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マンション騒音トラブルの防止をめざして! 床衝撃音予測計算法「拡散度法」のパンフを作成、是非ご活用を

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
騒音問題総合研究所作成

マンションでの騒音トラブル状況は悪化しています!

 前回記事の韓国ほどは酷くなくても、我が国のマンション騒音トラブルの状況はやはり悪化の一途を辿っています。5年に一度行われる国交省・マンション総合調査の最新結果によれば、全国のマンションでの騒音トラブル発生比率は44%にも上ります。5年前は38%、10年前は34%ですから、年々、増加傾向にあることが分かります。また、違法駐車やペット問題の発生比率は10%台ですから、マンションでの騒音問題がいかに多いかも分かります。一体なぜ、このような状況になっているのでしょうか。

 この原因の一つは、マンションの床構造自体の性能、すなわち上階からの騒音(床衝撃音)を遮断する性能が不足していることです。最近のマンションでは、床衝撃音の遮断性能の1級(日本建築学会適用等級)を確保できるように設計するのが通常です。これでも十分とはいえないのですが、この条件さえも実際には実現できていないことが調査データーなどで示されています。実現できているのは僅か1/3程度です。騒音トラブルに巻き込まれないためには、皆さんも、自分の住んでいるマンションの床衝撃音遮断性能がどの程度か、一度、確認しておくことが必要です。

 前々回の記事で示したように、人間は時代とともにどんどん他人の音に厳しくなってきており、この流れを止めたり逆に戻すことはもう不可能です。そんな状況の中で床衝撃音のトラブルを防ぐためには、建物側で性能の良いものを造ってゆくしか方法はありません。これに対し、韓国では建物が完成しても性能不足のマンションには完工承認を与えず、入居させないとの強硬な措置をとっていますが、我が国ではそこまでの対策はとてもできません。したがって、建築設計段階で正確な性能予測を行って良質な建物をつくるということが不可欠になるのです。

 その意味で、弊所(騒音問題総合研究所)が開発した床衝撃音性能予測計算法「拡散度法」を社会的に普及させてゆくことは、弊所の大事な社会的使命であると考えています。念のため申し添えますが、この床衝撃音予測計算法「拡散度法」のソフトは、無料で一般に提供騒音問題総合研究所ホームページでダウンロード可)されており、その普及活動は社会貢献のために実施されているものです。これまでも利用講習会の実施など様々な形で普及活動を続けてきましたが、ある時、ふと気が付きました。普及活動を進めるうえで大事なものが今までなかったのです。

「拡散度法」のパンフレットがなかった!

 床衝撃音予測計算法「拡散度法」については、これまで記事でも何度か紹介しています。拡散度法は、日本建築学会の学会賞を受賞(受賞名:「拡散度法による床衝撃音遮断性能の予測に関する研究」)した精度と適用性に優れたナンバーワンの床衝撃音の予測計算法です。現在、多くの設計事務所や音響コンサルなどで利用されていますが、最初に示したような現状を見ると決して十分ではないと考えられます。特に、マンションを供給するデベロッパーや建設会社などでの利用の促進を図ることが重要と考えています。

 拡散度法の更なる利用の拡大を図るためにはどうしたらいいかと考えていたところ、あることに気が付きました。拡散度法には、その内容を紹介するための詳細な解説書や利用マニュアルなどは用意されていますし、Yahooニュースの記事でもその使い方を紹介しています(記事:マンション設計に関わる建築技術者は、床衝撃音の性能把握ができるようにしておきましょう。簡単ですから!)。しかし、拡散度法というものの内容を簡易に理解するためのパンフレットやリーフレットの類のものがないことに気が付いたのです。

 解説書は200頁近くもあり、難しい理論や詳細な使い方が紹介されていますが、普通の建築技術者がこれを読もうという気にはなかなかなりません。そこで、内容が手軽に理解できる拡散度法の1枚もののパンフレット、すなわちチラシを作成することとしました。以下が、そのパンフレットです。

拡散度法パンフレット(表面)
拡散度法パンフレット(表面)

拡散度法パンフレット(裏面)
拡散度法パンフレット(裏面)

 このパンフレットは、一般の建築技術者に「拡散度法」とはどういうものかを簡単に知ってもらう資料として有効と思いますし、建築設計検討において「拡散度法」を利用した場合に、打ち合わせや施主などへの説明で、拡散度法の資料として利用できると思います。パンフレットのPDFファイルは、騒音問題総合研究所のホームページから、自由にダウンロードできますので大いにご活用ください。もちろんこれも無料で、会員登録も不要です。

住生活基本法の順守のためにも

 過去の記事でも紹介しましたが、平成18年に施行された「住生活基本法」の第八条では、住宅関連事業者は「住宅の品質又は性能を確保するために必要な措置を適切に講じる責務を有し、住宅に関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならない(要約)」と明記しています。

住生活基本法の一部抜粋(筆者作成)
住生活基本法の一部抜粋(筆者作成)

 「住宅の品質又は性能を確保するために必要な措置」の基本となるのは、適正な性能を確保できる建築設計であり、そのためには精度の良い各種計算法が必須です。床構造は特に重要であり、それによって決まる床衝撃音遮断性能は、集合住宅での生活の質(QOL)を決定する重要項目です。不作為の「住生活基本法」違反にならないよう、建築設計者には床衝撃音遮断性能の正確な予測検討を行って頂き、少しでもマンション騒音トラブルの防止に務めて頂きたいと切に願います。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。我が国での近隣トラブル解決センター設立を目指して活動中。

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