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「宗教的虐待Q&A」が厚労省により発表されました。当事者である、宗教2世の受け止めは?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

12月27日、宗教2世の問題解決に向けた、重要な一歩が踏み出されました。それは厚生労働省から示された「宗教的虐待Q&A」です。これが現場で有効活用されれば、問題解決の大きな一助になることは間違いないと思います。

これは、宗教的虐待を受けてきた宗教2世たちの声が、国を大きく突き動かした結果といえますが、当事者である宗教2世の受け止めはどのようなものでしょうか。

宗教2世問題の解決に近づく、大事な一歩 

同日、立憲民主党などの議員らによる旧統一教会問題の国対ヒアリングが開かれました。旧統一教会2世の高橋みゆきさん、バーチャルユーチューバー・もるすこちゃん、エホバの証人3世として育った夏野ななさん、旧統一教会2世元信者の小川さゆりさん(いずれも活動名)、阿部克臣弁護士、鈴木エイトさんも参加して行われました。

小川さゆりさんは「心理的虐待を明確にしてくれたことがとてもありがたい」と、厚生労働省を始めとした尽力してくれた人たちへの謝意を述べるとともに「2世の被害では、悩みを周りに話せないことで、精神疾患になったり、PTSDになったりすることがある。本人もどうしてそうなるのかが、わからない。それが宗教的虐待Q&Aにより(心理的虐待によるものと)理解できる、きっかけになる」と話します。

高橋みゆきさんは「どのような行為が虐待にあたるのかの定義を出してもらい、歴史的な日になった。これまで目に見えない虐待への判断がとても難しかった。Q&Aができることで多くの人が救われる道ができた」といいます。

その一方で「来年は、虐待された児童が見つかった後の対応や、こうした宗教的虐待が起きないためには何が必要かを考えることが大切」と、虐待を未然に防止する方策の必要性も訴えます。

もるすこちゃんは、自らも祝福2世(両親が教団の合同結婚式をして生まれた子供)として、教祖が決めた相手と合同結婚式を受けて、3世の子供がいることを告白しました。その上で「子供たちが安心して育つことのできる社会の実現をするためにも、子供(宗教2世)を育てている1世信者には、ぜひ(Q&Aを)読んでもらいたい」と話します。

鈴木エイトさんは「今、宗教2世に起きている人権侵害は個々の家庭で発生している出来事ではなく、団体の教義によって引き起こされている、組織的人権侵害です。こうした団体を規制することも必要で、政治の頑張りに期待したい」と今後の課題についても指摘します。

夏野ななさんは「Q&Aにより(虐待を受けている児童が)保護できることは大きな希望」として「これが30年前にあれば」と話します。彼女の言葉を受けて、立憲民主党の山井和則議員も「本当なら、その時にこうした宗教的虐待Q&Aができていたら、(宗教2世の)人生も変わっていたと思う。しかし、政治も行政も、宗教ということで、これまで手を出せずに放置してきた」しかし今回「被害者救済法が成立して、さらに宗教的虐待Q&Aができた」と問題解決に向けての歴史的な一歩を踏み出したことを話します。

どの方の言葉を聞いても、宗教的虐待Q&Aの持つ意味は大きく、今後「自分の受けてきたことは宗教的虐待だった」と気づき、心の整理ができて、通報する人も多くでてくることになるでしょう。

どのような内容なのか

具体的に宗教的虐待Q&Aの内容をみてみます。大きく4つの形をあげています。

一つ目は「宗教活動への参加を体罰により強制する」「居眠りをしていたなどという理由で保護者が叩く、鞭を打つ」という行為は「身体的虐待」にあたるとしています。

二つ目の「心理的虐待」では「他人の前で宗教を信仰している旨の宣言を強制する」や「児童の友人や教師など児童と交友関係を持つものを『敵』『サタン』などとすることにより、児童に対して強い恐怖心を与えること」としています。

