(2018年)
東芝のメモリー子会社『東芝メモリ』は2018年、2.3兆円で米投資ファンドの『ベインキャピタル』を筆頭とする日米韓連合の傘下入り。
■東芝の『パソコン事業』部門は、40億円で、シャープ(台湾)へ(2018年)
東芝のパソコン事業の子会社『東芝クライアントソリューション(TCS)』も鴻海傘下のシャープに40億500万円で売却。社名は『Dynabook株式会社(従業員2,400人)』となった。
■パイオニアは、1,020億円でアジア系投資ファンド『ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア』へ(2019年)
『パイオニア株式会社』(従業員1万7,000人)は2019年、1020億円で、アジア系投資ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの傘下入り。2019年3月に上場を廃止した。パイオニアでは、本体を含む国内グループ企業の従業員を2019年5月に希望者を募り、6月末で退職させる計画で全世界で3,000人削減を計画している。人員削減などの構造改革費用として120億円を見込んでいる。
■何も仕事をさせない『リストラ専門部署』という日本的イジメ
『リストラ』手法には、『退職勧奨(たいしょくかんしょう)』や『退職勧告』などがある。会社都合ではなく、自主退社を促す方法だ。当然、そのための財源も確保している。もしくは専任担当者を他部門に配転などのリストラとはいえない『配転命令権』の行使などによる職場の移動も行われている。『改善部署(アクア)』や『キャリア開発室(ソニー)』とも呼ばれ、何も仕事をさせない部署という配置もおかれているケースもある。『キャリア・カンバス・プログラム(ソニー)』という社内FA制度まである。いわば、『肩たたき』と言われる昔からあるリストラクチャリングの一つの手法だが、どうも陰湿で日本的なイジメとしか見えてこない。『終身雇用』『年功序列』『副業禁止』『有給消化』『育児休暇』という高度成長期の働き方がすでに崩壊しているから仕方がないことだが、明確な基準が見えないまま法律に抵触しない会社でのイジメが横行している。
■日本人がコキ使われているだけの日本企業を守る必要が、どこまであるのか?
『東芝ライフスタイル』、『東芝映像ソリューション』、『東芝メモリ』、『シャープ』、『Dynabook株式会社』そして、『JDI(ジャパンディスプレイ)』、『パイオニア』日本人にとって、馴染みのある企業名だが、しかし、買収され、もはや経営権のない外資系企業である。そして現場で働く日本人の姿は一緒だ。トップや経営陣が変わることによって、従業員もハッピーとなる企業もあれば、さらに不幸の連続の企業もある。
日本の大企業が寄り合い所帯的になればなるほど、低迷するのは見えている。事業をスマートに分社化し、トップを変えてみることによってリストラせずに存続できる可能性もある。しかし、古い成功体験と社内だけを向いて仕事をしている雇われトップと、目利きでない官民ファンドが関わり、余計に日本の大企業を窮地に落とし込んでいるのではないだろうか?…
『令和』の時代、日本の大企業は、早めの早めの『カーブアウト』によるスピンアウトで、大企業病ではないベンチャー精神をとりもどすか、買われるかの二者選択しかなくなってきている。もう、『昭和』、『平成』の時代とは決別しなければならない。IT時代の『明治維新』くらいの、イノベーションを興さない限り、少子高齢化の日本には、勝ち目がない。
■令和時代の『富国強兵』と『殖産興業』政策
成長するアジアの列強には、IT政策における平和的な『富国強兵』を標榜したソフトコンテンツにおける『殖産興業政策』くらいのインパクトが必要だ。すでに殖産興業のメリットもデメリットも歴史において学習してきた、今だからこそソフトコンテンツ化する産業全体の全く新たなグランドデザインが必要なのだ。
すでに、メーカーがモノを作って売るだけの時代ではない、新たな産業育成が必要なのだ。シェアリングエコノミーやAIビジネス、金融4.0、キャッシュレス、シンギュラリティ時代へむけての産業育成だ。
令和の今の時代に、大久保利通や渋沢栄一が、生きていたら、どんな政策や産業育成を考えるだろうか?
単なる短期的な景気対策ではない、もっともっと大きな未来へのヴィジョンが必要な時代だ。