三つ目の「ネグレクト(育児放棄)」として「深夜まで宗教活動等への参加を強制する」「宗教などの信仰活動を通じた金銭の使い込みによる家庭生活に大きな支障が生じ、養育環境の観点から適切な住環境、衣類、食事などが提供されていない場合や、児童の進学などの教育機会の提供に支障が生じている場合」をあげます。

さらに「霊感的な言葉を用いたり、映像、資料により『地獄に落ちる』などの恐怖をあおる・脅すなどをして、児童本人の自由な意思決定を阻害する」ことは、ネグレクト及び、心理的虐待にもあたるとしています。

四つ目は「地獄に落ちる・年齢に見合わない性的な表現を含んだ資料をみせる」といった行為は「性的虐待」としています。

示された概要では「心理的虐待」は13項目、「ネグレクト」は12項目と手厚くなっていることからもわかるように、これまで現場で判断に迷ってきたであろう点に、踏み込んでおり、今後の現場での対応に大いに役立つと期待されています。

いかに周りが被害に気づくかも重要

今回、厚生労働省の羽野室長から、宗教虐待に限らず「児童本人からの通告はわずかしかなく、学校関係者や警察関係など、周りから寄せられるものが多い」という話もありました。今後は、いかに周りの人たちが、子供たちが受けている宗教的虐待に気づいてあげられるのかも、大事なポイントになります。

実は、筆者の専門である詐欺や悪質商法の被害を防ぐ上でも同じで、いつも訴えているのが、詐欺をしている加害者を見抜くことよりも「被害を受けている人に、いかに気づいてあげられるか」が大事になります。

加害者の側は体裁をよくして嘘がバレないようにしており、その人物が詐欺行為をしていることは、なかなか素人目には見抜けないからです。これが被害軽減のためにとても大切なポイントだと考えています。

これは宗教的な児童虐待にも当てはまります。虐待を行っている保護者であることは、外見からはわかりません。すでに取材をした宗教2世からも「周りの人に虐待を訴えたことがあるが、両親の人当たりの良さから、子供である自分の言葉を信じてもらえなかった」という話も聞いています。

しかし虐待を受けている子供は、行動や言葉などを通じて小さなSOSを発信しています。その声をいかに拾えるのか。周りが虐待被害に遭っている子供の状況を見抜くことが、とても大事なことになります。

今後、厚生労働省はSNSなどを通じて、児童虐待のQ&Aを周知させるということです。ぜひとも多くの人に知ってもらい、虐待の兆候に「気づく目」を持ち、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」(いちはやく)への通報をお願いできればと思います。

課題は、マインドコントロール

ただし、課題もあります。それは長きにわたって教え込まれてきたマインドコントロールは、簡単には解けないということです。外部からせっかくの虐待の通報を受けても、それを受けている児童本人が気づかないことは、充分にありえるからです。

今回、もるすこちゃんからも、祖父が教祖の指示で海外宣教に行こうとする信者の母親を止めるために「幼い子供を置いていくのか!」と言った時に、子供であるもるすこちゃんは「お母さんは、世界平和のために行くからいいんだ!」と言ってしまったと話しています。

親思いの子供ほど、その心を微妙に悟ってしまうものです。何より、心にすりこまれた教義が、そうした行動を取らせてしまいます。気づかないうちに、とらわれてしまった心を解放して、本当の自分自身の心を取り戻してあげることは必要になります。やはり今後、宗教的虐待をなくすためにも、マインドコントロールの議論は避けて通れないことだと考えます。

特に、地獄に落ちるなどの強迫観念は、元信者の立場からしても、成人した者であってもなかなか容易に解けないものですので、今後、児童への継続的で手厚いケアーも必要となってきます。

Q&Aにもありますが「例示を機械的にあてはめるのではなく、児童、保護者の状況、生活環境に照らして、総合的に判断する」ことであり、「児童虐待行為について告発が必要な場合には、躊躇なく警察に告発を相談すべき」とすることは、とても大事です。

個々の事情は違っていて、児童の救いをためらった時点で、虐待の被害は広がることになってしまうからです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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